67:信頼
いつものように本を読んでいると扉をノックする音が聞こえた。
この時間にリオンの部屋を訪れるのはイサクだけだ。
「どうぞ」
「今日はリオンの好きなハーブティーだ」
「あら、それは嬉しいですね」
イサクと共に使用人が二人分のハーブティーを持ってきてくれた。
この国ではよく飲む、けれどもリオンの生まれた国ではあまり馴染みのないものだったが、何度か飲むうちに病みつきになりリオンは大層これを気に入っていた。
「この前の王妃とのお茶会はどうだった?面倒だろう、姑なんて」
「とんでもない。イリーナ様は私の目指すべき方ですよ」
「それは本音かどうなのか、だな」
ニヤッとイサクが笑い、リオンは両肩を上げおどけてみせた。
「そうだ、イサク様。幼馴染の方のこと少しだけイリーナ様から聞きました。てっきり私男の方かと思っていたのですが、女の方なんですね」
「……言ってなかったか?」
「いえ、どちらでもなく聞こえていたんですが剣術もやられるということを聞いて勝手に私が男性かと思ってました」
ふふっと笑いながらリオンが言うと、イサクは言いづらそうに聞いてきた。
「嫌だろう、結婚した相手の幼馴染が女だなんて」
「いえ、別に」
「それは本音だな」
そうイサクが笑う。
「会いづらくなったのが私と結婚したからなのであれば、私のことは構わず好きにお会いしたら良いですよ」
そう言うとイサクは笑ったまま首を横に振った。
「リオンが良くても、よく思わない連中もいるってことだ」
「あら、口うるさい方々なら私が魔法で何とかしましょうか?丸一日口が聞けなくなる薬も頑張れば調薬できますよ?」
「魔女リオンには敵わないな」
そうイサクは声をあげて笑った。
「イサク様、何度もしつこいようですが、一度お会いしたら良いですよ」
「リオンはそればかりだな。どうしてだ?何か自身の経験で後悔でもあるのか?」
その言葉にはリオンは答えない。曖昧に笑ってはぐらかした。
「リオンには、本当に敵わないな。その笑顔で今までどれだけのことをはぐらかしてきたのやら」
イサクは呆れた笑顔を浮かべていた。
「ねえ、イサク様。この前私のこと『嘘はつかないが本当のことは言わない』っておっしゃいましたよね。けれど私、ひとつだけあなたに嘘をつきました。あなたに『何を置いてきた』と聞かれたとき『置いてくるほどのものはない』と答えましたけど、それは嘘です。全部置いてきました。それが何かとか、そういう話はしませんけれどね」
そう笑っていうとイサクは驚いた顔をしていた。
「あら?私何かおかしなことでも言いました?」
「いや、リオンがそんな事を話してくれるなんて思ってもいなかったから」
「ふふ、イリーナ様からイサク様は滅多に踊らないと伺いましたので。踊ってくださったお礼に、特別サービスです」
そう笑うとイサクも同じように笑い返してくれた。
「私はここで得たものだけが私なんです。だから…そばにいてくださるイサク様には幸せでいてほしいと思うんです」
「リオンは…本当に優しいな。容姿も頭も、性格もだなんて、何がかけてるんだ?」
「……足りないものだらけですよ。自分の感情すらわからない、そんな人間でしたから」
無意識に窓の外を眺めぽつりと口から言葉が流れた。
「だからあの時、涙を流していたのか」
そうリオンと同じ窓の外を見てイサクが言ったがリオンはそれには答えなかった。
「なあリオン。俺たちは多分、似ている。だから手を取り合おう。足りない事を埋め合える相手ではないだろうけれど、足りない事を理解し合える仲にはなれると思っている」
そうはっきりとイサクの言った言葉に彼の方に視線を動かした。
真っ直ぐとリオンを見る瞳は随分と頼もしいものに見えた。
「そうですね」
そうリオンは花開くような笑顔で答えた。




