66:お茶会
その日、リオンはお茶会に参加していた。
相手はイサクの母親、現国王の第一王妃イリーナだ。
王妃と聞くとリオンにとっては自国の王妃が思い浮かんでしまい、最初こそ少し気が引けていたが今ではこの国ではまだ少ない何の気なく会える人の一人にまでなるくらい良好な関係を築いていた。
イサクのように話が上手く、穏やかなその王妃の性格は流石西の大国の王妃だと言わんばかりのものでリオンはなんとかそれを学ぼうともしていたので、今日のお茶会も楽しみにしていたのだ。
「今日もリオンさん、そのドレスお似合いね。最初はどう巻けば良いのなんて聞いていたけれど、もうすっかり慣れたようで」
「ええ、こちらのドレス、すっかり気に入ってしまいました。それにこの国の気候にもピッタリで、やはり衣類はその土地のものを身に纏うのが一番ですね。アランデムのドレスでここで過ごしたら暑くて倒れてしまいますので」
そう笑うとイリーナも笑い返してくれた。
「どう?こちらの生活は」
「ええ、もうだいぶ慣れて。それにお恥ずかしながらアランデムにいた頃よりも落ち着いて過ごせておりますのでもうこちらのほうが大好きです」
「あらあら。アランデムにいるご友人たちに怒られちゃいますよ」
そうふふっと笑いイリーナはイサクと同じ銀色の髪を揺らした。
その髪の色にリオンは見惚れていた。銀色とは少し間違えれば白だ。年老いて白になるのは悪いものではないが、やはり年齢を感じさせる。
けれども目の前のこの人の髪はまごう事なき銀色だ。
「やっぱり綺麗ですね、そのお髪。夜空に浮かぶ星の川のようで」
相手が姑だなんてことを忘れ思わず口にする。
「リオンさんくらいですよ、そんな何度も言ってくれるのは」
「ふふっ、思っていることを口にしてしまうだけです」
そう言うとまたまたっとイリーナは笑いながら一口お茶を飲んだ。
「そういえば、この前舞踏会に行かれたと聞いたけれどどうだった?」
舞踏会といえば急遽イサクに連れて行かれたあの時が最後だ。
「ええ、結婚式に参列してくださった方もいらしてて、改めてお会いできて良かったです。それに……イサク様ったら珍しく踊ってくださったんですよ」
「あら、あの子が?」
王子だから挨拶ばかりであまり踊らないものだとばかり思っていたがそれだけではないということがイリーナのその言葉でわかった。
「そんなに珍しいことなんですか?」
「踊りは面倒だってあまりあの子踊らないのよ。剣術ならいくらでもって剣を振り回して遊び始めるようなやんちゃな時代もあったくらい」
「イサク様にそんな頃があったんですね!良いお話を聞きました」
今度イサクと話すときに良い話のネタができたと思わずニヤニヤしてしまう。
そしてふと思い出したのだ、イサクの幼馴染のことを。
「あの、イリーナ様。もしご気分を悪くされたら申し訳ないのですが…」
現国王と幼馴染の父親は仲があまり良くないとイサクが言っていた。だからイリーナももしかしたらと思って前置きをする。
「急にどうしたの?私が気分を悪くするのは夏の直射日光に丸一日晒される時くらいよ?」
そうおどけて言うイリーナは王妃とは思えないいたずらっぽさを出していた。
「ふふっ、じゃあお言葉に甘えて。……イサク様に幼馴染がいらっしゃると聞いたのですが…」
「あらリオンさん聞いたのね、その話。てっきりイサクはリオンさんには話さないものだと思っていたわ」
「どういうことですか?」
「だって聞いて嫌じゃなかったの?」
「特に……何も私が嫌がるような内容ではなかったかと」
「あらあら、リオンさんは心が随分広いことね。誰も夫の仲の良い異性の友人の話など聞きたくないでしょう?」
「え?」
思わずイリーナに聞き直してしまう。
異性の友人、とはどういうことか。
てっきりイサクの幼馴染は男だと思い込んでいたリオンは驚いてしまった。
「イサク様の幼馴染は男性ではなかったのですか?剣術もやると……」
「そうね、あの子は剣も扱える。リオンさんが魔術を使うのと一緒よ。魔術に女も男もないでしょう?剣術も、人によっては、なのよ」
そうイリーナが朗らかに言うので随分と納得した。
「あの子たちは確かに幼馴染ね。けれど、それだけ。立場も生まれも違うから、たまたま学校で一緒になっただけよ。リオンさんは何も心配することないわよ」
「イサク様のことなので、心配するようなことはありません」
そう笑うとイリーナは、騙されないようにねっと笑って返してくれた。




