06:寝坊①
「リオン、朝だよ。朝ごはん、食べに行こ?」
そう肩を優しく揺らされて目が覚めた。
「ふぁ?」
寝起きで変な声が出た。
目を擦りながら大きく伸びをすると視界がはっきりしてきてサラの顔が見えた。
「起きた?もう朝よ。早く顔洗って、ご飯行こ?」
「え…朝?私いつ寝たんだ?支度するから待ってて」
そうむにゃむにゃと言いながら東向きの窓から散々と太陽が入り込む部屋で起き上がると、昨日履いたヒールで脚が疲れているのに気がつき、ふぅっと息をひと吐きた。
そのまま重い脚を動かし立ち上がるとふと視界に入った壁にかけてあるローブに手をのばした。
(あぁ、これ。私が着たいのはこれだよなぁ)
そう夜空の闇をもっと深くしたような濃い青色のローブに思わず頬擦りをしていると、後ろからサラに声をかけられた。
「朝から何やってんのよ、まだ寝ぼけてるの?置いてくよ」
その言葉に急いで着替えと化粧を済ませ部屋を後にした。
いつもより来るのが遅めになってしまった食堂は、朝食をとりに来ている生徒で溢れかえっていた。
給仕のおばちゃんから朝食を受け取り、空いている席がないかとキョロキョロと見渡すと遠くで手を振っている人が見えた。
「ねぇサラ、アーロンが」
そう言って手を振っているアーロンの方に顔を向けるとサラも気づいた様だ。
アーロンが人差し指を下に向け、ここ空いてるから来いという顔をしてきたので2人でそれに従った。
今日の朝の太陽の様な笑顔を向けてくるアーロンはその黄金色の短髪のよく似合う男だ。
父親が魔術騎士団に所属していて、自分もと言ってこの学校に通っているらしい。
騎士団の息子ということもあるのか、背も高く体格も良い。
アーロンがいる席の近くに来るとそこだけアーロンを囲み何故か何席か空いているようだった。
他の席はほぼ満席に近いのにも関わらず、そんな状況になっている理由は更に近づくとなんとなく、理解ができた。
「アーロン、おはよう。カイも、おはよう」
そうリオンが声をかけるとアーロンが快活な声で挨拶を返してくれた。
カイも「どうも」と小さく答えてくれた。
「いつも2人なの?」
サラはアーロンの隣に、リオンはカイの隣の席につきながらサラが聞くとアーロンが答えた。
「いや、いつもカイは朝もっと早いから別だ。けど今日コイツ、寝坊して俺が起こして一緒に来た」
「わー、私も今日寝坊してサラに起こしてもらった。奇遇だね」
そう言ってカイを見ると、カイはあまり触れて欲しくなさそうに目を逸らして食べかけのパンを手に取った。
「コイツ、自分が混んでる時間に行くと周りの席が無駄になるからって今日朝飯抜こうとしたから無理矢理連れてきたんだよ」
そう笑ってアーロンが言うとカイは「おい」とさほど大きくはない声でアーロンに反抗していた。
カイの近くに座りたがる人はそんなにいないようだがアーロンは同室ということもあるのか、そもそもの性格なのか、カイのことだって他の友人と同じ様に扱っている様で、その様子を見てリオンは少しほっとした。
アーロンを疑っているわけではないが、ミーナの様な態度をとる人がいるのだから、と少しだけ気になっていたのだ。
サラは恐らくカイとは初めて顔を合わすはずだ。けれどもそんなこと気にせず、だからと言って必要以上に接するわけでもなく、程よい距離感で4人で朝食をとった。
「カイ、寝坊って昨日夜遅かったの?」
「この前の……あの本読んでたら気づいたら真夜中だった」
「あれか!確かにあれは時間忘れて読んじゃいそうだ。じゃあ仕方ないね」
そう笑顔をカイに向けると向かいに座ったサラとアーロンから視線を感じた。
「なんだ、仲良いんだ」
そうアーロンに言われ首を傾げた。
「いや、リオンが2年になってから友達がクラスにいないって騒いでたからちょっと心配してたけど、安心したわ」
アーロンがそんなことを言うので思わず嬉しくなってしまう。
「アーロン、私の心配してくれてたんだね!嬉しい!本当サラもアーロンも、2人末永く幸せになってね。私もうお祝いする準備はいつだってできてるから!」
「はぁ朝から相変わらずリオンは大袈裟ね」
そういつものように呆れた笑顔をサラがリオンに向けた後は、なんてことのない話をしながら朝食をとった。
カイはほとんど話していなかったけれど。
一度部屋に戻り、教室に向かう途中カイの後ろ姿を見つけたのでリオンは小走りで彼の元に向かった。
「はい、本日2度目のおはよう。教室行くとこだよね?一緒に行こう」
そう言ってカイの横に並んだ。
「ねぇ、あの本で今のところ1番面白かったの何?」
そう聞くとカイはリオンを見下ろし視線を合わせた。
「単語が分からなくてはっきり分からないんだけど、時間を巻き戻したり止めたりする魔法があったみたいなんだ」
それを聞いて思わずリオンは驚き大きな声を上げてしまった。
周りの生徒がなんだと言わんばかりにリオンの方を向くので、ペコリと誰に当てるわけでもない礼をした。
「それって、すごくない?」
「そうなんだけど、単語がはっきりわからない上に意図的に一部ページが綺麗に抜き取られてるから、恐らく閲覧禁止事項として図書室で管理されてるんだと思う」
「なんか凄いね。やっぱり大昔の魔法使いや魔術師は私たちの想像を超えてるんだなぁ」
「昔は今のような体系だった魔術よりももう少し理由のつかない力を使った魔法の方が重用されていたようだからな…どんな世界だったのか見てみたい」
そう少し目線を上の方に向け言うカイの表情は初めて見る、随分と子供っぽい顔をしていたのでリオンは少し嬉しくなった。
まだそれほどたくさん話したことがある訳ではないが、少なくとも魔術や魔法のことに関しては心を開いて話してくれるのかと感じたからだ。
教室に到着し、ミーナたちの席に自然と向かいその日も授業を受けた。
ミーナたちとは仲良くしてもらっているが、正直なところサラやアーロンのような関わり方ができない。
ほんの少しだけ、女同士の「何か」があるように感じる瞬間があり、いまいち心を開ききれないのだ。
けれどそんなことを思っているなんて知られたくもないし、だからと言って他の誰かと仲が良いわけでもないのでそこに自然と加わっている。
(今日も図書室行こうっと)
今日最後の授業が終わる5分前にリオンはそう思い、授業が終わったと同時に図書室へと足を向けた。




