05:城と王女
その日、リオンは城にいた。
隣国の国王がやってくると言うことで晩餐会の相手をすることになったのだ。
面倒だな、と思いながらも学校に通わせてもらう条件なので仕方がない。
学校から少し離れた、近くの人目につかないところまで馬車に迎えに来られ城にやってきた。
自室に入り、自分の部屋なのにも関わらず随分と他人行儀をしている家具やドレスが並んでいる様子を見ると思わずリオンはため息をついた。
そうしているとコンコンとドアをノックする音が聞こえたので入室の許可を与えた。
「お着替えの手伝いに参りました」
そう淡々と話す使用人は見ない顔だった。リオンには固定の使用人などついていないのだから見ない顔なのはいつものことだ。
「いえ、自分でできますので、下がっていただいて結構です」
そう言うとその黒髪の使用人は一礼をして部屋から出ていった。
(さてと、準備するか)
そう気持ちを切り替え、第二王女としての顔を貼り付ける。化粧はもちろんいつもの幼く見える化粧などせず、その顔立ちを一番よく見せるものを自分で施した。
着るドレスは客としてくる相手の国の色、青色をしたドレスだ。胸元の刺繍とビジューは繊細で美しく、年頃の女であれば誰しもが一度は着たいと思うような綺麗なものだ。
けれどもそのドレスを見てリオンは思う。
(学校のローブの方が着たいな)
リオンは自分でも驚いていた。
身を守る魔術を、という想いから通い始めた学校だったが、そこで習うものが自分の興味関心を強く惹くもので、思っていた以上にのめり込んでいたのだ。
だからカイに褒められた時、随分と嬉しかった。自分の興味関心を認められることなどこの城では一度としてなかったのだから。
ひとつ短くため息をした後、もう一度、よし、と気を引き締め直し着替え始めた。
晩餐会は舞踏会形式だった。また踊るのか、と内心思いながらもリオンの顔は学校では決して見せるものではないものになっていた。
その眼差しは真っ直ぐで、口元には常に少しの微笑みを携え、ピンと伸びた背筋はそのドレスを映えさせるものだった。丁寧に結い上げられた髪から少しだけ流れるうなじの後れ髪が17歳という本当の年齢を疑うほどに色気を纏っていた。
「またお会いできて、光栄です」
そうリオンが丁寧に挨拶をした相手は北の隣国の国王だった。
「やぁ、リオンさん。相変わらず麗しゅうございますな」
そう頭のてっぺんから足の先までを舐めるように見てくるこの人のことをあまりリオンは快く思っていない。
何度も顔を合わせたことがあるし何度も踊ったことがある。
けれどその度に目線の位置や手の位置がいちいち気に食わない場所にあるのだ。
(スケベじじぃめ)
心の底からこの人が国王で、王子なんかではなくてよかったとそっと心の中で悪態をついた。
年齢的に王子であれば、自分と結婚させられる可能性はゼロではない。どうせ自分には選択権などないとわかってはいるものの、こんな欲にまみれた人間は御免だと思う。
ただ同時にリオンは思う。
自分だって、その女というものを武器にこの城で生き延びてきた。自分がもし母親譲りのこの容姿でなかったのなら今頃どうなっていたのか。
そう思うと人のことをあれこれ言えたものではないと心の中で自分を嘲笑った。
「一曲踊っていただけるかね?」
「えぇ、喜んで」
そう花ひらく様な笑顔で、リオンは差し出された手を取った。
晩餐会が終わり逃げる様に門限の延長申請ぎりぎりの時間に寮に戻ってからはしばらく横になっていた。
城での行事に出た後は大体リオンはこうしている。
城にいる間は随分と気を張っているため、戻ってくると疲れからなのか安心するからなのかいつもこの感じだ。
同室のサラはリオンがどこに出かけ、何をしているかなど問うこともなく、リオンが話しかければ答えてくれるし、話しかけなければ放っておいてくれる。
リオンにとってこの上ない友人だ。
そんなサラの優しさに包まれながら、気づけば深い眠りについていた。




