52:笑顔と本心
「カイ!」
誰だと思い振り返るとサラだった。
「ちょっと…良い?」
そう言われ階段の踊り場の隅に引き止められた。
「リオンのこと…聞いてた?」
首を横に振る。
「そっか……なんて聞けばいいかわからないけど、良いの…?」
「良いも何も、リオンは元々そういう生まれだろ?俺が良いも悪いもないだろ?」
「けど……カイ、リオンのことさ……」
自分がリオンのことを特別に思っているのはサラはもちろん、多分アーロンも知っている。
知らないのはリオン本人くらいだ。
「……前からわかってたことだから。だからどうこうしようなんて思ってなかったし。サラが言ってた通り、卒業まで楽しむだけだろ?」
そういうと何故かサラが泣きそうな顔をする。
「後悔しても、知らないよ…?」
その言葉に軽く笑い、サラをその場に置いて図書室に向かった。
リオンは一度寮に本をとりに行くと言って先に教室を出ていたのでもう図書室にいる頃だろう。
いつも通り、図書室への道を歩くがどうにも足が重い。
(さっきのサラの言葉のせいか…)
もう図書室は目の前だったけれども、なんだか入れる気がしなくカイはあの食堂の裏の広場へ向かった。
芝生が、気持ちが良い。
初夏の香りがするその日は、芝生に寝転がるのが随分と贅沢に感じる陽気だった。
春から初夏にかけてこの学校の至る所に咲くリナリアの花もまだ咲いて風に揺れている。
カイは仰向けになりボーッと空を見上げていた。
(どうもこうも、ない)
そう自分に言い聞かせる。
左腕を目元に当て目を瞑ると、初めてリオンとここで話した時のことを思い出していた。
(あの時のリオンは嵐みたいで、こんな風になるなんて思ってもなかったな)
腕を目元からどかし空に向かって一息溜息をはいた。
(でも、今でも嵐のようなもんか)
流れる風が葉を揺らし、肌を撫でていく。
「あ、やっぱりここにいた!」
その声にハッとし思わず体を起こす。
「図書室来ないし、天気良いからこっちかなって思ってきちゃった」
そう笑うリオンはいつも通りだ。
「休憩中?本読んでない」
「そんなとこ」
「じゃ、私も休憩しよっと」
そう言ってゴロンとリオンは芝生に横になった。
「……夏休み、またカイの家行きたかったなぁ」
ポツリとリオンが言う。
本心かと聞かなくてもわかるくらい、リオンの言葉はいつも素直だ。
「母親も次いつくるの?って何度も聞いてくるよ」
「うそ、嬉しい。でも、流石にもう身バレしてるからカイの家も行きづらいもんなぁ……」
「まぁ、それはあるな」
「でもさ!」
そう言ってリオンは起き上がりカイを見る。
相変わらずリオンの髪には芝生がついて、とってやろうか手を動かそうとした瞬間、リオンの言葉でその手は止まった。
「カイやエミリアさんがハンザともし契約することがあったら、また会えるかもしれないよね?」
(そんなところ、行きたくなんかない)
「そうだな」
リオンがカイの言葉にニコッと笑うのでその笑顔に微笑み返した。
(何でそんなに無邪気に笑うんだ)
(他の人間のものになったリオンなんて、見たくない)
思わず握った地面の芝生がプチっとちぎれる感覚がした。
やけに気持ちが良い太陽も、風も、リナリアの花も、全部、消えてしまえばいい。
そう心の中で思った。




