53:西の国①
あわただしい毎日は過ぎ去り、気づけば夏休みに入ろうとしていた。
リオンはハンザに向かう準備のため、夏休み前の試験を終えた後、他の生徒よりも一足早く学校を休み城にいた。
試験結果はまだ公表されておらず結果が気になり後ろ髪を引かれながら学校を後にしていた。
ハンザに行くことが決まってから、ニメアや第二王妃、その子供たちはリオンに興味がなくなったかのように嫌がらせはパタリとやんでいたため城での生活も、昔よりは穏やかなものになっていた。
夏の準備と合わせて、来春の婚姻を国民に広めるための準備も進めると言われ、ドレスや持参品などの選定が行われていた。
(正直何でもいいや。ドレスは似合うのさえ用意してれるのなら)
リオンにとってはその程度のことだった。
相手がどうとか、ハンザの暮らしがどうとか、特別な感情もなく、仕事だ。
たまたまそれが「婚姻」という形を取るだけであり、自分にはそれに抗うだけの権力も何も持っていない。
持っているのは学校で学んだ、知識だけ。それだけで十分だとリオンは思う。
ちょうど学校の夏休みが始まるのと同じ日に、リオンのハンザの王子との婚約が発表された。
街は久しぶりの慶次に心躍っているようだった。王族を恐れている国民が多いのにも関わらずこんなにもめでたい雰囲気になるのだから不思議なものだ。
(こんなに街が喜んでくれるのなら、それはそれで良いことなのか)
そうリオンはハンザに向かう馬車の中で思っていた。
片道だけで5日間。
途中何度も休憩や宿泊のために色々な街に立ち寄った。
湖の近くの街、森林に囲まれた街、珍しい温泉の湧く街、そのどれもが初めて行く場所でリオンの好奇心をくすぐった。
無事にハンザに到着するとイサクが早速歓迎してくれた。
「遠かっただろう?」
「ええ、けれど面白いものをたくさん見れました。前にイサク様がおっしゃっていた湖の街にも寄ってきて、あんな綺麗な湖があるなんて知らなかったので…楽しかったです」
「それは良かった。今日は少し休んでくれ。明日から、城のことなど案内する」
そうフッと笑うイサクは相変わらず感じが良い。
「ありがとうございます。……無事に私の国でも婚約が公になりました。正直あまり実感はなかったのですが、街があんなに踊るようになるとは思っていなかったので、嬉しいものなんですね」
「……こちらも同じだ。リオンのことを、皆歓迎している。東の美姫が来るって大騒ぎだ。それに、どうやらリオンはその容姿だけでなく、頭も良いみたいだな。風の噂で聞いた」
「足りない頭を振り絞ってつかっているだけですよ」
学生達が家族にリオンのことを話し、それが勝手にどこからか風に乗って伝わったのだろう。
「この国にもたくさん魔術や魔法の本がある。そちらのものとは少し違うとも聞いているから、今回は難しかったが、いずれ沢山書物も用意する。楽しみにしておいてくれ」
「え、本当ですか?とっても嬉しいです!」
そう思わず少し勢いよく言うとイサクはリオンに微笑んだ。
ハンザの王都は乾燥地帯の中にある貴重な森林の中に作られた街だった。
その街の中にはこれまた貴重な川が流れ、その川を中心に街が作られているようだった。
大きな土地を持つハンザの中でわざわざ乾燥地帯に王都があるのは、ここが貿易の通過点であるというのが最大の理由だろう。
夜になり用意された部屋から窓の外を見上げるとリオンの国よりも随分と大きな月が空にぽっかり浮かんでいた。
(あぁ、この景色、みんなにも見せてあげたい)
そう思いながら窓の外を眺めた。




