50:外出
あの日を境に、クラスではもうミーナ達と一緒に座ることはなく、カイの隣に座るようになった。
自分と一緒にいることでカイに迷惑がかかると思っていたけれど、カイは、もう無理して大して仲が良い訳でもない人たちと一緒にいるのはやめたら?と言ってくれたのだ。
リオンにはサラもカイもアーロンもいる。
それだけで十分だ。カイの言葉にそう思って学校生活を送るようになった。
他の生徒がリオンに向ける視線はこれまでとは全く別のものになった。
ガラリと変わった学校での暮らしに最初こそ慣れなかったが、そのうち隠すことがなくなってどこかリオンは気楽になっていた。
3年生最後の試験は相変わらず2位だった。残す試験は4年生の間にあるあと2回だ。なんとかそのどちらかでカイを抜かさなければなんて思っていると、気づけば春になりリオンは4年生になっていた。
4年生のクラスはいろんな状況を察してなのか、ついにサラもカイもアーロンも4人一緒のクラスになったのでリオンはクラス分けの発表の日に随分と喜んだ。
「リオン、明日授業終わった後お城行く予定とかある?」
寮の部屋でサラが聞いてくる。
「え、ないよ。いつも通り図書室かな」
「じゃあさ、ちょっと出かけない?4人で」
「え、どこに?」
「この前この学校のすぐ近くに美味しいご飯屋さんできたらしいんだよね。学校のすぐ近くならリオンも大丈夫でしょ?」
「え、何それ気になる。行きたい」
以前は王女と知られていなかったので外出許可だけとれば何事もなく出かけられていたが、学校中に知られた今、流石に城以外に出かけるとなると学校側も渋い顔をして中々リオンに許可を出してくれなくなっていた。
「じゃ、明日行こ!アーロンがカイには声かけてくれるって言ってたし、カイ、図書室以外やることないだろうから決まりね!」
そう言われ翌日、なんとか外出許可を取りつけ4人でサラの言っていた店に向かった。
店は随分と繁盛しており、サラが予約してくれていなかったなら入れないほどだった。
「すっごい賑わってるね!なんか楽しい!」
そうリオンが無邪気に言う。
「リオン、城で良いもんばっか食ってるから味わかんねぇんじゃないか?」
アーロンが言う。彼はリオンが王女だと知ってから度々こういうことを言うが、他の人が言うと嫌味に聞こえるのに彼が言うと嫌味じゃないのが不思議だ。
「学校入ってからほとんど食堂だし、城の料理って量も多いから食べきれなくて申し訳ないし、これでもかってだされるからなんか疲れちゃうんだよね。だからこういうところくるのすっごく楽しい」
そう話しながら料理が出来上がるのを待った。
出てきた料理に4人とも目を輝かせた。
南の国でよくとれるという野菜や魚介をふんだんに使った料理だ。この国で取れるものとはまた一味違っていてその珍しさと、食欲をそそる香りに顔を綻ばせた。
「うーん、美味しい!やっぱり噂通りね!」
そうサラが言う。
「これ、なんのスパイス使ってるんだろう?ピリッとするけど辛くなくて病みつきになる」
「やべぇな、うまい、これ!」
リオンとアーロンが続くがカイは黙々と食べている。
ひとしきりその店の看板メニューを食べ終えて、お腹も随分膨れてきた時だ。
座っていたテーブルに小さなケーキが運ばれてきた。
「あれ、これサラ頼んだの?」
リオンが聞くとサラはニヤニヤし始めた。
「リオン、お誕生日おめでとう!!」
「えっ?」
訳もわからず3人の顔を見るとみんなリオンを見て笑っている。
「リオン、今日誕生日でしょ!毎年なんだかんだでいなかったりしたからお祝いできなかったけど、今年はお祝いできて良かった!」
小さなそのケーキには「誕生日おめでとう」とメッセージが添えられている。
「さて、リオンさん、19歳の抱負をどうぞ」
そうサラが聞く。
やっと状況が飲み込めたリオンは思わず感動の涙を流した。
「う……ぅわーーん!なんで、そんなにみんな優しいの?嬉しすぎて泣けてきたぁあぁあ」
「相変わらず大袈裟ね。で、抱負は?」
いつもと変わらぬ呆れた笑顔をサラが向ける。
「ほ、抱負……今日のこと、一生忘れないこと…」
アーロンがその言葉に笑った。
「19歳のって聞いてんのになんで一生なんだよ」
「え、え、じゃあじゃあ……カイの成績抜かす…」
そう言うとカイがまたそれかと言わんばかりの顔で笑った。
「まぁ、それはせいぜい頑張りな」
サラが言った。
こんな誕生日は初めてだった。
城にいた頃は形だけの儀式のような誕生日会が開かれ、学校に通い始めてからはサラの言う通りなんだかんだで城に行ったりしてみんなで過ごすことなどなかったのだ。
学校最後の年にまさかこんなに幸せな誕生日を迎えられるなど思ってもいなかった。
「みんな……ほんとにありがとう…」
そう言ってリオンはまた嬉し泣きした。
「この国の王女様は随分と泣き虫だな」
そうアーロンが言うのでリオンの顔は笑っているのか泣いているのかわからない顔になった。
(一生、忘れない。忘れたくない。何があっても、絶対に)
そうリオンは思った。




