47:新しい出会い
「初めまして。リオンと申します。今日は遠方はるばる、ようこそお越しくださいました」
そう言ったリオンの顔は朝エミリアに会う前のものもは比べ物にならないものだった。
花が綻ぶ、花が開く、そんな言葉では言い表せられないくらい、美しいものだった。
「初めまして。イサクだ……噂はかねがね。本当に美しい方だな」
そうリオンに笑いかけた人は西の隣国ハンザの王子だ。年齢はリオンと同い年らしい。
リオンよりも背が高く、銀色の髪がサラリと揺れ、丁寧なその身のこなしがよく似合う青年だ。
ついでに西の国の国王は病がちらしく実質的に国政を担っているというこの人だが、権力に似合わない柔らかさを感じさせる印象だった。
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
そう言って用意されていた席に座り雑談を続けた。
(思っていたより感じが良くてよかった)
ハンザの王都はここまで馬車で5日はかかる。どう頑張ったって往復で10日間はかかる道のりなのだから、ここに来たということは、きっとリオンは西に飛ばされるのだろうとこの日覚悟をほぼ決めた。
イサクはここに来るまでの道であったことや、リオンが行ったことのないハンザの王都の話など、興味が湧くように次から次へと話してくれた。
初めて会った他国の王族の中では随分と親しく話せる相手であったので、リオンは驚いていた。少しばかり何か裏があるのではと怪しんでしまったのは勿論だけれども。
午前から城の案内、昼食、晩餐会までほとんど全ての行動を共にしたが、最初の印象通り、嫌な感じは特になかった。
きちんと王族同士の礼儀を弁え、かと言ってよそよそしいわけでもないその距離感はリオンに少しずつ安心感を与えた。
晩餐会が終わり少し2人で話そうと誘われ、人の目の少ない部屋の暖炉の前に座り話しはじめた。
「あまりオブラートに包んだ話が得意でなくて」
「どうぞ、お気の召すままに」
「今回私たちが来た理由は、君を西に、そしてそちらの港の融通をと言う話だ。うちは海に面していないからな。そのかわり、西への貿易のルートをそちらに確保する」
キュッとしたイサクの視線は西の大国の王子のものだといことが一目でわかる様だ。
「えぇ」
「あなたは、嫌ではないのか?」
「元々、こういう生まれですし、そういった思いはございません。それに、相手があなたなのであれば、失礼ながら安心してしまいました」
そう笑ってリオンが言うとイサクも微笑んだ。
「ただ…」
「ただ?」
「1年だけ、待っていただくことはできませんか?」
「1年?何かあるのか?」
前なら隠していたことなので言えなかった。けれどもう学校に通っていることは生徒たちに知られているだろう。もういいやと思いリオンは口にした。
「実は学校に通っておりまして。あと1年で卒業なんです」
「なんの?」
「魔術学校です」
「王女が魔術とは…珍しいな」
「いずれ一人でどこかに嫁ぐ身なのはわかっておりましたので、自分の身くらいはと……なんて失礼しました。イサク様がどうと言う話ではありませんので」
うっかり言ってしまい少しリオンは焦り笑って誤魔化した。
「面白い方だな。…1年か……ちょうどこちらも、色々と整理ができるからありがたい。あなたのお父様にも掛け合っておこう」
そうイサクはふっと笑うと立ち上がり部屋を後にしようとしたため、リオンも立ち上がった。
「リオン、と呼んでも良いか?」
「ええ、もちろん」
「そのうち、私の国にも一度来たら良い。歓迎する」
「嬉しい限りです。是非」
そう笑うとイサクは部屋を後にした。
翌朝イサク達が帰国の途につく時までリオンは一緒に行動を共にした。
イサクは聡明な人のようで、前日これでもかと言うほど話をしていたのにもかかわらずその日もリオンをはじめこの国の王族達を楽しませていた。
けれどもそんなイサクを見てリオンは思った。
自分にどこか、似ている気がする、と。
リオンが王女というものを演じているように、彼は王子というものを演じているのではないか、と。
何も根拠などないが、直感的にそう思ったのだ。
「この度は本当にありがとうございました。また、お会いできる日を楽しみにしていますね」
リオンがそう言うとイサクは、あぁと言いながら握手を求めるように手を差し出してきた。
「まずは勉学に励んだら良い。また、会う日まで」
その言葉にリオンはハッとした。この城の中で、勉学のことを初めて肯定された気がしたからだ。
差し出された手を握りたおやかな笑みをリオンは浮かべた。
「はい、またその日までどうぞお元気で」




