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21:死ねない理由!

「本当にごめんなさい! まさか、お嫁さんがそんな傷だらけで倒れそうになってまで坊を探すなんて思わなくて……いや、坊を求めてくれるだろうとは思ったんだけど、あそこまでアクティブだとは思わなくて。不安な思いをさせてしまった上に、怪我を負わせてしまって申し訳なかったわ」

「柊、薊は結界の中を駆けずリまわってナイフを探し出し、首を突こうとする女だぞ。せめて、菖蒲の許可をもらってからにしてくれよ……薊、すまなかったな。菖蒲は柊にとって息子みたいなもんだから、暴走しちまったようだ」

「大丈夫です……転んで擦りむいただけなので」


 夜に、薄と柊が菖蒲の家にやって来た。柊には、ものすごく謝られた。

 菖蒲と私に気持ちの整理をさせる為にあんなことをしでかしたらしいけれど、結果としてそれは成功している。


「でも、坊。これで、お嫁さんの気持ちは分かったでしょう? 彼女をこの家に閉じ込める必要なんてないのよ」

「……うん、そうだね」


 後ろから私を抱き締めながら、菖蒲が首を縦に振った。


「では、お互いの気持ちが通じ合ったことだし。きちんと祝言をあげなくてはいけないわね」

「祝言?」


 聞き返した私に、柊は満面の笑みを向けた。


「ええ、そうよ! 坊のお役目上、そんな大規模なものはできないけれど。長も祝福してくれると言っていたわ!」


 いつの間にそんな話を……

 薄が呆れ顔で、妻の顔を眺めている。またもや、柊は彼女の独断で事を運んでしまったようだ。

 祝言って……結婚式のことだよね?

 菖蒲と引き離されるのは嫌だけれど、そういう計画なら嬉しいかもしれない。

 柊は、菖蒲に小声で何かを話した後、薄と共に帰って行った。毎回、あの夫婦は急に現れて急にいなくなる。


「あの、菖蒲……少しいいですか?」


 菖蒲との結婚を真剣に考えた上で、私には少し気に掛かっていることがあった。

 彼の年齢は千二十二歳で、私は十六歳。私は人間だから、長生きしても八十前後までしか生きられないだろう。

 薄は今、三千歳だというから、菖蒲は私が死んだ後もまだまだ生き続けることになる。そのことについて、菖蒲に確認をしておきたかったのだ。


「どうしたの、薊?」


 縁側に二人並んで空を見上げる。

 今日は曇り空らしく、雲で月が隠れていた。


「天狐って、再婚できるのですか?」

「いきなり何の話? 天狐は人間と違って再婚なんてしないよ。自分の相手に出会って雨が降るのは、一生に一度きりだから」

「……そうですか」


 少し気落ちした私に、菖蒲は細めた目を向ける。


「薊は、私以外の相手と再婚がしたいの?」

「は? 違いますよ! そうじゃなくて……菖蒲が」


 私は居住まいを正し、菖蒲の方を向いた。


「私は人間ですから、長くてもあと数十年の命です。対して、菖蒲は長生きだからまだまだ生きますよね? 私がいなくなった後で、菖蒲に寂しい思いをさせてしまわないかが心配だったんです」

「薊……」


 ブワリと、菖蒲の背後に尻尾が現れる。最近、彼の尻尾を見る機会がとても増えた。


「心配要らないよ。天狐の夫婦は寿命も共有するものだし。私の寿命はもうとっくに薊に与えてある。死ぬ時は一緒だ」

「んん?」


 寿命を、与える!? いつの間に!?


「……それって、菖蒲の寿命が減ってしまうということですよね? 駄目ですよ、戻してください!」

「薊は意地悪だね。私に、一人きりで長い時を生きろと言うの? 薄と柊だって寿命の共有はしているはずだよ。天狐は年の差婚が多いから」

「でも……私の、人間の寿命は天狐に比べると極端に短くて」

「私達はあと数千年は生きるよ? 寿命が半分になったって、二千年は超えるはずだ。気の遠くなるような長い時間だけれど、私と一緒に生きてはくれない?」

「え……?」

「短命な人間から見ると、苦痛なほど長い寿命だと思う。でも、私は薊と共にいたいんだ」


 菖蒲は、縋るような目で私を見た。


「……菖蒲自身は、それでいいのですか?」

「私がそうしたいんだ。薊と一緒なら、この先も番人としてこの場所で生きていける」


 私は菖蒲の瞳をそっと見つめた後で、一つ頷いた。

 すると、菖蒲の頭の上に三角の黒い耳が現れる。気が高ぶっているのだろう。

 菖蒲の寿命を貰うなんて申し訳ないことだけれど、彼がそれを望んでいるのならそうしようと思う。菖蒲が辛い思いをする方が、嫌だから。


 それにしても、最初は自殺するつもりだったのに、随分と寿命が延びてしまったものだ……

 菖蒲と寿命を共有しているとなると、もう命は粗末にできない。

 私は菖蒲に手を伸ばし、手触りの良い彼の耳を撫でた。

次回最終話予定です。

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