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22/46

22:狐に嫁入り!

最終話です。

「……」

「薊、綺麗だよ」

「菖蒲」


 白無垢に身を包んだ私は、ガチガチに固まって紋服姿の菖蒲の隣に並んでいた。

 場所は菖蒲の家だし、周囲にいるのは薄と柊と長という見慣れた顔ぶれだ。以前、柊が言ったように小規模な祝言である。

 けれど、私は他人から注目されるということが苦手だった。そして、祝言の仕来りなどというものは全く知らない。

 隣についてくれている柊に言われるままに動く。彼女がいてくれて助かった。


 いつの間にか、天狐マジックで結婚式仕様になっている家の座敷で、菖蒲と盃を交わす。

 菖蒲は、始終優しげに目を細めて私を見ていた。なんだか、面映い。


「仲の良いことよのう」


 長が楽しげに笑うと、薄が彼女に向かって声を掛けた。


「な? この二人なら大丈夫だろう。姉貴も安心したか?」

「そうじゃの……」


 長は扇で口元を隠しつつ、頷く。

 その言葉に、私は思わず二人の方を見た。


「え……姉って……!?」

「薄は、長の弟だよ。二人とも白いでしょう?」


 菖蒲の説明に私は唖然とした。


※


 無事に祝言を終えて、菖蒲と二人で彼の部屋の縁側に腰掛ける。いつも通りの光景だ。

 空には満月が見える。


「薊の結界を解いたよ」


 不意に、菖蒲が私を見た。


「結界?」

「うん。これからは、薊は自由に外に出られる。戻ろうと思えば、人間の世界にも戻れるんだ」


 私は菖蒲の力により、家の外に出られるようになったらしい。

 あの鳥居の道を下って行けば樹海に出られるのだろう。けれど……


「人間の世界には興味ありません」


 私は、菖蒲にそう告げた。


「神社を見にいくかもしれません、裏山も散歩するかもしれません。でも、この家に戻ってきます」

「……うん」


 菖蒲が、そわそわしながら私の手を握る。

 彼が不安に思うのなら、私は何度でも彼にそう伝えるつもりだ。菖蒲が私に何度も好意を伝えてくれたように。


「もう冬ですから、雪が降ったら雪だるまを作りましょう。春になったらお花見もしましょう……桜の木があるか分かりませんが」

「神社のはずれに、大きいのが一本あるよ」

「楽しみですね」


 私の言葉に、菖蒲の尻尾が返事を返した。

 菖蒲は私がここから出られないことを気にしているけれど、私はこの環境が気に入っている。信用出来る人達としか会わずに済むからだ。

 私にとって菖蒲の家は、この上なく居心地の良い環境だった。


「ふふ……薊、私に似てきたねえ。やっぱり、力を共有しているからかなあ」


 私の瞳を覗き込みながら、菖蒲が意味不明なことを言う。訝しげに菖蒲の目を見返すと……彼の金色の瞳の中に、自分の顔が映っていた。


「あれ? 私の顔ってこんなのだっけ?」


 何故か、自分の顔に違和感を感じて、菖蒲の部屋の鏡台の前へと移動する。

 鏡に映った私の瞳の色は……


「お揃いだね、薊」


 私の隣に腰を下ろした菖蒲の瞳と同じ色だった。


「ちょっと、菖蒲。勝手に私の目の色を変えないでくださいよ。天狐みたいになっちゃっているじゃないですか!」

「寿命をあげたらそうなったんだ。戻したら寿命も戻っちゃうから無理。徐々に瞳の色が薄くなってきているなあとは思っていたのだけれど、完全に金色になっちゃったね」

「待って下さい、菖蒲……徐々にって。菖蒲は、一体いつから私に寿命を分け与えていたのですか?」

「そんなの、初めて出会ったときに決まっているでしょう? 薊を結界の中に押し込めるついでに、寿命も共有しておいたんだよ」


 目の前の鏡に、嬉しそうに口元に弧を描くイケメンが映っている。

 その隣には、驚愕の表情を浮かべている金色の目の女がいた。


「そう、ですか……私、自殺しなくて本当に良かった。知らなかったとはいえ、菖蒲の命を無駄に散らしてしまうところでした」


 それは私の心からの言葉だった。彼には他に、いろいろと言いたいことがあるけれど……

 菖蒲は私の背後に回り、黙って髪を撫でている。

 私は、そんな彼を振り返り、自分と同色の瞳を覆う瞼に控えめなキスを落としたのだった。


 その後、私と菖蒲は狭間の境界に建つ家で、長くて幸せな一生を過ごすこととなる。

最後までお読み頂きありがとうございますm(_ _)m

番外編を一話だけ投稿する予定です。

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