20:一世一代の告白!
「菖蒲、そんなに張り付いていなくても……私は平気なんですけど」
現在、衰弱状態の私は菖蒲の部屋の布団に寝かされている。
布団の脇には、どんよりと落ち込んだオーラを纏った菖蒲が常時待機していた。
「こうなったのは私の所為だ。私が、薊を信じきれていなかったから……柊が君を試すようなことをして本当に申し訳ない」
「試す? そう言えば柊さんは?」
「術の反動でひっくり返ってるけど、明日になれば回復してるんじゃない? 私の為などと言って余計なことをするからだよ」
菖蒲の言葉に、私は首を傾げた。
「菖蒲の言っている意味がよく分かりません」
「私はずっと恐れていたんだ。薊の心が自分には向いていないのではないかと。菖蒲が傍にいると言ってくれた時も、完全に信じることができなかった。この家の結界を解けば、薊は絶対に私の傍からいなくなると思い込んでいたのだよ」
「それは……どう考えても、私の今までの行動が原因でしょう。菖蒲の謝ることじゃないです」
「でも、柊に言われた。そんな関係は正常な夫婦ではないと。不安なら無理矢理薊を閉じ込めるんじゃなくて、薊の心が自分にあるかどうか確かめればいいと……それで、柊は私の許可を待たずにそれを実行に移した。薊が狭間から消えて、私は発狂しそうになったよ……柊と薊を二人きりになんてするんじゃなかった」
そう言って、菖蒲は私の隣に寝転ぶ。
「私はすぐに薊を探したよ。でも、狭間の外を探すとなると黒狐には色々と制限が掛かってね……見つけるのが遅れてしまった。最後は無理矢理空間をねじ曲げて破壊して、外との道を繋いだんだ。薊が狭間と繋がりやすい樹海にいてくれて助かったよ……まさか、自分から私の元へ戻ってきてくれているなんて思っていなかったから」
嬉しかったんだと呟く菖蒲は、今にも泣きそうな表情をしている。
私は、彼に手を伸ばした。
「菖蒲、迎えに来てくれてありがとうございます」
「それは、私の言うべき言葉だよ。私の元に帰ってきてくれてありがとう、薊。迎えに行くのが遅くなってごめんね……」
辛そうな表情はそのままで、菖蒲は私の手を握った。
「……菖蒲が好きです」
「え?」
「私は、菖蒲が好きなんです。あなたと離れて思い知りました。菖蒲がいないことが、とても不安で辛かった……」
寝転んだ菖蒲の方へと、私は縋るように腕を伸ばす。彼の頬が朱に染まった。
ぎこちない動作で、菖蒲は私の背に腕を回している。
「もう少しお休み。私の所為で薊に無理をさせてしまった。あちらこちらに、そんなに傷を作って」
「ただの擦り傷じゃないですか、すぐに治りますよ……それよりも菖蒲、さっきからずっと尻尾が出っぱなしです」
「うん、ごめんね。こんな状況なのに……薊が自発的に戻ってきてくれたのが嬉しくて、嬉しくて。自分でもどうにもならないんだ」
空中をブワリと舞う大きな黒い尻尾。それすらも、今の私には愛おしく感じられる。
私を背に乗せて連れ帰ってくれた菖蒲は、初めて見る黒い狐の姿だった。毛並みの美しい黒狐。その目はやっぱり金色だ。
「菖蒲」
「ん、どうしたの?」
「あの、菖蒲が嫌でなければですが、私を……」
私は決意が揺らがないうちに、まっすぐに彼の目を見て告げる。
「私を、菖蒲のお嫁さんにしてください!!」
言った。言い切った!
恐る恐る、私は菖蒲の反応を伺う。菖蒲は驚いたように、瞬きを繰り返していた。
「薊、いいの? どうしたの、急に」
「悟ったのです。私、菖蒲と引き離された時、菖蒲の気持ちにきちんと向き合わなかったことをものすごく後悔しました……」
私は大きく息を吸い込んで、彼に伝えるべき言葉を口にする。
「以前は自分の身の程を弁えずにそんなことを伝えるのが恥ずかしくて、「気に入っている」なんて言葉で誤摩化しましたが、本当はあの頃から菖蒲が既に好……」
「薊……っ!」
「わっ!」
強く強く、菖蒲に抱き締められる。
彼の胸に顔を埋めた状態の私に向けて、菖蒲は答えた。
「嬉しい……勿論だよ、私の嫁は薊だけ。ありがとう、私を伴侶に選んでくれて」
空中をワサワサと動いていた菖蒲の尻尾までが、私を包み込む。黒いフワフワの尾に包まれた私を、いつの間にか菖蒲の金色の瞳がじっと見つめていた。
「薊、ずっとずっと一緒にいよう。薊のことを大切にすると誓うから。二人で幸せに暮らそう」
温かい彼の唇が、私のそれにそっと触れた。




