東京編 第11話「アルが語るRAの全貌」
いつも読んでくださりありがとうございます。
第11話では、アルがRAについて
初めて全員に話します。
情報の章ですが——
シアの過去と、アルの「少し違う」が
この話の核心だと思っています。
ゆっくり楽しんでいただければ嬉しいです。
朝になっても、アルは眠っていなかった。
奈々が目を覚ました時、アルはロビーの隅でいくつかの紙を広げていた。手書きのメモ。地図の断片。数字と記号が並んだ表。
「……いつ寝るの?」と奈々は聞いた。
「必要な時に寝る」
「昨夜は?」
「必要なかった」
奈々は少しの間、アルを見ていた。
この人は——人間として何かが違う。でも何が違うのか、まだ言葉にできなかった。
全員が起き出したところで、アルが口を開いた。
「RAについて話す。全員、聞け」
誰も異論を言わなかった。
ガルドは壁にもたれて腕を組んだ。シアは膝を抱えて床に座った。ケンは奈々の隣に来て、手を握った。マンションに先からいた三人の生存者も、少し離れた場所から聞いていた。
アルは紙を広げた。
「RAの正式名称はRegnum Apocaly。『終末の君臨』とも呼ばれている。世界の支配者層の中に根を張った組織だ。政治家、軍人、企業家——表向きは権力者だが、その全員が何者かに操られている」
「何者かに」とガルドが繰り返した。
「詳細は後で話す。今はRAの構造を先に把握しろ」
アルは続けた。
東京支部長はゼノンという人物。香港・アジア圏を統括するマルコ。ロシア拠点のヴィクトル。そしてアメリカに——四天王と呼ばれる存在がいる。
「四天王は人間ではない」とアルは静かに言った。「RAの幹部とは次元が違う。人間に擬態しているが、本質は別のものだ」
静寂が落ちた。
「別のもの、って」と奈々は言った。
「説明できる言葉が今の俺にはない。ただ——あいつらが持っている力は、この世界の理屈では説明できない」
シアが、わずかに体を強張らせた。
奈々はそれに気づいた。
「シア」と奈々は小声で言った。「大丈夫?」
シアは答えなかった。アルの紙を見ていた。
「その紙に」とシアは言った。「施設の場所が書いてある?」
「ある」とアルは答えた。「東京に複数。お前が逃げてきた地下施設もその一つだ」
シアの手の甲の呪紋が、微かに熱を持った。
「……そこで、何をしていたの」とシアは聞いた。「白衣の人たちは」
「力の研究だ」
アルは淡々と言った。
「この混乱を引き起こしている力——その源を解析しようとしていた。あるいは、その力を持つ者を見つけて、利用しようとしていた」
シアは動かなかった。
奈々は何も言えなかった。
シアが「実験体」として閉じ込められていた理由が——今、はっきりした。シアの持つ力が、RAにとって「研究対象」だったから。
それだけのことだった。
シアの存在は、RAにとって道具だった。
「一つ聞いていい」と奈々は言った。
アルが奈々を見た。
「あなたはさっき、生存者を集めたのは『戦力として』と言った。私たちのことを『駒』だと思っている?」
短い沈黙があった。
「思っていた」とアルは答えた。「過去形だ」
「今は?」
「……今は、少し違う」
アルはそれ以上言わなかった。
でも奈々には十分だった。
この人は嘘をつかない。感情を持たないから、嘘をつく必要がない。「少し違う」と言ったなら、本当に少し違うのだ。
「次に何をすべきか、話す」とアルは続けた。
「RA東京本拠点の場所を特定した。地図の中心部——お前たちが施設で見た青い点だ。そこに幹部ゼノンがいる。そして——解毒薬の備蓄もそこにある可能性が高い」
「解毒薬」と奈々は繰り返した。「感染した人を治せるもの?」
「RAが製造している。詳しい成分は分からないが——効果は確認している」
奈々は周囲を見た。
ガルドは静かに頷いた。シアは俯いていたが、顔を上げた。
「……行く」とシアは言った。「私も行く」
「俺も」とガルドは短く言った。
ケンが、奈々の手を強く握った。
「……難しくて、よく分からないけど」とケンは言った。「みんなが戦うなら、僕も行く」
「お前は戦わなくていい」とガルドがすぐに言った。
「でも、一緒にいる」
ガルドは少しの間、ケンを見ていた。
それから、小さく頷いた。
「潜入の計画を立てる」とアルは言った。「正面突破は得策ではない。施設の構造を把握して、最小限の戦闘で解毒薬と情報を確保する」
「お前が立案するのか」とガルドが聞いた。
「俺が得意なことだ」
「……信用していいのか」
アルはガルドを見た。
「信用するかどうかはお前が決めることだ。ただ——俺はここまで、嘘をついたことはない」
ガルドはしばらくアルを見ていた。
それから、また頷いた。
「分かった。任せる」
計画の話が一段落した後、ケンがアルに近づいた。
「アルって、ご飯食べる?」
全員が少し固まった。
アルはケンを見た。
「……食べる。必要だから」
「じゃあ、これ」
ケンは自分のパンを一つ、アルに差し出した。
「朝ご飯、食べてなかったでしょ。見てたから」
アルは、パンを見た。
それから、ケンを見た。
何かを計算するような間があった。
「……もらう」
アルはパンを受け取った。
ケンはにっこりして、自分の場所に戻った。
奈々はその様子を見て、静かに思った。
この人も——少しずつ、変わるかもしれない。
その夜、奈々は頭の中でメモを取り続けた。
スマートフォンはない。文字にできない。
でも忘れない。
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RA。終末の君臨。ゼノン。解毒薬。シアの施設の理由。アルの「少し違う」という言葉。ケンのパン。
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全部、頭に刻んだ。
明日から、本格的に動き始める。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ケンがアルにパンを差し出す場面——
子供の無邪気さが、
感情を持たない人間の何かを
動かすことがある。
そういう場面だったと思います。
次話も読んでいただけると嬉しいです。
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よろしくお願いします。




