第六章 それぞれの明日(7)
正規の春の学期末考査期間は、とっくに終わっていた。
それでも、マービンが手をまわしてくれて、三月の最終週に何とか追試日程をねじ込んでくれた。
五人はそろって懐かしの教室へ。
考査の内容は、ひどいものだった。
三割くらいは見たことも無い内容が並んでいて。
そりゃ、二か月も授業をすっぽかしていたんだから当然だけど。
ただ救いがあったのは、各考査の時に、補習も兼ねて、ということで、科目担当が直前講義をしてくれたことだ。
本当はこんなことやっちゃいけないんだろうけど、そこはそれ、エミリア王女まで巻き込んだおおごとなわけで、教育省の人たちも多少は大目に見てくれるだろう。
そうして、最後の登校の日が来た。
四日に圧縮した補習と期末考査の日程の最終日。
学校には、五人だけ。
机を並べて、超圧縮された補習を聞き。
ちんぷんかんぷんの考査を解き。
終わった時、全員がまったく同じタイミングで大きく伸びをしたのは、偶然じゃなかっただろう。
「……はーあ、全部、終わったわね」
伸ばした腕を戻しながら、セレーナ。
「ああ、これで全部。これで進級できなかったら、あきらめるしかねーや」
言って、ははっ、と毛利は笑う。
「でもセレーナさんは、この試験を受ける必要はなかったんじゃないですか」
「私は、お祭りだけ楽しんで『学校生活を体験しました』なんて大きな顔したくないの。ちゃんと、みんなが一番嫌がる考査まで受けて、ようやくこの留学は終わりなのよ」
「なるほど、セレーナさんらしいです」
話している三人の表情とは裏腹に、浦野はうつむいて暗い顔をしている。
「どうしたの、トモミ。やっと考査から解放よ」
「うん、……でも、そしたら、セレーナさん、帰っちゃうな、って思って……」
浦野は小さな声でつぶやく。
「……いつでも連絡よこしなさい」
「でも迷惑だよう」
「そんなことないわ。私は、トモミを親友だと思ってるから」
浦野は小さくこくんとうなずき、
「うん、ありがとう」
と、小さく笑った。
「あっ、あのさ、セレーナ」
僕はようやく口を開く気になった。
やっぱり、彼女が去る前に。
どうしても、話をしたくて。
「今日、帰り道、ちょっと待っててくれないかな」
僕が言うと、セレーナは何やら妙な表情を浮かべた。
こんなこと言わなくても、昨日までは当たり前のように並んで帰っていたから。
「何か見せたいものでもあるのかしら。いいわ、今日はいいお天気だもの。校門で待ち合わせでいい?」
そう言って、窓から青い空を眺める。羊の形の雲がふわふわと流れている。
しばらく沈黙が流れ、やがて、毛利が口を開いた。
「いつまでいるんだ?」
セレーナはそれに応えて、
「……そうね。いつまででもいたいけど、本当はすぐにでも帰らなくちゃならなくて。色々なことはロッソ公とヴェロネーゼ公に頼んできてるから大丈夫だとはおもうんだけど、やっぱりあまり摂政不在っていう期間は作りたくなくて」
「桜が咲き始めてるんだ」
「桜?」
「そう、この辺の桜は飛び切りきれいでさ、せっかくだから、満開までいればいいのになー、と思ってさ」
「……ふふっ、そうね、考えておくわ」
セレーナが答えると、毛利とマービンが、お互いにうなずきあったのが見えた。あれだな、サプライズのお花見でも企画しているんだろう。
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