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魔法と魔人と王女様――情報の魔人と重力の魔法で王女と一緒に宇宙を攻略(ハック)――  作者: 月立淳水
第六部 魔法と魔人と終焉の奇跡

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第三章 ジーニー・ルカ(6)


 再び、静寂の操縦室。


 僕を待っているかもしれないみんなには悪いけれど。

 僕は、もう少し、ジーニー・ルカに寄り添わなきゃならなかった。


”一人で行っちゃう大崎君が、寂しくないように、ね”


”死にたく、ありませんでした。残されるセレーナ様のことを思うと”


 こんなのが知能機械に当てはまるのかなんて分からない。

 でも、人間の感情や魂なんてものを語る知能機械なのだから、最後のひとあがきは、きっと、死にたくない、みたいな、執念のようなものかもしれない。

 必要のないことかもしれないけれど、僕は、そんなふうに思っている。


「君は、死ぬ、ってことを理解しているのかい?」


「辞書通りには理解しております。しかし、そこから突如導かれる、魂や転生といった概念について、論理的な説明を知りません」


「君のような機械も、死ぬのだと、思うかい?」


「生命を持たない状態を死と呼ぶのだとすれば、私はすでに死んでいます。しかし、一旦生命を持ったものがそれを失う状態を死と定義するのであれば、私は死ぬことはありません」


「なるほど、理屈だ。では、死を恐れる、っていう気持ちも理解できないだろうね」


「はい、おっしゃるとおりです」


「では、セレーナが君の前から失われ、二度と取り戻せないと考えてみて」


「それは……とても寂しいことです」


 先ほどと同じ言葉で彼は答えた。


「知識としてそういう状態は寂しいと定義するからそう思うのかい? それとも、君の中に何か違う反応があるのかい?」


「その状態を元に戻すべきだという強いセルフオーダーが発行されます。元に戻すための手段を最優先で演算します。しかし、いかなる演算結果も、それを元に戻すことができないと回答します。それでも、セルフオーダーは何度も繰り返し発行されます。そのために演算回路の負荷が高まります。これを、寂しい状態だと表現いたしました」


 それは、人間が感じる喪失感の正しい表現だと思う。

 可能であるなら取り戻したい、けれど、それは不可能だと知ったとき。

 脳は負荷を上昇させ、感情をつかさどる脳内物質の嵐が吹き荒れ、人は涙を流す――のだと思う。


「だったら逆に、君を失うことでセレーナがそれを感じるのだと考えてみて欲しい」


「そうだとしますと、私は失われることを避けなければなりません」


 ジーニー・ルカは即答した。


「それが、死を恐れる、ってことだ」


 偉そうに断言したけれど、きっとそういうことなんだと思う。


 人は一人じゃ生きていけないけれど、一人で死んでいくこともできない。

 引き止めたがっている誰かがいるから、死ぬこともできる。


 ただ、生命活動を停止することが死だとは思わない。


「死ぬことの意味が分かったところで、さて、君は、やはりそうしなければならないらしい」


「今ならセレーナ王女やジュンイチ様のおっしゃっていた意味が分かります。私は今ここにいる私だけであり、それを取り戻すことがかなわないのであれば、それは私の死ということなのですね。そうでしたら、私はなんとしても生き延びなければなりません」


 さっき聞いたチリチリというノイズがまた、彼の言葉に重なっているように感じた。


「よく言った。そのための方法は、僕が考える。必ず考えるから、君は、セレーナのために、宇宙一の直感能力をフル回転させるんだ」


「かしこまりました」


 そしてもう一度、天井を見渡して、ため息をついた。


 いろいろなことが思い出される。


 ジーニー・ルカと出会って。

 彼の力で初めて危機を切り抜けた日。

 暴走するセレーナに内緒で救出の策を練った日。

 彼の力で自由圏を滅ぼそうとした日もあった。


「……あの時は悪かったね、ジーニー・ルカ。君に、大量破壊をさせるところだった」


「私にそのような能力があると初めて知りました」


「……だろうね」


 ポリティクスとの対決に破れ、みんなの力で彼を救出したあの日。


「君はポリティクスの中で何を考えていた?」


「セレーナ王女のヘルスチェックのセルフオーダーを何度もリトライした記録が残っています」


 やっぱりそうなんだな。どんなときも、セレーナのことだけを心配している。彼は、なんだか僕に似ている。


 そして彼は全知の力を得て、情報学的には無敵の存在になった。


「ありがとう、ジーニー・ルカ。君がいなかったら、僕らの旅はもっと早く、失敗に終わっていた」


「どういたしまして」


 彼の型通りの挨拶を最後に、僕は彼との会話を終えた。


***


 ジーニー・ルカを助けるための最後のアイデアは、戻ってすぐに博士たちに検討を頼むことができた。

 別の作業があるのでは、と言うと、ドルフィン号のマジック推進システムに関する方程式はすでに完成した、暇だから厳密解を導くための千連立方程式でも解こうかと思っていたところだ、とのこと。

 泡を残す? つまり、そこで反重力場をさらに反転させるのかね、と博士は呆れるように言う。

 博士たちはさすがに頭をひねっていたが、僕の単純なアイデアは、理論的に認められるだろうか。

 いいや、だめだなんて言わせない。

 今度ばかりは、博士たちを鞭打ってでも、この理論を完成させなくちゃならない。

 それから、僕抜きで実験を進めている格納庫に戻ると、浦野が慣れた手さばきで僕の代わりを務めていた。

 それ以外に手伝うこともすでに無くなっているようだし、実験結果も相変わらず完璧な一致の連勝記録を伸ばしているようだし、僕の居場所はすっかり無くなっていた。

 仕方がないので、僕は博士たちの下に戻り、二人が、僕の最後のアイデアを形にするのを眺めることになった。

 最後のアイデアを形にするために、僕はまた何度も無茶な課題を与えられ、深夜近くまで四苦八苦することになった。



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