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【第二幕】思い出を掻き鳴らして-Play The Star Candle-

 学校から公園の間には、いわゆる住宅街があって、そこに並ぶ新築ばかりの家に不釣り合いな古くてボロボロになったアパートが建っている。

 二階建ての、住んでる人間なんているのか分からないような、酷く廃れた外観の小さなアパート。

 そこが、僕とあいつが住む本来の場所である。


『長谷川ハイツ』


 どこにでもありそうな名前だ。


「……」


 切れかけの街灯に照らされた薄汚れた壁のシミが、なんとなく人の顔に見えるのにえらく懐かしさを覚えつつ、僕は102号室の前に立つ。

 表札の文字がかすれて読めなくなっている。きっと何年も変えてないんだろう。ポストに入れられた新聞もかなり溜まっている。

 インターホンが無いので、僕は軽くドアをノックした。回数にて三回くらい。コツコツコツと叩いているのに、音の鳴りは悪く突っついているみたいだった。


「……出ねえな」


 体をひょいと出して、部屋の明かりを確認してみるが、暗いままだ。もう寝てしまっている……ともここに来て考えられないし、単純に開けたくないのか。


「お」


 すると、ガチャっと鍵が開く音が聞こえた。一応はノックに気付いていたらしい。

 僕はノブゆっくり引いてドアを開けた。暗く狭い玄関に、学校の制服の後ろ姿があって、顔は下を向いている。


「寝てたか?」

「……」

「入るぞ」


 そのまま奥へ歩いていってしまったので、僕も靴を脱いで中に入る。二人分もない幅の廊下には、まとめられたゴミが置いてある。


「レンジ、借りるぜ」


 言いながら、部屋の手前に置かれた電子レンジを開けて、ここに来る時に持ってきたコンビニのおでんを出す。具材はすっかり冷めてしまっていて、急いで来たものだからちょっと汁が溢れている。

 じわじわと思い出していくこの感覚。

 いつも通りの、僕が学校帰りにコンビニのおでんを買ってきて、わざわざレンジで温めるこの光景。

 そう、僕らはこうして過ごしていたんだ。

 今日まで同じように。


「ミルクティーオアレモンティー」

「…………ミルクティー」

「ん」


 大して言葉も交わさず、大して感情も表さず、特筆するような事もせず、けどそれなりの心地良さを覚えて、居心地の良さを覚えて……こいつがどんなになろうと、僕はずっと同じ気持ちでいて、過ごしていた。

 それはそれで、悪い日々じゃなかった。


「なんか食い物ある? 腹減りすぎて ちくわぶじゃ足りん」

「…………作る?」

「お、恒例のアレ?」

「……今日は唐揚げ丼とか」

「なにそれうまそう」


 それはたぶん、こいつも同じで、確かに昔と変わっていってしまったけど、今でも好きでいるのは本当で、僕もそうで。


「そういや今日お前の先生に会ったぜ。僕は今回で三回目くらいか?」

「…………」

「近々準備室行ってやれよ。たぶん、人来なくて寂しいだろうし」

「…………うん」

「あ、おでん温まった」


 忘れたくないくらい大切な時間な訳であって。

 今も。

 これからも。

 僕らは変わらない関係な訳であって。


「たまには僕も行くからさ」

「……うん」

「……」

「……」

「食うか」


 僕らはほんの子供で、そういう関係だから。


 そんなの当然のように、言わなくても分かるものだから。


 結局、変わらないものだから――。


「……うわ、熱っ!」


 一緒にいたい気持ちは、ずっと。

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