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転生悪役令嬢の前途多難な没落計画   作者: 一花八華
番外編【 キスの日】
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人形は虚空に想いを馳せる



 夜の帳が降り。辺りに静けさが漂う。人の近寄らないその場所で、私は一人壁に持たれ虚空を見つめる。そうして、あの方からの声を待つ。


 あらかたの報告を終え、月を見る。暗闇に浮かぶそれは、ぽっかりと空いた穴のようで。まるで自分の心のようだとふと思う。欠陥だらけの造り者。





 ワタシは、涙を流せない。涙の流し方を知らないから。

 ワタシは、笑顔がわからない。だから上手に笑って全てを誤魔化す。

 何一つ本物じゃない。嘘だらけ。全てが造り物で紛いモノ。


 貴女に触れれば ワタシにも ソレがわかる?

 貴女に触れば ワタシも ソレを持てる?


 わからない

 わからない


 わかるのは、貴女の笑顔があったかいという事。

 貴女の傍が心地よいという事。

 貴女に触れるとソレが溢れるという事。


 知りたい

 知らない


 わかりたい

 わかり合いたい





『フィロス。・・・・大丈夫か?』


 無機質なブレスレットから、届く声。ハッとしその声に私は返事を返す。


「はい。大丈夫です。問題ありません。友人として、彼女との接触を続けます」


 腕に付けた冷たいソレ。ブレスレット(それ)に埋め込まれた石が、白く淡い光を放つ。ワタシは紛い者だ。紛い物の人形。彼女の傍にいるのは、ソレが私の役目だから。だから・・・・


 彼女の傍にいるべきじゃない。傍にいると生まれてくる。湧き上がるナニカ。これは感情ではない。心ではない。



『・・・・そこに或るだけでいい』


 そう。人形に心はないから。命じられ、従い、こなす。その為に造られた人形。



 なら、この気持ちは何なのだろう。

 くすぐったくてあったかい。切なくて苦しい。

 

壊れてはいけない。人形は壊れたら破棄される。

だというのに。



 ワタシは、彼女に惹かれている。

 薄っぺらな好きに本音を混ぜて、告げる程に。振り向かれては困るのに、振り向いて欲しいと願ってしまう程に。

 


 いつから?

 初めてあったあの日から?・・・・いや、きっと生まれる前から。

 ずっとずっと前から。


 通信を切り、腕を下ろす。


ーチャリっ。


 鎖の擦れる音が耳に残る。






「ヴィーちゃん。・・・・苦しいよ。傍に居るのが苦しい」



 綺麗で、可愛くて、真っ直ぐで、キラキラしてて目が離せない。そんなヴィクトリアの傍居ると、想いが募って苦しい。苦しくて息ができない。




「それでも・・・・傍に居たい。知りたい。この感情を、気持ちを、知って、触れて、感じて、分かりたい」


「・・・・ワタシ・・・・壊れちゃったのかなぁ」



 まだ、壊れるわけにはいかない。

想う程に溢れる気持ち。隠さなきゃ。隠し通して・・・・偽って。



 生温く湿った何かが、頬を伝う。

ぼんやりと浮かぶ丸い月。伸ばした手は、虚空を掴む。



ーやっぱり、ワタシに心は掴めない。




「ごめんね・・・・ヴィーちゃん」



好きになって・・・・ごめんなさい。



消えてしまうそれまでに、ワタシはちゃんと嫌われる事ができるだろうか。


せめて彼女が、悲しまないよう。


あの方に知られずに・・・・ワタシは、ソレができるだろうか。




頬を伝うソレを隠すように、月は雲の中へと姿を消し・・・・辺りは暗闇に包まれた。



すべてを呑み込む暗い闇。



ワタシは、今は、それが怖い。










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