アンニュイな午後
お久しぶりです。すみません。完結に向け、ぼちぼち更新していきます。
私の名前は、ヴィクトリア・アクヤック。前世の記憶を持つ悪役令嬢ですわ。
幼い頃に前世の記憶を(ぼんやり)取り戻しましたの。
この世界は乙女ゲーム。そして私は、その中の悪役。
運営の意向で、散々な最期を迎える悪役令嬢。
それを回避する為に、攻略対象やヒロインに関わらずに生きようとした。
ええ。すごく頑張りましたの。性格の矯正は無理だったから、せめて彼等には関わらないよう、ひっそりと生き執事と結ばれる。
没落ルートへ進むつもりだった。
それなのに・・・・シナリオの強制力で、魔法学園アルファフォリスに入学。それから三ヶ月。
・・・・気付けば攻略対象の一人である、オズワルド皇子には婚約者候補にされ頻繁に遭遇するし、グレイ様には気に入られ取り憑かれるし、レオニダスには懐かれ人災被害を被るし、フィロスには求愛されている・・・・。
ああ・・・・没落計画が、全く以て進んでいませんわ・・・・むしろ後退!一歩進んで二歩下がる!この間なんて、私の勘違いでハンスを追い詰め泣かせてしまうし、ハンスは益々【執事】に拘るしで・・・・本当に散々な三ヶ月でしたのよ?
・・・・おかしいですわ。何故こうなってしまいましたの?
そもそも、大元の記憶がおかしいのですわ!まったく使えない!私の残念ウキペディア!あれがバグってるとしか思えませんわ!
これでは、私の安心安全な執事ルートが壊滅的ではなくて!?
せめてもの救いは、あれね。確か4人目の攻略対象・・・・引き篭もり魔道士に遭遇していないって事ね。ええ、このままマントルの奥底で、引き篭もり、生涯を終えてくれないかしら。
「はぁああぁあ・・・・」
深いため息を吐き、教室の窓から外を眺める。
教室の外は中庭になっていて、真ん中に大木が立っている。それを囲むように造られた校舎。代わり映えのない光景。
アンニュイですわー。やる気がおきなくってよ・・・・。頑張る気力がおきない。
「どうかされたのですか? お嬢様。ため息などつかれて」
背後に控えていたハンスが、私にそっと声をかけてくる。すれ違いがあってから、ハンスは何かと私の様子を伺いますわ。邪魔にならない距離で、近いけれど遠い距離。
半径三m以内の近さなのに、決して触れる合う事はない。それが、私とハンスの今の関係。
「ハンス。どうすれば、安心で安全な没落計画は完遂できるのかしら……」
頬杖をついたまま、思わず計画をぽろっと零してしまう。
「……没落計画って……お嬢様。貴女まだ本気でそんな事を考えていらっしゃるのですか?」
呆れたようなハンスの声
「まぁ! ハンス! 私が本気でなかった事があって!? 一にも二にも大真面目! 何事にも本気の全力で体当たり! それがヴィクトリア・アクヤックですわ!」
ムッとし、振り返ると
「大真面目に没落したいなどと口にされるのは、お辞め下さい。ブルーテス様の耳に入りでもしたら、……問い詰められ、繋がれ……それこそ屋敷から出られないよう、軟禁されてしまいますよ?」
額に手をあて、ハンスがはぁああぁあっとため息を吐き言いますわ。ブルーテスお兄様が、私を軟禁?
「フフフ。ハンスったらそんな脅しで私を諫めようだなんて……甘いわね。人格者お兄様がそんな事、なさるわけないじゃありませんの」
優しくて大らかなブルーテスお兄様。見目も麗しく、文武両道。才色兼備。完璧イケメンなお兄様。
私と違って、人徳もあるお兄様が私を軟禁だなんて、ありえませんわ。
「しますよ。します。お嬢様は、シスコンの本気を舐め過ぎです」
「ハンス……私、お兄様を舐めた事はありませんわ。そりゃ、あの観姿を舐めるように見つめていたいとは思いますけれど……。身内でもできて、キスまでよ。舐めるだなんて、流石の私も引きますわ……」
素敵で無敵なブルーテスお兄様を、舐めまわしたい信者は多いでしょうね。ファンクラブもあるようですもの。
いくら美しいお兄様といえど、舐めるのはちょっと勇気がいりますわね。あっでも、オズワルド皇子に「お前の阿呆さ加減には、開いた口も塞がらん。ブルーテスの爪の垢でも煎じて飲ませてもらったらどうだ……」と言われた事はありましたわね。
「そっちの舐めるではありません」
またハンスがため息を……貴方、ため息は控えるべきよ?幸せが逃げていきますわよ?
きょとんと見つめると、「はぁ」っと肩を落とすハンス……あっまた一つ幸せが逃げましたわ。
「大体、没落など思いつかれる意味がわかりません。昔から感じておりましたが……もしや、お嬢様は破滅願望がおありなのですが?」
「は?」
「それなら、お嬢様の斜め上にネジ曲がった奇怪な行動も理解ができるんです。大真面目に、悪手へと突っ込むその思考と行動……」
「ちょっと……ハンス」
奇怪とか斜め上とか、主人にいう台詞ではなくってよ?納得出来かねるわ!大体貴方、主に対して敬意が足りなくってよ?もっと私に、敬意と愛情を向けてくれても……って顎に手を添え、ブツブツと呟くハンス……ねぇ?まだ何かおっしゃるつもり?
「ああ! そうか!」
手をうち、目を見開いたわ。何か嫌な予感がするわ。何を納得なさったの?怒らないからおっしゃって?
「だから、私に求婚なさったのですね!」
ぱ ー ど ぅ ん ?
うんうんと一人頷き納得なさらないで。私、よく理解できなかったわ?
「ハンス? なんて?」
求婚と破滅の接点が見つからないわ。だからって何がDA・KA・RAちゃんなのかしら?
「でもダメですよ。お嬢様。貴女は幸せになるべき人なのです。貴女がいくら破滅を願おうとも、私が貴女の幸せを護りますから」
「貴女を不幸にはさせません」
強い意志の篭った、琥珀色の瞳が私を見つめる。
─ずきゅん!
思わず息の根を止められるところでしたわ!危ない!ときめいてる場合じゃなくってよ!ヴィクトリア!破滅したいから、ハンスに求婚したですってぇ!?ばっかじゃないですのぉお!?この鈍感執事は、私の愛をまた変な解釈で捻じ曲げようとしていますわぁあ!
「私を幸せにしたいなら、ハンスが私と結婚してくれればいいのよ! ずっと言ってるじゃない!!」
誤解を解こうと必死に叫ぶのに、
「それは無理です。お嬢様」
私の話を聞かず、吹っ切れたような笑顔を浮かべるハンス。
くっ!この分からず屋執事!!私の重い愛を一から説く必要があるようね……いいわ。戦争よ。そっちがその気なら受けて立つわ!
ぐぬぬぬとハンスを睨みつけていると、声をかけられた。
「何を揉めているのかな?ヴィー」
凛とした声が、私の名を呼びましたわ。
窓の外。声のした中庭の方へと顔を向ける。
「やぁ。ヴィー。学園で逢うのは、久しぶりだね」
そこには、キラキラとエフェクトを纏った麗しい美形……お兄様が立っていらっしゃった。
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