第7話:土の下に、道がありました
掘り始めたのは、鉄棒が一尺で止まった場所でございます。二尺下で、石に当たりました。平たい石でございました。人の手で置いたものです。角が落ちておりますので、川から拾った石でしょう。それが並んでおりました。三尺掘ると、幅がわかりました。
二尺ほどの幅で、石を二列に並べて、上に平石を渡してございます。中は空でございました。空の中を、水が流れておりました。
「奥様」
ノラが穴の縁から覗き込まれました。
「これ、なんですか」
「暗渠でございます」
「あんきょ」
「地面の下に作った水路です」
「誰が作ったんですか」
わたくしは石を撫でました。目地に漆喰が入っておりません。石を組んだだけです。古い作りでございます。
「百年は経っております」
ドレーゼ夫人は穴の縁で長く黙っておられました。
「これが、あったんですか」
「はい」
「十年、四人の庭師が誰も」
「掘らなければ、わかりません」
「なぜ枯れるんです」
わたくしは水路の線を指でたどりました。中庭を、北の隅から南の塀へ、斜めに横切っております。
「北の隅が青いのは、水路がそこを通っていないからでございます。中央から南は、水路の真上でございます」
「真上だと、水が来て良いのでは」
「水路は、水を通しております」
わたくしは平石の隙間に指を入れました。濡れております。
「通すために、水を吸わせません。石は水を持ちません。根が石に当たると、そこで止まります。止まった根は、横へ伸びます。横へ伸びた根は、浅いところにしか張れません」
「浅いと」
「夏に乾いて、冬に凍ります」
ドレーゼ夫人は、まだらの芝を見回されました。
「では、この庭は駄目なんですね」
「二つ、道がございます」
「一つは、水路の上を諦めることでございます」
わたくしは石灰で地面に線を引きました。水路の通っている帯を、幅四尺で。
「この帯に、根の浅いものを植えます。芝ではなく、苔と石。あるいは砂を敷いて、鉢を置きます。鉢なら根が下へ行きません」
「もう一つは」
「水路を活かします」
「活かす」
「石をところどころ抜いて、上に土を五寸盛ります。根は水路の際まで来て、そこで水を得られます。ただし、水路の流れが変わる恐れがございます。この水がどこから来てどこへ行くのか、わたくしは知りません」
ドレーゼ夫人は、少し笑われました。
「知らないと、正直に言うんですね」
「知りません」
「四人目の庭師は、土が悪いと言いました。三人目は日当たりだと言いました。二人目は、この家の向きが悪いと言いました」
「一人目は」
「一人目は、うちの母が悪いと言いました」
わたくしは一つ目の道をお勧めいたしました。水路に触るのは、この家の下がどうなっているかを知らないうちは危のうございます。麻の倉が北隣にございました。倉が浸けば商いが止まります。帯には砂を敷いて、鉢を七つ置きました。灰坂から運んだ薔薇のうち、来年の春に咲く六十株から、七株を選びました。帯の外には、芝を張り直しました。
「代金は」
「十二リルでございます」
「安いですね」
「掘ったのは二日でございます」
ドレーゼ夫人は硬貨を数えられました。それから、こう仰いました。
「エルシャさん。あなた、レーンフェルトの奥様だった方でしょう」
「以前おりました」
「わたくし、あの園遊会に呼ばれたことがあります。八年前に」
「はい」
「あの庭は、あなたが作ったんですか」
「庭師が四人おりました」
「四人を、どなたが指図したんです」
わたくしは鉢の位置を直しました。
「わたくしでございます」
ドレーゼ夫人はうなずかれました。
「麻の商いには、名簿がございましてね」
「名簿」
「王都の家々の、誰が何を頼むかという名簿です。三代ぶんございます。少し、名前を書き足しておきましょう」
灰坂に戻ったのは、夜でございました。小屋の裏の納屋に、灯りがありました。納屋と申しましても、瓦を焼いていた時分の小屋の残りで、屋根と壁が三方あるだけのものです。株を掘り上げたときに使った麻布と、鋤を置いてございます。ノラでございました。地面に何かを並べておられました。
近づくと、球根でした。仮伏せの列を作るときに、株の根元から出てきたものです。二百十四株の下から、細い球根がいくつも出ました。水仙か、鈴蘭か。掘り上げのときは急ぎましたので、まとめて袋に入れておいたものです。ノラはそれを地面に並べておられました。指で、一つずつ触っておられます。
声は出しておられません。ただ、指の動きが、数えている動きでございました。わたくしは声をかけませんでした。
その夜、マルタの手紙が届きました。
――奥様。十五日目でございます。
――昨日、旦那様が庭に鋤を入れられました。ご自分で、でございます。エテルネ商会の庭師が申しますには、土の抜けを見たいと。
――三か所掘られて、二か所で石が出ました。旦那様はなぜここに石があるのかとお尋ねになりました。庭師は知らないと申しました。
――旦那様はそれから庭へお出になっておりません。
わたくしは手紙を膝の上に置きました。抜け道は三本ございます。二本しか見つけておられません。三本目は、東の垣根の下でございます。あそこは、ロンバル侯爵様が去年、白い薔薇の名をお尋ねになった場所です。
【今日の花暦】
地面の下は、掘らないとわかりません。まだらに枯れる、片側だけ育つ、同じ株なのに三年おきに枯れる——このあたりは、たいてい地上に原因がありません。庭師が四人替わったら、五人目は鉄棒を持ってくるべきです。
ドレーゼ夫人の一人目の庭師は「この家の母が悪い」と言ったそうです。原因がわからないとき、人はいちばん動かせないものを原因にします。
次回、納屋の灯りの話でございます。ノラは植物の名前を一つも覚えられません。そのかわりに、覚えているものがあります。
ブックマークと評価は、苗の土代に充てさせていただきます。




