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夫が浮気しましたので、庭ごと出てまいります  作者: 桜井花恋


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第51話:土を、見てほしい

 十一月五日でございます。


 道具を持ってまいりました。鋤が一本、移植鏝が一本、麻袋が三枚。ノラも参りました。門で止められましたがセリアン様がお出になって、通されました。


 南の列でございます。長さ四十歩、幅六歩。株は八十ほど。十一月でございますので、もう切ってございます。


 まず、端から端まで歩きました。四十歩でございます。歩きながら、土の色を見ます。三箇所、色が違うところがございました。緑がかっております。苔でございます。苔が出るのは水が引かないところでございます。


 次に、掘りました。


 三箇所でございます。列の端と、真ん中と、もう一方の端。深さは二尺まで掘ります。


 一箇所目。上から三寸が黒。その下が砂でございます。砂は一尺二寸ございました。その下から、粘土でございます。


 二箇所目。三寸の黒。砂が九寸。その下が粘土。粘土の上に、水が溜まっておりました。指を入れますと、濡れます。


 三箇所目。三寸の黒。砂が一尺五寸。粘土。ここは乾いておりました。


 セリアン様は、三箇所とも横で見ておられました。


「粘土は、どこまである」


「掘っておりませんので、存じません。ただ、二箇所目に水が溜まっておりました。粘土は水を通しません」


「では、抜けぬのか」


「抜けません。雨が降りますと、砂の中を落ちて、粘土の上に溜まります。そこが根の高さでございます」


「では、根は」


「常に水に浸かっております」


 わたくしは、二箇所目の穴の壁を、鏝で削りました。壁に根が出ております。切ってみますと、中が茶色でございました。


「これが、根でございます」


 セリアン様は、しゃがまれました。手袋を外して、その根に触れられました。


「柔らかい」


「腐っております」


「株は、生きておるぞ」


「上の三寸に、細い根がございます。それで生きております。ですから、夏に三日晴れますと、枯れます」


 セリアン様は、しばらくその根を持っておられました。


「客土を、毎年しておる」


「はい」


「毎年、上から三寸ずつ入れておる。二十年以上だ」


「二十年で六十寸にはなっておりません。三寸のままでございます」


「なぜだ」


「入れた土が、雨で沈むからでございます。沈んで、砂に混ざります。混ざれば、砂でございます」


 セリアン様は、立たれました。手についた土を、そのままにしておられました。


「どうすればよい」


 わたくしは、列を見渡しました。四十歩でございます。


「掘ります」


「掘る」


「南の列を、全部でございます。深さ二尺。掘って、砂を出して、堆肥と、粘土と、灰坂の焼け土を混ぜて、戻します」


「株は」


「掘り上げて、鉢に取ります。八十株でございます」


「八十を、鉢で越冬させるのか」


「はい」


 セリアン様は、少し黙っておられました。


「どれほどかかる」


「掘って戻すのに、人が十人で五十日でございます」


「五十日か」


「ですが、そこは五十日ではございません」


「なんだ」


「戻した土が、層になるまででございます」


 わたくしは、二箇所目の穴を見ておりました。


「混ぜた土は、最初の年は、ただの混ぜたものでございます。雨が入り、根が通り、虫が動いて、初めて層になります。層になれば、水が同じ速さで抜けます」


「それが、どれほどだ」


「三年、かかります」


 セリアン様は、こちらをご覧になりました。


「三年」


「三年でございます」


 わたくしは、鋤を土に立てました。


「……お待ちになれますか」


 風がございました。十一月の風は王城の塀の内側でも通ります。塀が高いので、上を越えて、越えた先で下りてまいります。


 セリアン様は、南の列の端をご覧になっておりました。


「わたしは、四十二だ」


「はい」


「三年で四十五になる。層になったところを見て、そのあと十年は見られる」


「はい」


「父は、二十年務めた」


「はい」


 セリアン様は、手の土を払われませんでした。


「……待つ」


 わたくしは、頭を下げました。


「では、三年でございます」


 ノラが、後ろで麻袋を畳んでおられました。畳みながら、聞かれました。


「奥様。それ、うちがやるんですか」


「そうなります」


「人が十人って言いましたよね」


「王城には、庭師が十四人おられます」


 セリアン様がノラのほうをご覧になりました。ノラは、袋を持ったまま、頭を下げられました。下げ方が浅うございましたが、下げられました。


「そなたが、あの三時間の弟子か」


「ノラです」


「……そうか」


 セリアン様は、それだけ仰いました。


 掘った三箇所は埋め戻しました。掘りっぱなしにいたしません。冬に穴を開けておきますと、そこへ水が集まります。集まった水が凍って、周りの根を持ち上げます。持ち上がった根は春に乾きます。


 埋め戻すときは出した順の逆に戻します。粘土を下、砂を中、黒を上。混ぜません。今日はまだ、直す日ではございません。見る日でございます。


 三箇所に、印の杭を打ちました。三月に、ここから始めます。


 帰り際、三棟目の前を通りました。扉が開いておりました。中の台の上に、鉢が並んでおります。三十一でございます。葉は落ちておりますが枝が赤うございました。


 床には、何もございませんでした。

【今日の花暦】


客土は、毎年三寸ずつ入れても厚くなりません。雨で沈んで、下の砂と混ざるからでございます。二十年入れ続けても、三寸のままです。土を厚くするには、一度掘って、下から作り直すよりほかにございません。手間は二十年ぶんを一度に払います。


 「お待ちになれますか」は、この作品で三度目でございます。一度目は北の辺境伯に五年、二度目はベルタ様に二年、三度目が監督官に三年でございます。三度とも、待つと言われました。


 次回、十一月十日でございます。三十鉢を選びます。今年は、ノラが花暦を読み上げます。

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