第35話:八十九鉢を、王城へ運びました
二月二十七日から掘り始めました。五十一株でございます。三日かかりました。
一日目に十七、二日目に十九、三日目に十五。三日目が少ないのは、五列目が固いからでございます。五列目は去年の秋に埋め戻したところで、まだ層になっておりません。
掘った株は、その場で鉢に入れます。鉢は前の年に焼いてもらったものが四十ございましたので、足りない十一はマイエル様に借りました。荷を運ぶ籠でございます。籠には麻布を張って、土がこぼれないようにいたしました。
根は締めて掘りました。細い根を、鉢の径に合わせて切ります。切り口は斜めにいたしません。鉢で使うものは、まっすぐに切ったほうが塞がりが早うございます。
鉢に入れた土は、灰坂の土でございます。それは仕方がございません。株を裸で渡すことはできません。
二月二十九日の夜、紙を書きました。八十九枚でございます。一枚に一株ぶん。番号、丈、幹の太さ、根の張り、水の日、日の当て方。四行から六行でございます。書き終えたのは夜中の二時でございました。ノラは、十二時まで横で番号を読み上げてくださいました。
三月一日は、晴れでございました。
荷車に一度で三十鉢が乗ります。三往復でございます。運ぶのは八十八でございます。八十九のうちの一つは、十二月二十六日にお納めした二十七番でございますので、この日の荷にはございません。灰坂から王城の西門まで、荷を積むと二時間かかります。坂が二つございますので、下りで押さえて、上りで押します。
一度目は、六時に出ました。二度目が十時、三度目が二時でございます。
門で、庭師の方が四人待っておられました。ユアン様もおられました。鉢を下ろして、台車へ移して、三棟目へ運ばれます。わたくしは、門から先へは入れていただけませんでした。
二度目のとき、セリアン様が門のところへ出てこられました。数を確かめられるのだと思います。
「八十八か」
「一度目が三十、二度目が三十、三度目が二十八でございます。十二月にお納めした二十七番と合わせて、八十九でございます」
「受け取りは、済んだあとに出す」
「お願いいたします」
わたくしは、包みを出しました。紙が八十九枚、麻紐で綴じてございます。
「これを、お納めください」
「なんだ」
「一株ずつの覚え書きでございます。番号と、水の日と、日の当て方が書いてございます」
セリアン様は、包みをご覧になりました。手は出されませんでした。
「庭師が十四人おる」
「はい」
「二度言わせるな」
「かしこまりました」
わたくしは、包みを懐に戻しました。
三度目のとき、ユアン様が荷車の脇へ来られました。鉢を持ち上げながら、下を向いたまま仰いました。
「番号、鉢に書いてありますね」
「底の縁に、彫ってございます」
「揃えて置きます。番号の順に」
「お願いいたします」
それだけでございました。ユアン様は台車を押していかれました。
三度目の荷を下ろし終えたのは、四時過ぎでございます。二十八鉢を数えて、台車が門の中へ入っていきました。門が閉まりました。
門の脇に、受け取りの書付が出ました。八十八株。三月一日。状態の欄は空でございます。わたくしは、そこに自分で書き足しました。丈、幹の太さ、根の張り。三行でございます。ソレル先生が、あとで数が変わると仰いました。変わったときに、この三行が要ります。
わたくしは、空の荷車を引いて坂を下りました。
灰坂に着いたのは、六時でございます。もう暗うございました。
列を見ました。地に下ろした株が七十三。鉢が二十一。合わせて九十四でございます。
地の列は、穴が開いております。支柱だけが立っているところが五十一箇所ございます。竹が、株のないところに立っております。
ノラは、納屋の前に座っておられました。膝を抱えて、そのまま動かれませんでした。
「ノラ」
返事がございませんでした。
近くへ寄りますと、ノラは顔を上げられました。泣いておられました。声は出ておりません。ずっと同じ姿勢でおられたのだと思います。
「奥様」
「はい」
「八十九です」
「はい」
「一列目が十一で、いま六です。二列目が十一で、いま四です。三列目が九で、いま五です。四列目が十二で、いま七です。五列目が十二で、いま四です」
「そうでございます」
「全部言えます。何番がどこにあったか、全部言えます」
「はい」
ノラは、袖で顔を拭かれました。
「言えても、株はないです」
わたくしは、隣に座りました。土の上でございます。
しばらく、二人とも黙っておりました。
「ノラ」
「はい」
「四月十二日に、階段へ二十鉢納めます」
「二十ですか」
「二十でございます」
「鉢、二十一しかないですよね」
「二十一でございます」
ノラは、顔を上げられました。
「一つしか余らないじゃないですか」
「余りません。白は十四でございます」
ノラは、しばらく数えておられました。指が動いております。
「六、足りません」
「六、足りません」
「どうするんですか」
「地から、六株移します。土ごと移します。根を一本も切りません」
「三月に移して、四月に咲きますか」
「咲かせます」
ノラは、袖をもう一度顔に当てられました。それから、立ち上がられました。
「奥様」
「はい」
「明日、何時からですか」
「六時でございます」
「五時にします」
【今日の花暦】
株を鉢で使うときは、細い根を鉢の径に合わせて先に切ります。切り口はまっすぐにいたします。地に下ろすときは斜めに切ります。斜めのほうが土に食い込みますが、鉢の中では回ってしまうからです。同じ「根を切る」でも、行き先で角度が違います。
奥様は八十九株ぶんの覚え書きを書いて、断られて、持って帰りました。書いたのは前の夜の二時までです。渡せなかった紙は、このあともう一度出てまいります。
次回、九十四株で叙勲の仕込みが始まります。白は十四、必要なのは二十でございます。
ブックマークと評価は、苗の土代に充てさせていただきます。




