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夫が浮気しましたので、庭ごと出てまいります  作者: 桜井花恋


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第28話:二百十四のうち、八十九

 十二月十九日から二十二日まで、数えておりました。四日かかりました。


 まず、手元にあるものを分けます。灰坂には、鉢が五十九ございます。地に下ろした株が百二十四ございます。合わせて百八十三でございます。


 ほかに、王城の階段へ納めた三十鉢がございます。あれは十一月十日にお渡ししたものですので、もう王家のものでございます。北の丘に一株。合わせて二百十四でございます。七月に伯爵家の丘から掘り上げた数と、同じでございました。


 ノラは、地に下ろした株の列を端から歩かれました。歩きながら、指を折られます。


「一列目、十一。二列目、十一。三列目、九。四列目が十二で、五列目が十二」


「五列目は十一ではございませんか」


「十二です。奥様が十月に一つ足しました。挿し木の、根が出たやつです」


 わたくしは花暦を開きました。十月十四日の頁でございます。挿し木一本、五列目の端へ。書いてございました。


「ございました」


「ですよね」


 二日目に、系統を分けました。ここからは花暦が要ります。どの株がどの株から接がれたか、十五年ぶん書いてございます。二十四年前に義母様が下賜された第百七号は三株。そのうち一株が十九年前に枯れております。残り二株から、義母様が九株接がれました。その九株から、わたくしが七年かけて「アメリー」を作りました。


 アメリーは、白で、縁に薄紅が入ります。花弁は三十二枚から三十六枚。花期は六月と、切り戻せば十月。花期を動かせる幅が広うございます。これがあるので、日付に合わせられるのでございます。


 この分け方は、目では見えません。花が違うわけでもございません。葉の形も同じでございます。紙の上でしか分かれないのでございます。ですから四日かかります。


 三日目は、雨でございました。納屋で花暦を広げました。八十六枚ございます。順に繰って、接いだ日と、台木と、穂木を書き出します。ノラは横で薪を割っておられました。割りながら、数だけ答えられます。


「四列目の、手前から三本目」


「六年前です」


「六年前の、何月でございましょう」


「そこまでは入りません」


「入るのは何でございますか」


「本数です」


 三日目の夕方に、数が出ました。


 念のため、四日目の朝にもう一度、系統だけを繰り直しました。前の日に数え違えていることがございます。夜に数えたものは、朝に数え直すのが決まりでございます。数は動きませんでした。


 第百七号から来た株は、八十九でございます。


 鉢が三十八、地に下ろしたものが五十一。手元の百八十三のうち、八十九。ちょうど半分には、六株足りません。


 わたくしは、その数を三度確かめました。ノラにも読み上げていただきました。八十九でございました。


 四日目、印をつけました。麻紐を株の根元に一本結びます。八十九本でございます。紐は前の年の残りを使いました。四十本で足りなくなりましたので、ノラが荷馬車屋のマイエル様のところへ走って、荷を縛る紐を分けていただきました。


 夕方、列の端に立って見ました。紐は白うございます。地に下ろした列の中に、白が飛び飛びに並んでおりました。


「奥様」


「はい」


「これ、抜いたら、こうなりますよ」


 ノラが、紐のついた株を手で隠して見せられました。列に穴が開きます。一つ、三つ空けて二つ、また一つ。


「はい」


「隣が倒れます。風が抜けるので」


「倒れます」


「じゃあ、残ったほうも駄目になるじゃないですか」


「支柱を足します。十一月に切ってある竹が、六十本ございます」


「足りませんよ」


「足りません。二月に切ります」


 ノラは、紐を一本、指で弾かれました。


「奥様」


「はい」


「アメリーも、紐がついてますよね」


「ついております」


「全部ですか」


「全部でございます」


 ノラは、そこで初めて黙られました。しゃがんで、いちばん端の株の紐を見ておられました。その株は、七年前にわたくしが最初に接いだ株でございます。台木が太うございます。接いだところに、瘤ができております。


「奥様」


「はい」


「あたし、この株の球根の数、覚えてます」


「球根はございません。薔薇でございます」


「あ、そうか」


 ノラは、笑われませんでした。立ち上がって、手を払われました。


「じゃあ、蕾の数を覚えます。今年の六月、この株、二十九個つきました」


「二十九でございました」


「覚えてます」


「はい」


 その夜、受け取りの書付の下書きを作りました。ソレル先生に言われたとおりでございます。八十九株。うち鉢三十八、地から掘り上げるもの五十一。渡す日は三月一日。株の高さ、幹の太さ、根の状態を一株ずつ書きます。八十九行になりました。書き終えたのは夜中でございます。


 書きながら、一つ決めました。三月一日に全部を渡すのではなく、先に一株だけお持ちすることにいたしました。


「ノラ」


「はい」


「二十六日に、王城へ参ります」


「また断られるんじゃないですか」


「株を持ってまいります。返す株でございますから、お受け取りになります」


「一株だけですか」


「一株だけでございます」


 ノラは、少し考えておられました。


「奥様、それ、意地悪ですか」


「いいえ」


「じゃあ、なんですか」


「試しでございます」

【今日の花暦】


接いだところにできる瘤は、傷ではありません。台木と穂木の太り方が違うので、境目が盛り上がります。瘤が大きいほど年数が経っております。株の年齢は、幹の太さより、この瘤の段の数で読むほうが正確でございます。


 ノラは薔薇に球根がないことを、たぶん来年も忘れます。かわりに、七年前の株が今年の六月につけた蕾の数を覚えています。二十九です。奥様の花暦にも、同じ数が書いてあります。


 次回、王城へ一株だけお持ちいたします。返せと言われたものを返しに行くのに、奥様はそれを「試し」と呼びました。

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