第8話 怒れる獣達の密談2
「エドガー様……『期待していた』などと、無理に仰らないで下さい。ルルーシャが私と会うことを一番心配されていたのは、あなただと……よくわかっていますから」
フィオグラウスに言われ、エドガーは自嘲気味に笑った。
「これからは可愛い義弟になるんだ。少しくらい義兄に虚勢を張らせてくれよ。……一先ず、お前の半獣化した姿を見ても、多少怯えはするが一緒に過ごせることはわかったんだ。これでやっと、進めるかもしれない」
その言葉に、その場にいる全員が真剣な表情で頷く。
「やはりルルーシャの……彼女の記憶の中から……探すしかないのですね」
フィオグラウスは耳と尾を下へ垂らしたまま、深くため息を吐いた。
ルルーシャには「両国の友好と同盟のため」とだけ伝えたが、四人にはそれ以外にも別の目的があった。
それは、誘拐事件を裏で指示した反獣派の貴族を見つけること。
十年前、ルルーシャを狙った黒幕は、どれだけ探しても未だ見つかっていなかった。
事件に直接関わっていた者達は、黒幕に始末され全員が死亡。
現場だった古い屋敷は、証拠を消すように事件後すぐに不審火で全焼し、なくなっている。
近くまで彼女を連れて行ったことはあるが何も思い出すことはなく、また、フィオグラウスはルルーシャの事件関係者では牢屋で始末された男にしか会っておらず、捜査は行き詰まっていた。
「十年探しても駄目だったんだ。もう探していないのは、ルルーシャの記憶の中だけだ。犯人の手がかりがそこにあることに賭けるしかない」
──ルルーシャの記憶の中から手がかりを探す。
それは、せっかく事件を忘れて穏やかに暮らしている彼女にそれを思い出させ、錯乱するほどの恐怖に無理やり引きずり戻す可能性を指している。
(私のことを、思い出してほしい。でもそれ以上に、あの出来事を──ルルーシャが感じた苦痛も恐怖も……思い出して欲しくない)
表情を曇らせ、未だ迷いを瞳に映すフィオグラウスに、エドガーが厳しい言葉を掛けた。
「そっとしておきたい気持ちはわかる。だが躊躇うなよ、フィオ。何かが起こる前に犯人を捕まえなければ、お前とルルーシャの未来は最悪、消えるんだからな」
「はい……それはわかっています」
返す言葉に、緊張が走る。
エドガーの言う「消える」とは、結婚の話がなくなるというだけでなく、死を意味していた。
「同盟が締結直前な今、必ずそれを阻止するために反獣派の奴らが──ルルーシャを攫った犯人が、大きく動くはずだ。レナート殿下や王女殿下が狙われるのか、ルルーシャも含めた俺の家族なのか、一般市民なのか……誰が標的になるかもわからないが、もし何か問題が起きれば、今回こそお前の国と戦争になる可能性だってある」
ルルーシャが攫われた十年前。
当時国防長官だった父の奮闘の甲斐あって、実は二国は、あと数回細かな協議を重ねるだけで同盟を結べるというところまで来ていた。
だが誘拐事件の実行犯が獣人だったために、両国内の反対派が勢い付き、親獣派の主力であった父がルルーシャに付きっきりで表舞台から徐々に退いたこともあって、同盟の話は白紙に戻ってしまったのだ。
前回と同じように同盟締結が目前である今、息を潜めていた犯人が再び動くだろうことを、エドガーは確信していた。
「俺は正直、同盟なんてどうでもいい。父のような熱心な親獣派でもない。だが、ルルーシャをあんな目に遭わせた奴を許すことはできない。反獣派を黙らせ、犯人を見つけ出し……必ず潰す。お前達も──わかっているな?」
「「はい」」
猛獣が唸るような低い声でエドガーが問えば、眼光を鋭くし殺気を滲ませたメルトとユーリスが低い声を揃え、フィオグラウスも無言で頷いた。
「若様たちをあんな目に合わせた者への怒り……一瞬たりとも忘れたことはありません」
「俺もメルトと同じです。ぜってー見つけ出してぶっ潰す!」
メルトは動かぬ表情に青筋をたて、腹の奥底に煮えたぎる怒りで瞳孔は開いている。
ユーリスの顔からは笑みが消え去り、彼が握るソファの背もたれは大きくミシリと鳴った。
「必ず捕まえます。もう二度と──ルルーシャを傷付けさせません」
深い憎悪を宿した紫の瞳が、エドガーを射抜く。
ピンと立つ白い耳と尾の毛を怒りでざわと逆立てたフィオグラウスが、底冷えのする声ではっきり宣言すると、同じように静かな怒りをその瞳に燃やすエドガーが言った。
「犯人を捕まえるまで、ルルーシャの僅かな挙動も見落とすな。本当に限界かどうかは、長年共にいるクロエと一緒に見極めてくれ」
三人が頷くと、エドガーはグシャリと苦しげに笑った。
「妹を頼んだぞ、フィオ」
「はい」
差し出されたエドガーの手を、フィオグラウスは決意を込め固く握り返した。
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本作はルルーシャとフィオグラウスの恋の進展と同時に、過去の誘拐事件の犯人を探し、真相を探す物語です。
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よろしくお願い致します。




