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第20話 義兄と幼馴染と上官と

「エドガー殿は、最近ご機嫌のようだな」


 国防省の副長官室の隣にある応接室。


 ローテーブルを間に挟み、上質なソファに向かい合って座るエドガーに、優雅に脚を組むレナートが言った。


「おや、それはレナート殿下も同じでは?」


 言葉を返され、じっと含みのある視線を交わし合った二人は、お互いが同じように目を細めてニマリと口端を上げる。


 支配者然とした両者の間に、ただならぬ圧のある空気が漂った瞬間、レナートの後ろに立つイアンがニコニコの笑顔でパンと手を打ち合わせた。


「はいはい、お二人とも嬉しいのはわかってますから。そんな悪の親玉みたいな顔で微笑まない。じゃあ始めますよ。第二十七回『フィオたんの恋の行方や如何に!?』近況報告会〜!」


「はー、やっとか」

「本当に」


 明るい声が響く応接室にいるのは、笑みを深めたレナートとエドガー、そしてイアンの三人きりだ。


 それぞれの手元に握られているのは、『見守り隊』からの報告書。


 彼らは、フィオグラウスがいない時間を狙って、反獣派との争いが続く殺伐とした王宮でのストレスを発散すべく、ただただ人の恋路を観測し好き勝手喋るという、この報告会を開いていた。


「時間の調整ができなくて、前回の報告会から十日も過ぎてしまいましたからね。今日は楽しいですよー♪」


「フィオのやつ、やっと想いを告げられたようだからな。さぞ進展があったことだろう」


「レナート殿下、顔緩んでいますよ」


「それはエドガー殿も同じだろう」


「お二人、表情一緒です」


「「イアンもな」」


 報告書を前に、三人が目を細め微笑んでしまうのも無理はない。


 レナートとフィオグラウスは、主従関係になる前──幼少の頃からの幼馴染であり、四歳差ということもあって任務外では兄弟のような関係だ。


 イアンはそんな二人の剣の師であり、今は近衛騎士の上官。

「先生」と呼び後ろをついて回る可愛らしい時期から、フィオグラウスの面倒を見てきた。


 エドガーは、ルルーシャや事件のこともあって、十年もの間フィオグラウスとは連絡を取り続けていた上、もうすぐ彼は義理の弟になる。


 つまりは三人とも、犯人探しはもちろん真剣にやってはいるが、それはそれとして、恋に奮闘するフィオグラウスのことが可愛くて仕方がないのだった。


「それではまずはメルトからの報告書ですね」


 メルトが作成した報告書には、朝に行なっている『そのドキドキは全部恋。愛の言葉で気持ちを作ろう大作戦』についての経過が書かれていた。


 几帳面に並ぶ文字の中に、気になる文を見つける。



 ──────



 お二人がお気持ちを伝えあったとお聞きし、特訓内容が変更になりました。


「ルルーシャからの言葉は、彼女の心が追いつくまでなくていい」と若様が仰ったので、そのようにしております。


 愛の言葉が特訓のためのものではなく、全て本心からのお言葉だとお気付きになったルルーシャお嬢様が、毎朝溶けそうです。


 赤面されているのは今まで通りですが、距離がどんどん近付いていらっしゃいます。



 ──────



「フィオたん、頑張ってるなー」


「はあ……フィオのやつ、好かれているのがわかったから、シャルトレ嬢からの『好き』は二人きりの時にとっておきたいんだろうな。相変わらず可愛いやつだ」


 保護者のような笑みで満足そうに言うレナートの虎の尾が、興奮を表すようにタシタシとソファを叩く。


「喜んで尻尾を振っているのが目に浮かびますね。溶けてるルルーシャは俺も見たい」


 エドガーも、兄バカを隠しもせず笑みを浮かべながら報告書を読み進めていく。


 十日分の報告が書かれているため、時系列順に眺めるだけで、二人の仲が進展している様子がよくわかった。

 


 ──────



 ルルーシャお嬢様は、半獣化した状態でも、目の前に立つことまではできるようになられました。


 とても頑張ってらっしゃるので、触れるまでは、もう一息だと思います。


 若様は、お気持ちを隠すのをやめてから明らかに積極的になっています。


「あー……ルルーシャが可愛い」が口癖です。


 ルルーシャお嬢様に真っ直ぐ愛のお言葉が届いているのが、嬉しくて仕方がないようです。


 朝の特訓以外でも、隙あらば「好き」と告げてらっしゃるようで、仲が深まって良いとは思うのですが、未だに若様も赤面されているのは、克服して頂いた方が良いでしょうか?


 私としては、照れがあるのも初々しくて良いかと思いますが、ルルーシャお嬢様がもっと堂々と愛を告げる男性の方がお好みであれば、新たに特訓内容を検討致します。



 ──────



 メルトからの質問に、イアンが報告書から視線を上げる。


「え? これどう思います?」


 真剣な顔で二人に問えば、レナートもエドガーも「そのままでいい」と声を揃える。


「フィオはちょっと照れてるくらいが一番可愛いだろう!」


「ルルーシャも、強引な奴や余裕で構えてるのは俺で間に合ってるはずだ。初々しい方が、煩い貴族どもも毒気が抜かれて良いに決まっている」


「ですよねー」


 意見が一致した三人は、そのまま次のユーリスの報告書を読み始める。


 のびのびとした自由な字そのままに、内容も自由だった。



 ──────



 縛られて口開けて待ってる若ってエロいですよねーって言ったら、お嬢に泣かれました。


 メルトから俺が殴られたんですけど、どう思います?

 事実ですよね?

 これ、俺が悪いです?



 ──────



「「「何やってんだ、あいつは」」」


 三人同時に声が揃う。


「ユーリスは、あれでよくレオドニル国から同行の許可が下りましたね」


 獣人達は、群れで行動する動物の本能が働くのか、比較的その場の和を尊重する者が多い。


 だがユーリスはふらりと単独行動をすることもあれば、言動も自由。

 

 そういう個性の者もいるだろうが、同盟締結を賭けた二国の重要な時に、普通は国が進んで選ぶ人物ではないだろう。


 エドガーに言われ、イアンは困ったように首を傾げ、自身の角をさすった。


「彼は腕が立ちますからねー……()()()()()()()()()()()()()ですし、本人の強い希望もあって、『希少な種族を選出した方が、友好の証としても良いのでは』ということで許可されたんですよね」


 三人はそのまま続きを読む。



 ──────


 

 今日はついに、縛ってない状態でも『あーん』できるようになりました。


 若がめちゃめちゃ嬉しそうに尻尾振ってて可愛いです。


 若が人化してお嬢に食べさせるのは早々にいけてたんで、メニューも工夫して、フォーク使わず手でやって貰うことにしました。


 二人の緊張具合が、半獣化してる時よりハンパないんですけど、まあ順調だと思います。


「そろそろ同じ部屋で寝たら」ってオススメしたら、若に蹴られました。



 ──────



「へえ」


 報告の内容に、レナートが思わず感心した呟きをこぼす。


「かなり慣れてきていますね」


 エドガーも同意して頷いた。

 

 フィオグラウスもルルーシャも相手に遠慮しがちな分、ユーリスのような強引な者がいた方が、案外関係を進めるにはよさそうだ。


「さて……最後は()()()()()()()ですね」


 その一言で、それまでの穏やかな雰囲気が霧散し、ピリと空気が引き締まる。


 クロエからの報告書は、ルルーシャの心の内についての記載が多い。


 つまりは、事件の犯人に繋がる手がかりが含まれる可能性が一番高いということだった。


 


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