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52話 死別の帰路

来た道を戻る。


もう、母上の姿はなかった。


代わりに、そこにいたのはセイメイだった。


その傍らには、離れていたはずのルカもいる。


「ルカ……!」


ジゲンが駆け寄り、ルカを抱きしめた。


「えーん。セイメイに殺されるかと思ったよ」


あながち、嘘とも言えなかった。


けれど、ルカがそう言うと、どうしても冗談のように聞こえてしまう。


「……でも、なぜここに」


私はセイメイを見た。


「力は、もうないのでは……」


セイメイは答えなかった。


ただ、右手をわずかに持ち上げる。


その掌の上で、一つの珠が光っていた。


ジゲンの額にある宝珠と、よく似た形。


けれど、色だけが違う。


――朱色の宝珠。


私に宿った、竜を象る宝珠ではない。


ただの、丸い珠だった。


「それは……!」


玖音の声が震えた。


セイメイは、静かに言った。


『勇敢な男だ』


その声には、わずかな敬意が滲んでいた。


『自らと引き換えに、お前たちを生かした』


息が止まった。


誰のことを言っているのか。


聞かなくても、分かってしまった。


「……宵冥(しょうめい)


朱色の宝珠が、淡く光を放つ。


『この宝珠の力で、お前たちを現世へ送る』


「……なぜ、離れるのですか」


私の声は、自分でも驚くほど弱かった。


セイメイは、こちらを見た。


『俺は現世へは戻らん』


短い言葉だった。


それだけで、もう決めているのだと分かった。


『戻るのは、お前たちだけだ』


「そんな……」


言葉が続かなかった。


セイメイは、私ではなく玖音へ視線を移す。


『陰世から戻る要領だ。できるな』


玖音は一度、深く息を吸った。


「……はい」


迷いはあった。


けれど、それは拒む声ではなかった。


セイメイは懐に手を入れた。


何かを取り出そうとして――その手が止まる。


ハッとしたように、自らの震える指先を見つめた。


『そうか……』


ぽつりと、呟く。


『鈴は、もう無いのか』


「ここにあります」


私は、懐から鈴を取り出した。


母上の形見。


小さな鈴は、私の掌の上で、かすかに光を受けていた。


それを見たセイメイは、ほんの少しだけ目を細めた。


そして、薄く笑ったように見えた。


『……世に、安寧を』


その言葉に、祈りの響きはなかった。


けれど、嘘にも聞こえなかった。


本心なのか。


ただの別れの言葉なのか。


私には、分からなかった。


「―陰世の術―」


玖音の声が響く。


印を結び、掌と掌が重なる。


ぱん、と。


たった、それだけだった。


けれど次の瞬間、足元も、空も、セイメイの姿も、すべてが闇に沈んでいく。


最後に残ったのは、朱色の光。


そして、どこか満ち足りたような、セイメイの気配だった。


それを最後に――


私たちの世界は、暗転した。










二章 暁の唄 ―完結―


次章 白銀と神威

この物語を続ける力になります。

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