046_配信をしよう_⑤
「ついにこっちで配信か」
モニターに映るアバターを見ながら呟く。現在モニターにはオープニングというか、待機画面が映っている。アバターが右に左に追いかけっこをしているアバターのアニメーションだ。
どこぞの教育番組を彷彿とさせるような、人形的なアバター。ドレッドヘアにしか見えない髪の毛に、ボタンの目。鼻はなく、口はパカパカと頭部を半分に割る勢いで開くフォルムをしている。
「つか、いつの間にこんな凝ったもんを作ったんだ?」
ちょっと離れたところで準備をしているハクに訊ねる。
「作ったっていうか、ズルをしたようなものだからね、それ」
あー……。いわゆる天使パワー的な感じでやったのね。いや、ダンジョンコアを使ったのか? まぁ、いいや。これを見て、逸脱した技術の産物だなんて誰も思わないだろ。いまの技術なら、この程度のものは普通だといえる。
本当、四半世紀でどんだけ技術が進んだんだよ。ダンジョン災害があったってのに。
……いや、ダンジョン災害があったからこそか?
「では、配信をはじめますね」
「はいよー」
いまひとつ分からんが、まぁ、サラが楽しそうなのはなによりだ。
そしてサラが配信を開始した。
「おはようございます。神令サラです」
「おはよう、神令イオだ」
:おはようございまーす
:おはよー
:おはようございます
おー。奇麗に挨拶が流れていくな。
しかし、こうしてマイクに向かって喋って、コメントと会話するというのはなんとも妙な気分だな。
「んで、今日はなにをするんだ?」
「雑談ですよ」
「テーマとかは決めてあるのか?」
「いいえ。いきあたりばったりです」
「さすがに雑すぎやしないか?」
「ですから雑談です」
「違う。そうじゃない」
:なんかはじまった
:サラちゃんがボケか
「雑談するにしても、なんかテーマとかあるだろう」
「あぁ、それなら大丈夫です。これから視聴者から質問を募ろうと思います。ということで、ましまろお願いしますね」
? ましまろ?
「なんだそれ?」
「まぁ、そんなSNSの簡易版みたいなのがあるんですよ。そこで質問を募集します」
「……よくわからん」
「……姉さん、ほんと、こういうのダメですね」
えぇい、憐れむような目で見るな!
「10年以上21世紀の現代文明から隔絶してたんだぞ。そう簡単に順応できるか。俺は不器用なんだ」
「姉さんが不器用というのは認められません。とはいえ、機械音痴なのはわかりますが。慣れませんか?」
「もはや慣れる気もないな。なんだよ、あのフリなんとか入力って。くっそ面倒くさい。やってられん」
:イオちゃん
:おばあちゃんじゃないんだから
:スマホを睨んで涙目になってるのを幻視した
:なにそれかわいい!
「姉さん、ちょっとスマホを握りしめて涙目になってみませんか?」
「サラは俺になにを求めてるんだ」
向こうでハクが突っ伏して震えてるぞ。
「ちょっと写真に撮って、UPしようかと」
「や、め、ろ、つか、やらん」
「残念。でもいいです。そのうち素でやりますから」
「……くっ、否定できん」
:イオちゃん、そこまでダメなのか
:10年以上どこにいたの!?
:センチネル島とか?
:どこだよそこ
:超危険な秘境
「俺がいたのは、シャティの故郷だ。
で、サラ、質問はまだ集まんないのか?」
「いま厳選中です。ハク姉さんから回してもらおうと――あ、きましたね」
ハクがメモを飛ばしてきた。ここはアナログなのかよ。というか、天使パワーの使い方を間違っていないか?
「では最初の質問。『ドラゴンのオークションが近く開催されますが、ドラゴンの他にも出品されるのでしょうか?』。時期的に丁度いい質問ですね」
「あー……実のところしくじったんだよなぁ」
「はい? なにか問題がありましたか?」
サラが驚いたように俺に視線を向けた。
「いや、適当に5月一日からでいいや、って決めたけどさ、思いっきりゴールデンウィークの真っ最中じゃん。JDEAの関係者に迷惑かけちまったなぁと思って」
「……姉さん、ゴールデンウィークってなんですか?」
「日本の年に一度の大型連休……って云い方でいいのか? いや、すっかり失念しててなぁ」
「まぁ、いいんじゃないですか? どう転んでも手数料でJDEAは大儲けできるんですし。それ以外にも、鑑定盤を採算度外視した格安で提供しましたしね」
「いや、鑑定盤はやっとかないとダメだったからだろ。俺たちのレベルを測れないどころか、能力を見ることもできねぇ粗悪品なんだからよ。自身の資質を知ることができるってのは、アドバンテージとしてはでかいんだ。まぁ、資質となりたい自分との剥離が酷い場合は悲劇だが」
「まぁ……確かに。姉さんはかなり微妙ですしねぇ」
「手にあるもので結果を出せなきゃ野垂れ死ぬだけだ。
と、いろいろ脱線してるな。
オークションの出品についてだ」
「はい。今回の臨時オークションは、私たちがJDEAに黒蒸気竜の買取を打診したところ、金銭的理由から買取不能ということで、オークションが執り行われることとなりました。オークションといっても、ネットオークションとなりますが。
その後、松戸、上野と赴きましたので、そこそこドロップ品がありますのでそれを放出します。あとシャティが作ったコモンリングをいくつか出します。遅くともオークション開始の3日前くらいにはリストに載るハズです」
:他にもでるんだ
:確認しよ
:埴輪はでますか?
:コモンリングってなに?
「質問コメがすごいな。埴輪は――馬のことだな? それは出すぞ。あとコモンリングっていうのはひとつだけ魔法の刻まれた指輪だ。【同舟会】さんのイエローキャップ討伐戦を視た人ならわかると思うが、武器にエンチャントしたアレだ。
ただ武器エンチャは出さないって云ってたな。サラ、シャティのヤツ、なにを出したんだ?」
「【浮光】と【対物理防御】、【対魔法防御】、【索敵】、【簡易鑑定】の五種類、各10個ずつです」
「そういや、タングステンに興味を持って、いろいろやってたな」
「素材の料金分として渡されました。正直、軽く10倍以上どころか100倍くらいになりそうですが」
:指輪欲しい!
:サーチ? 索敵!?
;フローライトってなに?
:アンチマジックシェル! TRPGで聞いたやつ!
「ありゃ、名前だけじゃわからないか。まぁ、くっそ適当な英訳してあるからな。簡単に云うと、灯り、物理防御、魔法防御、索敵、簡易鑑定、のいつつだ。
コモンリング、なんて名前から察せられるだろうが、いわゆるレア度がコモンの魔法の指輪だ。だから効力はたかが知れてる。簡易鑑定は対象の名称とレベルがわかる程度だな。対象が余程馬鹿げたレベルでない限り、魔法に抵抗されることもないだろうから名前とレベルは判明するハズだ。戦闘前の判断に役立つな」
「【同舟会】さんも、イエローキャップ戦で確認していましたね。あれは簡易鑑定ではなく、標準の鑑定ですが」
:鑑定欲しい
:普通に販売とかしてくれないかなぁ
「販売は無理だな。シャティは気が向かんと、いくら金を積もうがやらんからな。気まぐれで作ったら売りに出すと思うが……」
:誘拐とかされそう
「シャティを誘拐したらきっと後悔することになるぞ」
「古エルフ相手に喧嘩を売るくらいなら、物語なんかに出てくる魔王を相手にする方が楽でしょうからね。そうですね。例えるなら……古エルフは日本でいうところの国津神みたいなものですからね。
さて、出品するモノですが、埴輪馬を出します。あと動画ではカットしていますが、松戸ダンジョン深部で入手した武具をいくつか。あと、きっと誰もいらないでしょうが、餓者髑髏の骨格標本を出します。あ、言い忘れましたが、土偶は出しませんよ。私のお気に入りですので」
「サラ、いま思ったんだが、餓者髑髏の骨、ボーンウォリアとかサーバントの素体になるんじゃね?」
「なるかもしれませんが、大きすぎますよ。大腿骨なんて40キロ近くありますし、持ち歩くには邪魔でしかありませんよ」
「それもそうか。
出品品だが、これも追加しよう。ラプトルを2頭とシャモティラヌスを1頭」
「あれ? 食べないんですか?」
「いや、来た奴はみんな狩ったけど、あんなにいらないだろ。味もワニとさして変わらなかったし」
:やった、馬が出る!
:土偶はでないのか
:ワニwwww
:ラプトル、食べたんだ
:考古学者が泣きそう
「ん? 云っとくが、ダンジョンのラプトルと実際のラプトルは別物だからな。ダンジョンのラプトルは、学者が想像した代物が具現化したものだ。実際、本物を視たことがないんだから、化石からの復元だろ? 形状は復元できても、体色までは復元できないからな」
「ダンジョンのモンスターは、ダンジョン生成時にダンジョンが喰らった人間の知識から作られてますからねぇ」
「ハクー、次の質問くれー」
:は?
:え?
:ちょっ、いまサラちゃんなんて言った!?
コメントが騒がしくなったが、無視して進めよう。どうにも天使様方、わざと失言しているみたいんだんだけれど、どうなんだろうな?
「んじゃ次の質問だ。『私はスキルがあるのに魔法が使えません。どうしてでしょうか?』」
「おや、魔法に関してですか」
「魔法使いの区分に関しての動画をUPしたからかな? まぁ、これは誤解が蔓延した結果だなぁ。
まず先に云っとく。DEAが発表しているスキルは忘れろ。あれはスキルじゃなくて属性だ。ゲームなんかであるだろう? よくモンスターなんかにくっついているアレだ。ただ、属性ははっきりいってそれだけじゃ役に立たんものだと思っておく方がいい。単に、成長しやすい方向性を示している程度だな。それと、例えば【火】属性だからといって、水に弱くなるとかはないから安心しろ」
「そうですねぇ。あれをスキルというのなら、私たちはわけがわかりませんからね。
姉さんは【変】。変身とか変化とかの変です。変わる、という奴ですね。そして私は【月】です。夜空に浮かんでいるアレです。これをスキルとすると、一体なんなんだとなるでしょう?」
:変!?
:月って、確かにスキルとしたらなんなんだ?
:もしかしてイオちゃんって変身する?
:魔法少女!!
「なんか変な憶測が飛び交ってんな。【変】は『位置を変える』的なほうの奴だぞ。俺の【念動】を示しているものだな。
サラの【月】は魔法関連だ。古来から月と魔法の関係が深いのは知ってるだろ? 月の女神ヘカテは魔法の神様だしな」
:あぁ、なるほど!
:そんな感じなんだ
「属性持ちでJDEA本部に行けるなら、再鑑定してくるといいぞ。鑑定用の魔道具を新調したからな。属性と、それにぶら下がってる【能力】を視ることができる。
と、そうだ。質問主の属性がなにか知らないが、【火】とかだったら、おがくずあたりを丼にでも詰めて、それに向かって『火が点けー、火が点けー』って念じてみるといいぞ。上手くいけば発火能力身につく。それができたら、【火矢】とか【爆火】あたりを練習するといい」
:ばっかってなに?
「【爆火】は爆発する火で【爆火】な。掌の先に瞬間的にボンッて炎を炸裂させる魔法だ。完全に近接用だが、これ、極めると地味に有用だぞ」
「『バーニングフィンガー!』とか云って発動させて、ゴブリンの頭を消し炭にすることもできますよ。尚、処刑BGMは各自で用意してください」
「……サラ、今度はなんのアニメに影響を受けた? えらく物騒なんだが」
サラはそっぽを向いた。
:処刑BGMwww
:バーニングフィンガーwww
:俺のこの手が怒りに燃える! から始まるんですね
:サラちゃんwww
:俺、【火】だし、頑張って目指してみようかな
:バーンパンチとかも出来そう
「能力魔術の練習は一番簡単とういうか、地味なものから始めるといいぞ。周囲に被害がでないようにな。
んじゃ、次の質問行こう」
「『私はイオちゃんと同じ念動使いです。ですがイオちゃんのようにピュンピュン飛び回ることはできません。どうした同じようなことができますか? 練習して、どうにか浮かぶことはできるようになりました』」
なんか予想外の質問が来たな。
ハクを見る。なんかサムズアップしてんな。もしかしてこの質問、多かったのか? ……多かったんだろうなぁ。念動使い、使えねぇって云われてるらしいし。
基本、遠くのものを引き寄せる程度しかできないからなぁ。
「姉さん?」
「いや、これどう答えたもんかな。とりあえず、俺の真似はやめた方がいい。アレ、実際のところやり過ぎな行為だからな。普通に内臓が死ぬ」
「あー。そういえば、【BS】を使うときは、同時に【IC】も使っているんでしたね」
:ビーエス?
:ブリンクステップ。イオちゃんが瞬間移動するみたいに移動するやつ
:アニメとかのショートテレポートっぽいのだよね
:アイシーってなんだ?
:I see わかりました、じゃないだろうし
「【IC】はイナーシャルキャンセラー、要は慣性制御だ。馬鹿げた速度でのストップ&ゴーなんてやってたら、慣性力……Gで大変なことになる。下手すると失神するからな。そのGを抑える――というか、強引に念動で相殺するのが【IC】だ。
まぁ、普通、できるわけがないんだろうが、ガキの頃からあれこれ試していたらなぜかできるようになった類の魔法だから、他人に教えようがないんだよな。
あぁ、あと、俺の場合は、魔力でのごり押しで自身の動きを制御してるからな。魔力量を馬鹿げたレベルにまで増やさないと、俺みたいに好き勝手に動くのは厳しいぞ」
「……そういえば姉さん、魔法職の私よりも魔力は多いですよね」
「空、満タン、空、満タンを徹底してやりまくって無理やり魔力量を増やしたからな。そうしないと念動を実用レベルで使えないんだよ。瞬間的に使うだけじゃ、致命的なダメージを対象に叩き込めねぇから」
「……姉さん、その当時はなにをやらかそうとしてたんですか?」
「え? ダンジョンの天井を崩落させてモンスターをつぶそうとしてたんだけど」
「……うわぁ」
:うわぁ……
:うわぁ……
:イオちゃん……
:やべぇ、俺たちと発想が違う……
:ダンジョンって、基本的に壊せないよね
:イオちゃん、壊そうとしたのか
「それじゃ次の質問を……これは同じ人でしょうか?」
「違うよー。いま来たばっかりのヤツ」
ハクがのほほんとした調子でサラに答えた。
「どんな質問が来たんだ?」
「あ、はい。『あんなに瞬間的にピュンピュンと動いて、イオちゃんは目が回ったりしないんですか? ブリンクステップを使っているとき、どんな風に世界が見えているのか気になります』とのことです」
「あー……。なんとなくい云わんとすることはわかるな。……そうだな、実際に見てもらうか」
「は?」
「ほら、CCDカメラっぽいのあるだろ、あれをくっつけて、ちっと戦闘してみよう」
俺がそう提案すると、サラは目を2、3度パチパチとさせるとこう問うた。
「戦闘って、どこでするんです?」
「そうだな。そこそこ広い場所でモンスターがいっぱいいるところがいいな。……うん、松戸の地下駐車場でいいだろ。あそこスケルトンオンリーのモンスターハウスみたいなもんだし。いまから行くぞ!」
「えぇ」
「転移すれば一瞬だろ。問題ない問題ない」
俺は席から飛び降りた。あんまり時間は掛けられないからな。とっとと行かねば。
「ハクー。間を繋ぐのは任せた」
「はいよー。カメラとかはラクから貰ってってねー」
「わかった。後はよろしく」
「今日はのんびりとした配信をするだけのつもりだったのに、なぜこんなことになったのでしょう?」
サラが真剣な顔で首を傾いだ。
「サラ、悩んでないで行くぞ。百聞は一見に如かずというだろ。言葉で説明するより見せた方が早い。なんか【BS】を身に着けたい念動使いがいるみたいだしな。参考になるかどうかはわからんが」
「姉さん。せっかくですから、バンシーのドロップ品でも狙いましょう」
「……レア泥は狙うもんじゃねぇけどなぁ。まぁ、いいや。ほれ、さっさと行くぞー」
俺はサラを置いて、さっさと配信部屋を後にした。




