045_APPENDIX:魔石と魔法の杖
■APPENDIX:魔石と魔法の杖
今日は上野で得た荷物の整理でもしよう。
……いや、整理っていうのかコレ? まぁ、いいか。
持ってきたマジックバックに手を突っ込んで中身を取り出す。中身はすべて魔石だ。上野で万単位で始末したゴブリンの魔石。……一応、埴輪の魔石も混じってんのか。ま、そっちはゴブリンよりもサイズが大きいから分かるだろ。
む? ラプトルとかの魔石? あっちままだそのままだ。保管庫のほうにまるごと放り込んである。
そうだ、今夜あたりラプトルを取り出して、調理するか。よし、午後にでも解体しよう。
さて、このゴブリン共の魔石でなにを作るのかと云うと、魔法触媒、及び魔法辞書の素体となる魔石だ。
正確にいうと、呪文使いが魔法を使うための触媒と辞書として使用するに足るサイズの魔石を作る。
これらの魔石を複数ひとまとめにしてひとつにするわけだ。
当然ながら、普通はそんなことなどできない。これは俺の持つ【位相】の能力によるものだ。
この【位相】、かなりデタラメなんだよな。モノの本質を変えずに形状を変える能力、ってことなんだけれど、これ、やろうと思えば生物にも使えるんだよ。
うん。かなり外道なこともできる。人間を生きたまま郵便ポストにだってできるわけだ。まぁ、そんな事をしたら生命活動、飲食と排泄ができなくなるから、普通に数日で死ぬことになるだろうけど。
あぁ、さすがに試したことはないぞ。いくら俺でもさすがにそんなことをやらかすのは後味が悪すぎる。
テーブルの上に取り出したゴブリンの魔石を適当に手に取って球体に整えていく。サイズはテニスボール……いや、ビリヤードの球くらいか。
「いつ見てもクロウのそれは訳がわからない」
俺の作業を眺めているシャティが呟く。その手には量販店で買って来た格安の歌舞伎揚げの類似品が収まっている。
「能力由来のヤツだからな。説明のつかないわけのわからんモノは結構あるさ。【暗殺者】の【影】なんていい例だ」
「あー。影に潜るヤツ。確かにあれも訳が分からない。二次元に同化できるのなら、別に影でなくてもできそうなのに、何故か影じゃないとダメとかなんなの?」
「……なるほど、お前さんだとそういう見解になるのか」
シャティの目の付け所に感心する。確かにそうだ。とはいえ、感覚的には影に潜るというのは、日本人的には納得できてしまうんだよな。そう云ったネタの創作なんていくらでもあるし、昔から忍者モノなんかだと【影縛り】なんていう、影に針なりナイフなりを突き刺して身動きを封じるなんていうのもあるしな。
……いまにして思うと、【影縛り】なんて理不尽もいいところだよな。【暗殺者】に教えてたら、どれだけ恐ろしいことになっていたことか。
つか、本当にアイツどこに行っちまったんだかな。死ぬとはとても思えないんだが。能力特性上、逃げに徹していれば死ぬことなんてないだろうし。
ぼんやりとそんなことを考えながら、ゴブリンの魔石をまとめてかためて、球状の魔石を量産していく。
「クロウ」
「なんだ?」
「形のリクエストをしたい」
……なんだか珍しいことを云いだしたな。これまではデザイン性なんてロクに気にしたことがないのに。
「リンに用意する魔法の杖で遊ぶ」
「酷ぇこといいだしたな。……で、形は?」
「ハートと星、どっちがいいと思う?」
「両方造っちまえよ。本人に選ばせて、余った方は、ウィッチズ・ネストの他の奴に押し付ければいいさ」
「なるほど」
星型とハート形の魔石を作る。立体としての形となるわけだが、さして問題はない。手本的なモノを見たことがあるからな。
クリスマスツリーの星に、イベントなんかの飾りで使われるハート型風船。あれを真似ればいいだけだ。
「色はどうする? 星は金色として、ハートは赤か? それともピンクにするか?」
「ピンクにしよう」
シャティがタブレットを操作し始めた。なにかを検索しているみたいだが。
覗いてみる。
画面には魔法少女のステッキとかタクトとかがずらりとならんでいた。これまでアニメ放送されてきた魔法少女系のアイテム名鑑的なものをみているようだ。
つか、それ、マジで作るのか?
生暖かい目で見ていたところ、やおらシャティは傍らに置いていたらくがき帳を広げた。ハクと一緒にいった文具店でサインペンのセットと一緒に買って来たらしい。
通販で買ってしまえばいいのにと云ってみたところ、この場所が場所故にかなり割高になるとのこと。さすがは危険区域ギリギリの場所というところか。固定資産税やらは安いモノの、生活面ではかなり割高になる感じだ。
まぁ、駅ひとつ離れるだけで、買い物関連は問題ないけれどな。
……ぶっちゃけ、ここに設置してあるダンジョンコアを利用すれば、物品は幾らでも生産し放題(対価となるモノは必要だが)なわけだが、そんなことをすると、色々と面倒なことになりそうだからな。
サラサラとデザインを描き始める。
……シャティ、さすがにそのデザインは可哀想なんじゃないか? 見た目は小学生じみていても、彼女は立派な大人だぞ。
「問題ない」
なにも云ってないのに答えが返って来た。
「リョーコからの要望」
「あー。あの転移使いの子か。気に入ったのか?」
「面白い。能力魔術師で転移に目覚めた者なんて初めて見た」
そういやそうだな。
「生活環境、育てられ方、血統、精神的有り様、いろいろ調べたい」
なんだか微妙に怖いことを云いだしてないか? というかだ――
「いま思ったんだけどな」
「ん?」
「シャティ、まさかと思うけど、【研究者】だったりしないよな?」
「む? 【研究者】……あー、“頂点”の第2席。違う。私じゃない。あれは私の知り合いの昆孫だか仍孫だかだったはず。1000……いや2000年前くらいだったかな。一度里に里帰りしたときに会って、少しばかり手ほどきした。出来は悪くはなかったが、優秀とはいえなかったのを覚えている」
「優秀じゃないって、“頂点”のひとりだぞ。俺は会ったことはねぇけど。確か100年くらい前から行方不明っていうからな」
「ほぼハイエルフにまで血が落ちた古エルフだからね。もしかしたら生きるのに飽きて朽ちたのかもしれないし、どこぞで楽しい研究対象でも見つけて、あれやこれやしているのかもしれない。私も放浪中、興味あることを見つけたら、そこで4、500年時間を費やしたりしてたし。ウミグモとか興味深かった。
それに、生きていたとしても多分そろそろ寿命なんじゃないかな? いいとこあと4、500年くらいだと思う」
……時間間隔が違い過ぎて、微妙にピンと来ねぇな。感覚的には『うわぁ』って感心するしかねぇや。
「そんなことよりクロウ。このデザインをどう思う」
シャティが落書帳を見せてきた。そこにはやたらとファンシーな魔法使いの杖が描かれている。
というか、冗談じゃなしに完璧に魔法少女が持ってるようなタクトとかの類じゃねぇか。
「……それを持たせるなら、それに見合った服装でもさせなくちゃダメなんじゃねぇか?」
「なるほど。よし。リョーコが来たら相談しよう。リンはきっと同意しないだろうから」
「いや、もし嫌がるようならやめてやれ。可哀想だから」
「むぅ」
「いや、『むぅ』じゃなくてな。まぁ、その杖……つーかタクト、だよな? さすがにそのデザインで標準サイズだと太さ的にまともに持てんし」
「そう。いいとこ60センチくらい」
「そうか。まぁ、それを作るだけにしとけ。普通の杖でも、お星さまなりハートなりくっつけられんだろ。いい感じのをデザインしとけ」
「むぅ……せっかくクルクル回るようにするつもりだったのに」
なぜ無駄なギミックを付けようとする。つか、それ耐久性に問題がでないか?
「デザインの参考なら、アニメよりもゲームの方がいいんじゃないか? ネットで検索すればいろいろ出てくんだろ。リアルの方は調べ済みだろ?」
「販売サイトで調べた。けれどあれだと魔法の杖と認識されずに色々と問題になるだろうから除外した。でも、なるほど。ゲームは盲点だった。参考にするなら……2Dゲームじゃないほうがいいかな?」
あー。確かに現実に普通に使われいるのと酷似していたら、面倒臭いな。まぁ、職人が増えたら、そういうのも出てくるだろうが。
シャティが再びタブレットを操作し始めた。なんか、すっかりこっちの機器に馴染んでるな。もう俺より上だぞ。まぁ、体を動かす方はともかく、頭を使う方はとんでもなく優秀なわけだしな。然もありなんってことか。
ごとんごとんと魔石をまとめて固めていく。60個作ったところでひとまず終了。ゴブリンの魔石、まるで減った気がしねぇな。これ、汎用できるレベルのサイズにまとめ終えるまでに、どんだけ時間が掛かんだ? まぁ、気長にやるか。捨てるのも勿体ないしな。
これで魔法使いの杖30本分だ。今回来る生徒用には十分だろう。生産系の術師の育成なわけだが、魔石に術式を刻むにしても、魔法触媒はあったほうが、初心者には楽だろうからな。
「なかなかに無難なデザインが多い」
なんだかシャティは不満気だ。
「そりゃそうだろうよ。奇抜なのは目を引くが、結局のところ初見の一瞬だけだ。使い勝手がいいか悪いか、そこに集約する。自分の命を預けることになるもののひとつだからな。実際、俺が使っているモノも、オーマの常識からすれば奇抜な形をしているものの、デザイン的にはシンプルそのものだろ?」
「なるほど。確かにアレは機能美を体現しているといえる」
「あまりに玩具みたいに見えても問題だから、多少は弄ってはあるけどな。で、デザインは決まったか?」
「シンプルなものにする。地球だと、魔法使いと云えば使い魔に動物を使うと聞いた」
「あー。確か、クロネコ、カラス、カエルといったところだったかな? メジャーは黒猫、次点で烏、蛙は少数派だった気がする」
他になにかあったっけかな。……鰐? まぁ、俺のこの手の知識なんざ、大学時代、ファンタジー系の話が好きだったヤツから聞いただけだからな。
「なるほど。それを題材にする。ネコは……デザインが微妙になりそうだから、カラスとカエルにする」
「……どんなデザインにするのか見当もつかんな。まさか杖の天辺に乗っかってんのか?」
シャティが目を見開いた。当たりかよ! つかカラスはともかく、カエルは……。まぁ、シャティのセンスに期待しよう。……望み薄だが。
「そこでお願いがある」
「なんだ?」
「デザイン的に、魔法辞書は球状より柱状の方がいい。半分、形を変えて欲しい」
そう云ってシャティはテーブルの上に転がっている魔石を指差した。
なるほど。杖に辞書をほぼ内装するんだな。
「強度は問題ないのか? そんな造りで」
「そこは導体につかうミスリルで補強する」
「また力技を」
俺は手近な魔石を手に取った。
「で、柱状といってもいろいろあるぞ。お望みはなんだ?」
「六角柱。それが正しい形」
なぜか得意満面なシャティを見ながら、俺は手の魔石を六角柱の形に加工した。




