045_APPENDIX:JDEA本部にて、とある課長とその部下の会話_⑤
■APPENDIX:JDEA本部にて、とある課長とその部下の会話_⑤
「課長。ただいま戻りました」
「あぁ、お疲れ。……早田は少しは落ち着いたか?」
「多少は。……大丈夫なんでしょうか? 溜まりに溜まった未鑑定品の鑑定で、ロクに自宅に戻っていない様子ですし。大分くたびれていますよ」
「帰ってないって、あれから4日だぞ。さすがに終わってるだろ?」
「はしゃぎすぎて記録を取っていなかったそうです。そのことに先ほど気がついて、温井主任と顔を見合わせて青くなっていました。互いに記録を撮っているだろうと思っていたようです。鑑定結果を見てはしゃぐだけで、スマホで撮影することも忘れていたようですね」
「なにをやってんだ……」
「魔導書の通訳の方ですが、引き受けていただけました。……頂けたんですが」
「何か問題があるのか?」
「いえ、内容の大半が戯言だそうで、あまり翻訳の意味がないと」
「は?」
「いわゆるフレーバーテキストの塊なんだそうです、魔導書。必要となるのは、後半部に記されている魔法陣のようなものと、その説明文のみとのことです。ページ数でいえば、10ページもありません」
「……魔導書って確か、どれも300ページくらいあったよな?」
「はい。一般的な小説と同程度ですね」
「それが……戯言だと?」
「架空の魔術師の半生と、いかにしてその魔法を生み出したを、大層つまらなく記してあるそうです」
「よりにもよってつまらんのかよ」
「肝心の場所に辿り着くまでに投げ捨てたくなるくらいには」
「質の悪い本だな」
「ですので、肝心の部分だけ翻訳するということとなりました」
「それが無難だな」
「はい。いかにしてウミウシを食するのか? その調理過程を無駄に壮大かつ抽象的に解説し、その結果ウミウシの不味さに勝てなかった魔法爺さんの心境を、数十ページに渡って読み進めるのは不毛と云うものです」
「なんだそれは!?」
「試しにとサラさんがその場で翻訳してくださいました。淡々と似たような表現の感想が続くあの文章は、読み手の忍耐を試す悪意に満ちていると思いましたよ。その章の最後に『なぜ私はこんなものを食べようと思ったのか!?』で〆られていました」
「……そういえば、どこだかの郷土料理だかで、アメフラシを材料としたものがあったな。……美味いのかね? 個人的には、食糧難の際にやむにやまれず、無理矢理どうにか食べられるようにしただけの料理と勝手に思っていたんだが」
「確かにアメフラシもウミウシの一種ですけど、あんな紫色の液体を出すナメクジの親分の料理があるんですか? ……私は遠慮したいですね」
「まぁ、ウミウシはどうでもいい。それでおふたりはどうした?」
「帰られました。途中、アメ横に寄るそうです。ゼルエル様のご要望のようです」
「“様”付けなのか……」
「信仰どうのは関係ないんです。対面すれば分かりますよ。“逆らってはいけないヤツだ”と自覚させられますから。それに、実際には天使ではないそうですし」
「どういうことだ?」
「神に仕える存在であるのは確かなんですが、私たちに認識させる際に天使が丁度良かったので、その名を借りているそうです」
「天使の名っていうと、“ガブリエル”とか“ミカエル”とかか?」
「別名の方から取っているみたいですね。今日、本部長を震え上がらせていたゼルエル様は“神の手”と呼ばれています」
「あー。そういうやつか。……なんだか嫌な予感がするな。いま神令家にいる天使様方の名前は? 特に別名の方」
「……その、私は諦めました」
「まて、なんだその不穏な答えは!?」
「“神の雷霆”、“神の雷霆”、“神の毒”または“神の悪意”、“神の正義”、そして“神の手”です」
「……なんで“神の雷霆”を2回云ったんだ?」
「レミエル様とラミエル様、それぞれ存在しているからです。地方による読み方の違いなんでしょうか? 複数読み方がある天使様がいますから」
「そんないい加減な」
「もともと天使様は肉体を持たない存在らしく、地上に降りるために受肉をしたそうです。それを行ったのがライラエル様、“神の夜”と呼ばれる受胎関連を司る天使様ですね。そのライラエル様がレミエル様とラミエル様を受肉させた後、そう名付けたそうです。ただ、その名付けを面倒に思われたようで、“神の雷霆”の複数の名前から、これでいいやと、お二方に名付けたそうです。
この杜撰な事実が発覚した後、お二方はライラエル様を殴り倒したと聞いています。サキエル様も思うところがあるのか、あれは一度完膚なきまでに殴られた方がいいとまで云っていました」
「随分と人間臭いな!?」
「人間臭いといいますか、一度食事風景を見ることがあったのですが、ものすごくはしゃいでいました。肉体を持ったことで得られる情報……感触とか、味覚とかですね。それが新鮮なようです」
「なるほどなぁ。それはなんとなく、分かる気がするな。スキルを得た奴が、試したくて仕方なくなるような気持ちと似たようなものだろう。きっと」
「あぁ。確かに、云い得て妙かも知れません」
「ほかには?」
「鑑定盤ですが、あと1ダース融通してもらえることになりました。これで打ち止めとのことです。イオさんが所持している鑑定オーブの数の関係上、これで終了とのことです。100層以降でアイテム稼ぎをすれば、それなりにでるそうです」
「あー。そうか、個人所有のものを融通してもらってるだけだからな。なるほど、シャティさんが制作しているというわけではないんだな」
「シャティさんは正確には、魔道具の製造ではなく、魔道具の加工、改造ができるということのようですね。それらは趣味で、本職は薬の製造とのことです」
「あぁ。イオさんが金属製の試験管みたいなのに入れてたアレか。そういえば、鼻に膝蹴りを受けて、恐らくは鼻骨骨折で酷く出血していた山常を一瞬で治してたな」
「えぇ。ですから、ポーションの類を販売する予定であるのか、聞いてみました。答えは予定なし、とのことです」
「ふむ。理由は?」
「既得権益と殴り合いはしない、とのことですよ。ただ、現代医学では即時対処不能である場合には、販売もあり得る、とのことです」
「なるほど。“風邪の特効薬を開発したら殺される”なんて話があるが、そういうことだろう。人類が救われる発明を人類は望んじゃいないのさ。少なくとも、それで金儲けをし、それでサラリーを得ている連中は」
「なかなか酷い言い種ですね。確かに事実ですけど」
「世界中転戦したってことは云ったろ? 行った先々で色々と酷いもの見て来たんだ。人間、不相応に偉くなるもんじゃないと思ったね。偉い奴ほど優先事項をはき違えてやがる」
「課長?」
「すまないな。いまさら愚痴る事じゃない。やれやれ。シャロンの奴がいまだに壊れたまんまなのを見ちまったからかねぇ」
「確か、AUDEAの?」
「そうだ。例の探索者の面倒を見ているらしい。アレもスキルを得たせいで権力者共に良いように使われて壊されたからな。ダンジョン災害の混乱に紛れて、邪魔者を殺すなんてのは当然にように行われててな。それを実行するのに当時10歳のシャロンが使われてたんだよ。ウチのリーダーがそれを見つけて、事情を知って激怒してな。まぁ、あれやこれややらかして保護したんだ。人間らしく戻すのに3、4年掛かった。もっとも、上っ面を取り繕うだけで、中身は壊れたまんまだ。まぁ、悪戯をするようになっただけ、まともになったともいえるが……あいつの精神年齢は半ば10歳のまんまで止まってる」
「あの、シャロンさんの【属性】は?」
「【火】。この間話した、やらかしたヤツだ」
「うわぁ……。え、それじゃ――」
「脅されて命令されて実行して、当然その結果を見るとなったら、まぁ、普通の感性の子供なら壊れるわな。それまでまっとうに躾けられた子供なら尚更だ。
話が脱線してるな。他にはなにかあったか?」
「シャティさんの教室に送る人選が決定しました。装備開発部開発課から3名。管理課から2名です」
「開発部内で間に合ったか」
「はい。JDEAからその5名。ロージーから10名。同舟会から5名、そしてウィッチズ・ネストから5名、計25名で、週明けからシャティ教室が開始されます。促成するとのことですので、ロージーの10名の内5名に関しては必要なことだけを出来るようにする、とのことです。他は教導役に仕上げると」
「随分早いな。予定では来月からじゃなかったか?」
「人数も集まったので、前倒ししてしまうことにしたようです。予定に関しては一番問題があるであろうロージーが、それで問題ないということで、週明けの14日からのスタートとなります」
「ふむ。そういえば張戸はイオさんたちに誘われたりしなかったのか?」
「シャティさんに『マユは強制』と云われてしまいました。シャティ教室外でとなりますが」
「ほぅ、随分と気に入られたみたいだな」
「気に入られたというか、面白がられているような気がします」
「……ということは、魔法使い候補か?」
「どうなんでしょう? 年齢的には魔法使いは厳しいと思いますが」
「魔法による工作系は教室の方だろう? とすると、別となるわけだが……薬か?」
「……えぇ。いましがた、既得権益と殴り合うのは自殺行為と」
「まぁ、なんだ、がんばれ。なに、個人でやる分には問題ない」
「はぁ。シャティさんが相手ですからね。諦めます」




