047_配信をしよう_⑥
「はいはい皆さん、ここからはふたりに成り代わって私が配信しますね。小神ハクです」
えーっと、ふたりのアバターを片して……面倒だから私のはいいか。
実写に変更。これまで私は顔出しはしていなかったけれど、JDEA本部に何度も行ったこともあって、ほぼ完全に面が割れてるからいいだろう。
:は、ハクちゃん!?
:アバター! アバターがでてないよ!
:放送事故!?
「事故じゃありませんよ。今日はこれで行きます。私の面も割れてますしね。あのふたりと、さらにシャティも一緒にJDEA本部にいくと、もう周囲から視線が痛いほど飛んできますから」
そういってケラケラと笑う。
:美女3人+1じゃなくて美女4人だし
:実際大変そうだよなぁ
:変なのが沸いてでるしな
:そういやサラちゃん……
:あー……山常一派がやらかしたな
:茨ちゃんも前は酷かったしな
ふむ。茨ちゃんというのは、JDEA本部付の探索者、間庭茨のことだろう。日本の探索者の中ではトップの存在だ。確か公表レベルは157だったか。
「さて、イオちゃんたちが松戸から配信を……というか、こっちに映像データを送ってくるまで少し時間がありますから、質問を受けますよ。主に私宛てのものとなりますが。ましまろじゃなくてコメントでどうぞ。適当に拾いますから」
おおっと。なんだか急にコメントの流れが早くなった。んー……このあたりを拾うか。
「えーっと。『マナクラフトの販売はいつ頃になりますか。またロージーと提携したのはなぜですか?』。
マナクラフト、というかマナクラフト搭載の撮影用半自律型ドローンですが、販売時期はまだ未定です。早くとも年末くらいになるでしょうか。受注販売ということで、ある程度先行で販売が行われるかもしれませんが。
来週頭からシャティが技術者の育成をはじめますので、その進捗度合いによって多少変わりますね。この配信を見ているかは知りませんが、ロージーより選定された錬金術師の才を持っていた技術者のみなさん、頑張ってください。シャティは教育者としては優秀なんだかポンコツなんだかよくわかりませんから。
それとロージーを選んだ理由は、イオちゃんの鶴の一声です。一応候補としては、EXPを出している大手4社としたんですが、そこからイオちゃんが選びました。選定理由はまぁ、一般的なスマホ選びの際の理由とほぼほぼ同じでしたね。信用ならんところを排除して、バラかパイナップルかで悩んだそうですよ」
:早くて年末かー
:錬金術師、そんな促成で大丈夫なのかな?
:ポンコツwww
:あー、なるほど
:なんとなく察した
:技術の盗用とかいまだに聞くし
:爆発事故の裁判もつづいてるな
「促成の方は問題ありません。急場しのぎというわけではありませんが、ひとまず、ひとつのものを作ることのできる技術者を作ります。教育もクソもないです。昔の写本作製と一緒です。写本をしていた人って、文盲の方が多かったんですよ。見て、同じに写せればいいというね。
まぁ、一仕事完了したら、改めてシャティが教育する予定ですから問題ありません」
:あー、なんというか
:需要がある以上は仕方ないのか?
:え、今の時代に手工業?
「いえ、手工業ではなく、いうなれば工業用ロボットの作製の方ですね。マナクラフトの中枢をつくることができるロボット……オートマトンですよ。だから錬金術師の方が馬車馬の用に働かされるようなブラックにはなりませんよ。一定数作って、ラインが動くようになれば量産できるようになりますから。まぁ、それまでは大変でしょうけど。
では次の質問いきましょう。『上野でサラさんが使っていた配信機材は販売されるのですか?』。えーっと、これはEXPのガジェットとして開発したほうのヤツかな。現状は未定です。まだ試作段階なんですよ。機能は問題ないんですが、いかんせんサイズが……」
:大きいのか
:どのくらいのサイズなの?
:大きくても動きを阻害しなければいいんじゃないかな
「えー、ここが科学と魔法の違いの問題点でして。基本的にオートマタの中枢を利用しているんですが、これ、小型化が出来ないんですよね。いや、できなくもないんですが、そうすると機能の大半をオミットすることになるので、どう考えても値段に見合わない装備になります。ありていに言えば『買う価値あるのか? コレ』状態になるので、見合わせている感じです。現状でのサイズがEXPの3倍くらいの厚さになりますね」
:微妙に邪魔なサイズ
;重さもありそうだなぁ。
:即時使うアイテムが圧迫されるなぁ
「えぇ、そういうことです。なので、自律ドローン型のマナクラフトのほうが利便性はいいですね。やろうと思えば、マナクラフトに2キロくらいまでなら荷物を持たせることもできますし」
:地味に有用だなぁ
:2キロか、携行食とか積むのがよさそうだな
コメントを拾っていると、傍らに置いておいたスマホに着信があった。サラからだ。松戸に到着して、配信を開始したらしい。
それじゃ、PCに繋いでと。
うーん……。試作機のアダム君はこうしないとネットに繋げられないのが欠点だなぁ。まぁ、このほうが有益である場合も多いんだけれど。ま、製品版はEXPを介して即時ネットに繋げるから問題ないし、アダム君はこれでいっか。
これでよしっと。
それじゃ画面に映像をだして、これでいいかな?
「それじゃ、イオちゃんたちが松戸に到着したみたいなので、みんなで見ていきましょー」
そういってからサラを呼ぶ。するとサラが画面の橋からひょいと顔を出した。現在画面に移っているの松戸事務所の受付。その前で浮いているイオちゃん。そして画面左からにゅっと見切れているサラだ。
『ハク姉さん、問題なく映っていますか? プライバシー保護機能はきちんと機能してます?』
「大丈夫。ちゃんとしていますよ。受付のふたりも、パペット仕様な姿に変換されていますし、名札も『トマトちゃん』と『セロリちゃん』に書き変わってますから。以前のぼかし仕様よりはいい感じでしょうかね?」
:イオちゃん、ちっちゃ
:浮いてる
:そういや、他の念動使いはやってないね
:地味に難しいらしい
:トマトちゃんwww
『よーし、それじゃ行くぞー……って、もうアダム君起動させてんのか』
『はい。フィルター機能のテストも良好です』
『いや、問題なく動いてただろ。なんかいじったのか?』
『現在、受付嬢が『トマトちゃん』と『セロリちゃん』になっています』
『……え?』
イオちゃんが絶句してる。珍しい。
『まぁ、正しく機能しているなら問題ないか』
イオちゃんはそういうと事務所を後にする。それにつづくサラとアダム君。
――って、これは予想外なんだど!? ちょっと修正しないとダメだなぁ。
:なんか看板が!?
:どうなってんの?
:協力サカモト! ってなんだよwww
:苦悶塾www
「あー。プライバシー保護がおかしなことになってますね、これ。いや、まさかとは思うけど、これがアダム君的ユーモア? いや、なんか問題しかないので、これはアダム君が戻ってきたら修正します」
:あぁ、科学じゃなく魔法の代物だからか
:ってことは、あるいみ融通が凄く効くってことじゃ
:でもこれはなにか違うwww
ふたりはダンジョンエリアにはいり、前回同様にイオちゃんが重い扉を開けて、ダンジョン内に。そしてややあって何事もない様子で出てきました。
『臭いは大分抜けたな。我慢できないほどじゃない。とはいえある以上、マスクはつけるが』
イオちゃんがごそごそとキャリーバッグからガスマスクとゴーグルを取り出す。ガスマスクは顔半分、鼻と口を覆うタイプのもの。そしてゴーグル。こちらはカメラを内装したものだ。
『ハクー。このゴーグル、カメラ以外になんか機能あんのか?』
「今回はイオちゃんの視点の移動を可視化仕様と思って、その変のギミックを組み込んであるよ」
『意味ないぞそれ』
「え?」
『俺は視点を基本動かさないからな。戦闘中は【広視界】で見てるから、目は動かないぞ』
「えぇー」
これは予想外。まぁ、イオちゃん視点はともかく、見ている画はそのまま録画できるからよしとしよう。
『そうそう、これを知らせておこう。松戸ダンジョンは、実入りは悪いが戦闘経験を積むにはいいぞ。いまは天使様がダンジョンの調整をした後だから、悪臭の問題も緩和されてる。これからもっと臭いも抜けるだろ』
『モンスターも大半が非実体型になっていますしね。ドロップは下級ポーションばっかりですけど』
:待って待ってどういうこと
:調整?
:?????
「あー。これは当人に聞いた方が早いですかねぇ。誰かいま――」
「呼びましたか?」
おや珍しい。レミエルが来ましたよ。
:天使様だ
:天使だ
:お美しい
「視聴者のみなさんこんにちは。神の雷霆:レミエルです。我々がなにを行っているのか、この場を借りて説明します。我々がやっていることは、ダンジョンの調整です。ダンジョンは、いわゆる邪神が生み出したものであるため、現状、非常にやっかいな機能が備わっています。邪神は我らが神が滅ぼしましたが、ダンジョンはそのままその厄介な機能を発揮したままです。ですので、我々が行っているのは、その厄介な機能の停止、排除、ついでに問題のある状況のダンジョンの調整です。
当初、ダンジョンすべてを破壊することも考えたのですが、どうも人類は鉱山としてうまく利用しているようですので、残すことを決定しています。
松戸ダンジョンですが、これまでの探索者による討伐実績と、スタンピードの頻度を鑑みまして、特殊ゾンビをのぞく全ゾンビの非実体化をしています。これによりスタンピードはほぼ起こらなくなっています。
最後に、ダンジョンの調整に関し、我々は一切の要望を受け付けることはありません。我々は大神様の命にのみ従います。馬鹿な真似はしないように。
では、これで失礼します」
レミエル退場。コメントは――あぁ、大変なことに。とりあえず、落ち着くまでこっちは放置と。
さて、イオちゃんたちはどうだろう?
あ、ちょうどエレベーターのところだ。
『んじゃ、目的地まで一直線だ。このダンジョンのいいところは、最奥まで一気にいけることだな』
『そうですねぇ。他のダンジョンじゃ無理ですからねぇ』
エレベーターのドアをイオちゃんが念動で開ける。こういう時、念動は実に便利だ。指がうまく引っかからない扉なり蓋なりでも、問題なく開けることができる。
ふたりは躊躇なくエレベーターシャフトへと飛び込んだ。そしてゆっくりと降下していく。
『そういや、籠はどうなってんだ? 吊るすワイヤーも見当たらないが』
『一番下に落ちているようですね。地下駐車場の場所です』
『あぁ。それなら楽だな』
そうしてふたりは落下していた籠の上に乗り、天板? を外して中へ。ドラマや映画だと中からも開けられる演出があるけれど、実際には外からしか開けられないんだよね。たとえ作り話でも、誤情報を流すのはどうなんだろう?
『ハクー。映像はEXPでそっちに送ればいいのかー?』
イオちゃんが訊いてきたので、そうだと答える。……不安だからサラにそこらのことは頼もう。
うん。画面ではサラがゴーグル、ダンジョン内外よう通信ガジェット、EXPとをケーブルで繋ぎ、邪魔にならないよういい塩梅に調整している。
最後にEXPをピッピッピッと。うん、映像が来たね。
「はいはい、レミエル登場で盛り上がっている諸君。イオちゃんたちが目的地に到着しましたよー」
『ハク、映像は問題ないか』
「問題ありませんよ。……あれ? 頭につけていますよね? ほとんど揺れないんですけど」
『手振れ補正機能が働いているんだろ?』
「あれ? つけたかな? 私。いや、つけてないハズ。まぁ、いいか」
『それじゃ質問した人ー。まだ視てるか? まぁ、視てなくてもアーカイブで視ればいいな。それじゃ、ちっと殲滅してくっか。サラ、スケルトンは何体くらいだ?』
『100くらいですね。前回よりは少ないです』
『あー。溜まってたんだろ。できてから一度も攻略されてなかったし』
:画面中央にクロスヘアみたいなのがある
:残像が残るね
:これがイオちゃんの視点?
:なんか、中央から動かないんだけど
:あ、エレベーターが開いた。
エレベーターが開いた。、直後、それこそギュンと音でもしそうなほどの速度で正面のスケルトンに肉薄。手にしていた剣でスケルトンの首を貫く。
首根っこのあたりの骨、頸椎あたりにスケルトンは魔石があるとのこと。イオちゃんはそこを的確に手の剣で貫いていく。
今回のイオちゃんの得物はマナブレイド。魔力をそのまま刀身にした剣だ。見た目的には、柄に蛍光灯をくっつけただけの代物に見えなくもない。
某SF映画の光剣を彷彿とさせる。
スライドするように高速で動き、刺突、移動、刺突とイオちゃんは繰り返していく。
恐ろしいことに、カメラが一切上下にブレない。
アダム君の方の映像もしっかりと配信している。こちらは第三者視点でのイオちゃんの動きを追っているわけなんだけれど、えぇ……なんであれだけの動きをしていて、一切ブレないの?
:あっという間にスケルトンが減っていく
:酔うかと思ってたけど平気だ
:イオちゃんの視点がまるでブレないんだけど?
:そういやここって100層以上だよな
:え、このスケルトンのレベルいくつ?
ふむ、レベルか。サラに訊いてみよう。
「サラー。そこのスケルトンってレベル幾つ?」
『レベルですか? えっと……だいたい300前後ですね。101層ですしスケルトンですから、こんなものでしょう。』
:レベル300!?
:え、雑魚だよね!?
:つか、100層以降なんて基本未踏だぞ
:え、松戸、エレベーターシャフトを降りる装備があれば、一気にそこまで行けるのか
:特殊ゾンビよりは相手にしやすそうだし
:しっかり準備すればレベル上げにいいかもしれない
おや、これはレベル上げを頑張る探索者がでるかな? とはいえ地下駐車場はモンハウなのが問題なんだけれど。
あ、イオちゃん、終わった。
『まぁ、こんなもんかな。【BS】は使わずに【GM】……グラインドムーブっていう、ホバークラフトみたいに動く形で仕留めたが。ところどころでスピードを瞬間的にあげたりしたから、どんな感じかはわかったと思う。
あ、そうそう。ここ、初級者には丁度いいレベルの稼ぎ場だぞ。エレベーターの籠の上にすぐ逃げられる状態にしておいて、籠内からスケルトンを狙撃すればいい。押し寄せてきたらエレベーターの上に退避、そこから籠内にいるスケルトンを仕留めろ。時間は掛かるやもしれんが、レベル一桁でもレベル300前後を倒せるぞ。ドロップは諦めなきゃならんが、レベル100を越えれば魔力装甲もソフトレザーくらいには堅固になるはずだ。多分、ここで作業するだけで200くらいまではいけるんじゃないか?』
『……死んじゃいませんか?』
『そこは上手くやれよ。せっかくハメができるんだからさ』
:地形ハメかぁ
:確かに、俺たちにとってレベル300はおいしい
:しかもたくさん
:でも場所がなぁ……
:100階を降りるのが怖い
:のぼるのも怖い
『んじゃハクー、これから帰るな。配信の方は任せた』
あ、切れた。え、こっちに丸投げ? あ、アダム君のほうも切れた。ちょっとサラ!?
「むぅ。ふたりとも配信をこっちにぶん投げましたね。
まぁ、時間もいいところですし、本日はここで終了です。
先ほどのイオちゃんの戦闘は、それぞれの視点のものと、左右分割で合成したものの3本を、後ほどUPします。……遅くとも明後日までにはなんとか。
では、みなさんお疲れさまでした」
私はカメラに手を振ると配信を切った。
なんだろう。配信の度に私は振り回されているような気がする。
さっきまで私が座っていた席に視線を向ける。そこではラクが非常に不愉快な表情を浮かべていた。
あー。さすがにコメントにキレたか。
コメント……いわゆるアンチコメというやつだ。誹謗中傷を書きつけてくる愚か者。
まぁ、ここは科学世界に順応したダンジョンで、そういった嫌がらせをした相手の居場所なんてすぐに割り出せるんだけれど。
あ、レミエルが行った。何人処してくるんだろ? いや、雷撃でPC破壊とかかな?
ま、ご愁傷さまだよ。金銭的被害だけですむんだから軽い軽い。
私はぐっと伸びをすると席を立った。
さて、これから帰ってくる二人用に、なにかお茶菓子でも作ろう。多分、多少は時間もあるだろうし。
きっと、ふたりはなにかしらやってくるだろうからね。




