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基礎魔導原論 第1章 第4項

第4項 意思と呪文の関係


 魔導の根幹が意思にあることを述べた。しからば、魔導師たちが術の行使に際して唱える、あの呪文とは何であるのか。凡人の多くは、呪文の言葉そのものに力が宿り、正しき言葉を発すれば誰であれ火を呼び風を起こせるものと誤解している。これは明確に誤りである。その証左に、魔導の素養なき者が呪文を一言一句違わず唱えたところで、塵一つ動くことはない。逆に、熟達の魔導師は異国の言葉に訳された呪文をもってしても、その意味を真に解しているならば、同じ現象を導くことができるのである。このことは王国歴1311年、機構第7研究院のエルベラ・カント・ミューニが諸国の魔導師を集めて行った比較行使の検証によって、すでに揺るぎなく示されている。


 しからば呪文とは何か。端的に言えば、呪文とは意思の鋳型である。前項に述べたとおり、魔導の成否は心中に結ぶ像の精度にかかっている。しかし人の心とは本来移ろいやすく、形なきものである。怒りに揺れ、迷いに濁り、一つの像を保ち続けることすら、修練なき者には容易ではない。呪文はその定められた言葉の連なりを口にすることで、術者の精神を一定の道筋へと導き、結ぶべき像を正確に、かつ素早く心中に構築せしめるのである。鍛冶師が溶けた鉄を鋳型に流し込んで剣を得るがごとく、魔導師は揺らぐ意思を呪文という鋳型に流し込み、確固たる現象を得るのである。


 ゆえに呪文において肝要なのは、音の響きでも声の大小でもなく、術者がその言葉の意味するところを真に理解していることである。学園の徒がしばしば犯す過ちは、呪文を歌の文句のごとく丸暗記し、その一句一句が像のいかなる部分を定めているのかを解さぬまま唱えることである。かような行使は、たとえ現象を導けたとしても脆く、わずかな心の乱れで崩れ、最悪の場合は暴発に至る。呪文を学ぶとは言葉を覚えることではなく、言葉を通じて像の結び方を学ぶことなのである。


 ここに至れば、太古の偉人たちが呪文なくして奇跡を成しえた理由も明らかであろう。騎士ヒナルグハンや聖女ケニローは、生まれ持った類まれなる精神の力により、鋳型なくして像を結びえた、いわば例外中の例外である。叡智神が人に魔導を授けたもうた際、真理とともに原初の呪文体系を授けたのは、かような天稟なき万人にも魔導の道を開くためであったと、神話は伝えている。呪文とは、選ばれし者の奇跡を、学びうる技術へと変えた、人類の宝なのである。


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