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基礎魔導原論 第1章 第3項

第3項 意思


 魔力は、他の魔力からの干渉がなければ、変化せず、動かず、流れず、そのあるがままにある性質がある。道端の小石が明日も小石であるのは、その魔力が小石たることに留まり続けているからにほかならない。この静止せる魔力を動かしうるものは二つしかない。一つは前項に述べた、より高位の魔力からの干渉であり、いま一つこそが、生きとし生けるものにのみ宿る、意思である。


 意思とは何か。それは単なる願望や思いつきの類ではない。魔導における意思とは、導かんとする現象を心中に明瞭に像として結び、その像へ向けて己が魔力を方向づける、精神の働きの総体を指すのである。火を望むのであれば、ただ漠然と「火よあれ」と念ずるのでは足りぬ。いかなる大きさの、いかなる熱の、いずこに生ずる火であるのか、その像が曖昧であれば、魔力もまた曖昧に流れ、現象は導かれぬか、あるいは望まぬ形に転ぶのである。駆け出しの徒が灯火一つ点すに半刻を要し、熟達の魔導師が瞬きの間に業火を呼ぶ、その差の大半は、保有する魔力の多寡ではなく、この像を結ぶ精度と速さにあるのだということを、若き徒はまず胸に刻まねばならない。


 また意思は、修練なくしては御しがたいものであることも忘れてはならない。先に述べた幼子の涙の例のごとく、意思は本人の自覚なくして魔力に作用することがある。強き怒り、深き悲しみ、抑えがたき恐怖は、それ自体が方向なき意思として己が魔力を揺らし、ときに周囲の魔力にまで干渉する。魔導学園において入学の徒にまず精神修養を課すのは、古臭き礼法のためではない。御されざる意思は御されざる魔力を生み、御されざる魔力は災いしか生まぬからである。王国歴1402年、東方辺境のとある村にて、魔導の素養豊かなる少女が肉親を喪った悲嘆により一夜にして村を凍土と化さしめた、いわゆる「白き谷の悲劇」は、機構の記録に今も残る戒めである。


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