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基礎魔導原論 第3章 第6項

第6項 無属性魔導と生活魔導

 これまで述べてきた黒白の諸属は、いずれも火なり治癒なり、明らかな属を帯びた術であった。しかし魔導の裾野には、属を持たぬ術、あるいは属を問わぬ術が、広く根を張っている。本項に述べる無属性魔導と生活魔導が、これである。華やかさには乏しいが、これらこそ魔導という大樹を地中で支える根であることを、若き徒はまず知らねばならぬ。

 無属性魔導とは、放出した魔力を特定の属へと変容せしめず、ほぼそのままの形で用いる、最も初歩の術である。第2章に述べた、灯杖に魔力を送りて光らせる修練そのものが、すでに無属性の行使にほかならぬ。また、火でも水でもなく、ただ魔力の壁をもって身を守る簡素な防御、放った魔力でものの在り処を探る心得、あるいは第2章第3項に挙げた「無火」「無流」のごとき、現象を打ち消す呪文も、特定の属に依らぬ点で無属性に連なる。属を結ばぬがゆえに像は単純であり、暴発の危うさも少ない。それゆえ初学の徒の格好の足慣らしとされる。

 されど無属性を、ただ初歩と侮ってはならぬ。属とは、魔力をある一つの方向へ強く偏らせて結ぶ像である。その偏りのない、いわば素のままの魔力を御しえぬ者が、いかにして偏らせた魔力を御しえようか。家を建てんとして地ならしを怠る者がなきがごとく、無属性の確かな御しは、あらゆる属の魔導の土台をなしている。熟練の魔導師ほど、人知れずこの素地の鍛錬を欠かさぬものである。

 生活魔導とは、その名のとおり、日々の暮らしを支えるために用いられる、ささやかな実用の術の総称である。竈に火を点し、汲みし水を清め、夏に食を冷やして腐りを防ぎ、冬に湯を温め、衣の汚れを払い、夜道に小さき灯をともす──これらはいずれも、火や水や熱や光の属を、ごく弱く、ごく慎ましく用いたものである。すなわち生活魔導とは、属の種類によってではなく、その用いられ方、向けられる先によって括られた、いわば横断の分類なのである。それぞれの術を個々に見れば黒魔導の小さき断片にすぎぬが、暮らしを支えるというその用途のゆえに、ひとまとめに語り慣わされてきた。

 生活魔導を侮るなかれ。これこそが、魔導を一部の才人の秘技から、万民の暮らしの中へと下ろした立役者である。第2章に述べた遅咲きの大師メルダ・ヴィー・オストランの灯杖が、貧富や国の別なく諸国に行き渡ったことを思い起こすがよい。一輪の灯、一椀の温かき汁、腐らぬ蓄え──それらを支える名もなき術の積み重ねが、いかに多くの命を飢えと寒さと病から救ってきたことか。業火を放ち嵐を呼ぶ魔導のみが尊いのではない。機構が掲げる「万民のための魔導」という誓いが、最も地に足のついた形で結実しているのは、ほかならぬこの慎ましき生活魔導の中なのである。華やかなる術にのみ目を奪われ、足下の術を見下す心こそ、魔導の徒が最も慎むべき傲りであることを、若き徒は胸に刻むがよい。


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