能力
本当は今日スーパーにも寄るはずだったのだが、突然の計画変更で寄ることはなく、かといってこれから外食というのも、計画の変更理由に矛盾する。夕飯を抜くという選択肢もあるのだが、流石に家に泊める客人に夕飯をもてなさないというのも失礼だとわかる常識的な俺は、冷蔵庫に残っているものでどうにかすることにした。
卵とかにかま、ねぎ、それと冷凍のご飯しかなかったので、夕飯は手軽に天津飯。もちろん餡は醤油ベース。東のケチャップを使った甘酸っぱい餡は、違う。絶対に違う。
手慣れた手つきで仕上げていく。完成した二人前の天津飯をテーブルまで運ぶ。ラクルには相変わらずおとなしくしてもらっていた。今はテレビのバラエティ番組を興味深そうに見ている。
「できたぞー」
「お~、黄色だ~」
ラクルはそういうと俺からもらったスプーンでその黄色を食べ始めた。
一人暮らしを始めてから、料理をするようになった。だからそこそこ食べられる味になってると思うけど、
「おいしーね!」
良かった。
「フン、当たり前だろ。一人暮らししてるんだから」
人に振る舞うのなんて初めてだから、少しドヤってしまった。
二人とも食べ終わったところで俺は話をきりだした。
「なぁ、ラクルって本当に異世界人なのか?」
「なーに? まだわたしが異世界から来たことを疑ってるの?」
「うん」
正直どこかの国の大富豪の一人娘とかで、頑張って日本語を覚えて、家族には内緒で来ちゃった、とかの方が全然納得できる。
「しかたない、わたしの力を見せるときが来たようだね!!」
さっきも言っていたけど、どんな力なんだ? 魔法とか? 室内だと危ないんじゃないの?
「お、おい! ここでやるのか!?」
「そうだけど」
「何をするんだ?」
「聞いて驚け! 私はね、確率を操作できるんだよ!!」
そう言うラクルはドヤ顔である。
「確率を操作? どういうこと?」
確率というのは少し前に数学で学んだ。日常でも多く使われている概念だ。
「文字通りだよ。その偶然性のある事象を操作して望むがままにできるってことだよ」
うーん? いまいちよくわからない。
「それって役に立つのか?」
「なーにー? ユネル! この力の凄さが分からないなんて、意外と馬鹿なんだね~」
ラクルに言われてしまうとは、心外だ。
「だって、ピンとこねーし」
「じゃあ実際にやってあげるよ。何か確率が絡むものある?」
そういって、俺の部屋をキョロキョロ見渡すがそんなものは見当たらなかった。
ん? 待てよ。確率を操作できるんだろ? あるじゃないか! 確率の鬼が!
俺はポケットからスマホを取り出すと、あるアプリを起動した。最近ハマっているゲームだ。キャラを育てて敵を倒すよくあるRPGなのだが、ガチャ要素がある。
「なぁ、このゲームに確率要素あるんだけど、その力使えるのか?」
そういって、ゲームのガチャ画面をクラネに見せると、興味深そうに眺めてきた。
「うーん、やったことないけど、多分できるよ。やる?」
「うん、じゃあこのルミナスってやつ出して」
俺が選択したのは、最高ランクのキャラ。排出率は0.003%である。
「いいよーちょっと待ってて」
そういって、ラクルは翡翠色の目を閉じて何か呪文を唱えることもなく、そのまま固まってしまった。
……10秒程経っだろうか?クラネは目を開けて、こちらを見た。
「もういいよ、やってみて」
え? それだけ?
ラクルの力に不信感を覚えながらも、俺はローテーブルの上に置いてあるスマホに表示された「1回ガチャる」をタップした。
お? 虹色じゃん。こりゃ確定で最高ランクくるぞ!!
え、お? これは、まさか、、、
「キターーー!!!! マジでルミナスだ!! しかも単発で! 凄いな! ラクル!」
興奮の余り、思わずラクルの肩を掴んでしまう。
「ね? 凄いでしょ?」
「ああ! 見直したよ! 感動した!」
俺の圧倒的な喜びに対してラクルは意外と冷静だった。それに気づき、元の位置に戻る。
「でも、ちゃんと制約もあるよ」
「制約?」
クラネは唐突に説明し始めた。
「そう、例えば今の確率0.003%でいうと私はね、1000個の中から3個の、もっというと割りきれない333.3……個の中から1個を一番最初に持ってきたことになるの。不確定な未来の中から一つの事象を操作する時に、その全体の事象を見てしまうことになるの。それは未来の確定、つまりそのあとの事象も辻褄を合わせるように確率通りに確定してしまうんだよ」
なんとなく解ったような、解らないような?
「それが何か問題あるのか?」
「あるよ! 今の例だと、少数を切り上げて1/334から事象持ってきたことになるけど、その後の333回は絶対にその事象は起こらないんだよ」
その後、ラクルの説明を理解するのに5分程要した。
極端な確率だから分かりづらかったけど、25%で当たるくじで考えれば少し分かりやすい。
ラクルの力を使った場合、初回に確実に当たりを引くことができるけど、その後の3回は確実に外れになってしまう。
ラクルの力を使わない場合、初回に当たりを引ける確率は1/4だが、もし初回に当たりを引いた場合、次にもう一度当たりを引く確率、つまり1/4×1/4=1/16の確率で2回連続当たりを引くこともできる。これはくじが無限に引けて、毎回1/4で当たることが前提だが、4回のうち2回以上当たりを引く可能性がある訳だ。
「じゃあ、あと333回は確実にルミナスは当たらないってことか」
「うん、あとその333回を試行し終えない限り、その事象にこの力を再び使うことはできないよ」
まあ、ルミナスは1人引ければ問題なし。
「あと、1回に操作できる事象は1つだけだよ」
当たりを2つ一度に持ってくる、みたいなことはできない訳か。
「なぁ、その力ってさ、他にも使えるのか? 例えば宝くじが当たる確率とか」
人が一生かけても当たる可能性の低い宝くじを確実に当てることが出来れば、そのあとずっと宝くじが当たらなくても別に関係ない。
そもそも一回大金当てた人はまた宝くじを買う気になるのだろうか?
「うん」
マジかよ! え? それじゃ数千万、何億と俺のものになるのか!?
想像するだけで自然と顔がニヤけてしまう。
「な、なぁ、ラクルさん。いや、ラクル様!僕の願いを叶える為に是非とも力を貸して頂けませんか?」
「だめ」
ラクルはそっぽを向いた。
流石に二つ返事で了承してくれないか。
「うちに住んでいいですから! あとお茶でも牛乳でもいくらでも飲んでもらってかまいません!」
ラクルを養うくらい、大金が手に入ればどうってことない。
「うー、だめ! だめったらだめ!」
「なんで?」
「ユネルすっごく悪い顔してるもん!」
「そんなことないよ」
うん、誓って、悪い顔してないよ。
「じゃあ、願いが叶ったらどうしたいの?」
えー? 難しいこと訊くね~。まず半分くらいは貯金するだろ? それでもう半分のお金で、まずはゲームからか? いや、子供じゃないんだし、ここは市内のマンションとか買って不動産経営をするべきか?
あ、この展開、さっきもあったような。
クラネは呆れた表情をしていた。
「ユネルは基本的にいい人だけど、自分の欲に対して素直すぎるよ」
「すみません、気を付けます」
「とにかく、この力はもうユネルに使わないからね」
情けなさが俺を頷かせた。




