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組合の銀髪少女

 冒険者組合の建物は近づけば近づく程その大きさの所為で村という事を忘れてしまうほどだった。

 建物前で開かれる露店は回復薬や武器防具など一通りの物が揃っているようでかなりの賑わいだった。不思議なのは彼らが普通の商人ではなく、どこか普通じゃない雰囲気をはらんでおり元冒険者か冒険者崩れである事を匂わせていた。

 普通は商人組合に登録した者以外の商売というのは原則認められていない。認められていない者が店を出せば組合から相当な手酷い事をされてしまう為、生活困窮者以外は組合の規定に則って登録するか、もしくは商売をしないかの二択のはずなのだが、何故かこの村、こと冒険者組合の前に至ってはそのような事など無いかのように乱雑に店が構えられていた。組合の許可証を貼っている店は存在しない。

 あまり良い状態とは言い難い。

 商人組合は別に利権で動いてるわけではない、言えば死の商人や違法薬物、違法な取引を食い止める為に勇者が立ち上げた組合だ、そこには人の安全を守るという事が念頭にある。今でもその思いは浸透している・・・らしい。

 なのに登録証もなしに取引するという事はその品物は何の保証もされてないということだ、それはこと冒険者ならばこそ一番大事な安全が守られていないという事なのだと育ての親から聞いて育っている。

 声を張り上げる事もなく、静かに闇商は店を構えている、どこかおどろおどろしい気持ちになるのはやはり危ない安全じゃないと私が言われ続けている所為か、それともやはり本当に危険な物だからだろうか。


 私はそんな危険な市場を潜り抜けて冒険者組合の中へと入っていく。

 冒険者組合の建物の中は特に他と変わりはない、規模は違っても装飾品の類などは統一されていて、どこここの組合の建物が一番すごい、とか言う事もない。

 綺麗で豪華であるけどもやはりそこは冒険者組合の中なのだと安心をしてしまうほどに慣れ親しんでる造りになっていた。

 同じような形で同じような物で構成されているのはやはり私のような文字の読めない者の為だろうか?

 なんて考えでぽけっとしながらも私は足を進め受付嬢の前まで行く。


「いらっしゃいませ、今日のご用件はどういったものでしょうか?」

「あ・・・と」


 受付にきて鞄を探すが慣れ親しみのある皮の鞄は存在しない。そこで前に持っていた持ち物が全て焼却された上、元の冒険者としては死んでる事を思い出した。

 死亡判定は中々覆らない、その者の財産目当てで生きてますよ、と詐称する者がいるからだ。まぁ私の財産なんて銀貨がちょろっとの悲しい財産ではあるけれど・・・いわばそれは冒険者としての法だ、証もないのに覆る事は決してないだろう。

 私は諦めて新しく冒険者登録をすることにした。


「すみません、冒険者登録をしたいのですが」

「わかりました」


 そこまで染みついたわけではないはずなのに何故か敬語になってしまう。悪い事ではないけれど、なんだかんだで少し染まってるのかと思うと大量の死人が自分の所為で出来てしまったのを思い出して少し沈んだ気持ちになってしまう。

 登録は受付嬢が代筆してくれるので私は自分の名前を言って登録するだけ、登録証発行手数料で銅貨3枚必要だが有難い事に彼から受け取った金銭がある、心苦しい気持ちもあるが有難く使わせてもらおう。


「・・・あの」

「はい?」

「失礼だとは存じますが、外套の頭巾を外してもらえますか?」

「あ、これは申し訳ありません」


 外せと言われたので頭巾を後ろに倒して顔を出す。顔を隠してたらさすがに冒険者組合といえど登録させてくれないらしい、当たり前といえば当たり前か。

 犯罪者なんて登録させたらさすがに不味いだろう。

 そう思って受付嬢の顔を見るとまるで呆けたような顔をして完全に固まってしまっていた。

 心臓が跳ね上がるような感覚を受けてしまう、その眼はあり得ない者を見たかのように驚愕を受けている、やはりこの前の王族を騙ったのが既に出回っているのかと思い、自分でも驚く程に冷や汗をかきながら頭巾を被りなおした。

 しかしそれは時すでに遅しというやつだろう、受付嬢は頭巾を貫通させるかのようにまじまじと私を見ている。


「その、髪の色は・・・」

「あ、いや、えっと・・・御内密に・・・」


 狼狽え過ぎてよくわからない事を呟いてしまう私。しかしそれが功を成したのか受付嬢は口を押えながらコクコクと頷き、その眼は何故か少し座っている。


「成程、そういうことなのですね?」


 なにが?

 と言いたいけども誤解なのか本当に理解してるのか聞くわけにもいかずコクリと頷くと受付嬢も嬉しそうにゆっくりと頷いた。


「この事は私の胸の内に秘めておきますとも、デュカリオンの身の安全は私がお守りを!」


 なにやら興奮しはじめた受付嬢。私は手で受付嬢を制しながらため息をついた。

 どうやら悪評みたいなのは出回っていないらしい、憧れのような爛々とした瞳は訝しむものではない事がわかる。デュカリオンと呼ばれた事に背筋がゾッとしたが耐える、まずは登録しておかなければ仕事にも就けない。


「ふぅ・・・それで登録させて頂けるのですか?」

「勿論です!お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 言わなくても代筆してくれるようだ、やたらと鼻息荒いのがちょっと怖いが話が早くて大助かりではある。

 そして名前を教えてくれと言われて少し悩む、エリスと名乗れば良いのかリンティアと言えば良いのか、どちらを名乗っても問題が起こりそうで怖い。

 リンティアが昔の女王の名前だと聞いたし、やはりここはエリスと名乗るべきなのだろう。あちらの名前ではそれこそ逃げた事もあって問題が山積みになりそうだ。

 私は受付嬢にエリスと名乗ると受付嬢は嬉しそうに名前を登録証の申請用紙に書いていく。そして恐らく特徴などを受付嬢が適当に書いてくれているのだろう、それ以上なにも聞かれず受付嬢が書き終えると「少々お待ちください」と言って奥へと早足で向かっていった。

 待っているとすぐに受付嬢が私の前へと戻ってきた。


「それではこの冒険者証をお受け取りください」

「ありがとうございま・・・」


 受け取ろうとした私はそこで少し固まってしまう。当然だろう、私に渡された冒険証は私の知ってる物ではなかったのだ。

 金色である。

 冒険者証はランクと呼ばれる制度に沿って色、使ってる金属が変わる。金色とは黄金が使われて最上位を意味する・・・すなわちA級だ、いきなり何を渡してくるのかと受付嬢をじとりと睨むとやはり興奮気味に語り始めた。


「ここはライゼリオンに認可されたギルドマスターが座す冒険者組合遺跡支部!その受付嬢たる私はその権限でA級までならばギルドマスターや組合長に連絡なくその場で渡す事が可能なのです!そしてエリス様には安全安心に支援させて戴くために今まさにその権限を行使したのです!お気遣いなさらず、さぁ、どうぞお持ちください!」


 少々恐怖を感じる受付嬢の言葉を聞いて私は少し後ろに後ずさってしまう。ここに来たのは間違いなのではないのかと思ってしまうくらいに錯乱したその行動にいささかついていけなくなってきた。


「い、いや・・・さすがにそれはまずいと思うんですが・・・実力もEかFくらいしかありませんし、そもそも私はデュカリオンなどでは・・・」

「デュカリオンなどでは?・・・っ!成程!そういうことなのですね!わかりました、わかりましたとも!ならばここエリス様の情報の閲覧制限はかなり高めに設定します、しかし安全に冒険者として活動してもらうためにやはりこの証はこのままお持ちください!勿論お仕事はどんな仕事でも構いません粉骨砕身の思いで支援をさせていただきますとも!」


 手で制してみるがまるで止まりもせずに声の大きさを上げていく受付嬢。慌てて周りを見るが驚く程に人がいないので会話を聞かれてはいなさそうだ、しかしいつ人が来てもおかしくないので段々と焦り始めて来た私は受付嬢から冒険者証を引っ手繰ると口に立てた人差し指を当て静かにしてほしいとジェスチャーを送った。

 受付嬢は受け取った事で満足したのだろう、達成したと言わんばかりの満面の笑みでこちらを見ていた。

 結局ここでも流されているのだと思うと自然と私の口からは溜息が出るのだった。

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