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遺跡の村

 馬車の旅はそれ以降は何も起きず、只々平和な旅だった。

 暇でしかないような物でしかないはずだが、ティットの会話はとても弾んだ。

 これほど人に話をできるなんて自分でも驚くほどだった。それほど私は自分で思えるほどに饒舌に喋っていた。

 だからだろうか、遺跡の村が見えてきたら目的地で嬉しいはずなのに、私の心は少し沈んでいた。 

 このままどこまでもティットの馬車で揺れて行きたいと思えるほどに、馬車の旅程はとても安心できていた。


「さぁさ、見えてきたよ、エリス」

「・・・・ああ」


 私はそう告げるティットに促されてフードを深く被る。

 ティットと話した結果出来る限り集落の中では、銀色の髪は見せない方が良いと言われたのだ。


「エリス、今とても世界はきな臭くなってる、巻き込まれないようにね」

「わかってる」

「あと、自分が弱いって腐らないようにね?」

「ああ」

「君は少し小さいから、もっと食べなよ?それから・・・」

「ティット」


 私は色々と気を掛けてくれるティットに声を掛ける。ティットは微笑んでくれていて、私が何を言っても受け入れてくれる気がする。


「ティット、私はこの村で降りると言ったけど、もしティットが許してくれるなら一緒に連れてってくれないか?」

「エリス?」

「何の力もない私だから足手まといにしかならないだろうけど、ちゃんと努力して、今よりは役に立つようにがんばるから、一緒に居てくれないか」

「・・・・・・」

「だ、駄目か?そ、その・・・なんだか1人で何かできるという気がしなくて、甘ったれてるのかもしれないけど・・・2年前に父と離れてから全く何も上手く行かなくて、挫折もあって・・・怖い事も、多々あったんだ」


 この2年間1人で生きてきて、不自由に感じて来たのだ。文字もわからず、魔法もたいして使えない。汚れて帰れば汚いと蔑まれ、それでもここまで頑張ってきたが、思った以上に心身が疲労していたようだ。ティットという強くてなんでも出来る人間が傍に・・・いや、違うか、私の事を色眼鏡で見ないティットに子供のような感情をぶつけているだけなんだ。


「・・・さみしいんだ」


 俯き呟く私にティットは頭を撫でてくれる。まったくもって馬鹿だと思う、同い年ほどのティットに父を重ねるだなんて浅慮で馬鹿だと思う。


「ごめんねエリス。君を連れていけないよ」

「・・・・・・・・・そっか」


 拒絶に私は繕う事も出来ずに沈んでしまう。まったくもって当たり前の事だ、他人を連れていくなんてただの負担だ、生活費は2倍になるし行動も鈍重になる。邪魔でしかないのだ私は。


「勘違いしないでね、本当は一緒に居てあげたいんだ。もし2年早く君と出会っていたら、きっと僕は君と共にあろうとするよ」


 諭す様にティットは語る。


「でもね、今世界はとてもきな臭いって言ったよね?14年前もさることながら・・・ここ2年は特に酷い」

「2年前・・・父と別れた時くらいか・・・確かに結構冒険者の仕事が多かったような」

「うん、かなり世界情勢は悪い。千年前を超える未曽有の時代だ・・・今のこの状態でエリスを連れて行きたくない」


 彼が言う言葉をあまり理解できなかった。世界情勢などと言っても私の世界はかなり小さい、私の知る世界は魔物が脅威なだけで平和なものだったと思う。ティットが言うようなそんな危険な物では決してなかったのだ。


「エリス、傷つけるつもりじゃないけど・・・君は弱い。そして君を万難から助けられるほど僕は強くない。本当に嫌になるよ自分の弱さが・・・ごめんね」

「ティット・・・・」


 ティットを傷つけるつもりはなかった、でも彼を傷つけてしまうような事を私は言ってしまった。

 今自分の顔がどんな顔をしているのかわからない、しかしティットに悩ませてしまうほどには酷い顔をしていたのだろう、私の頭をグリグリと撫でて彼は優しい声で私に言った。


「そんな顔しないで?もしこの酷い状況が終わったら迎えに来るよ、どこに居てても君を探して、ね?まぁその時になったら僕は必要なくなってるかもしれないけど」

「わかった・・・まってるよ」


 私が答えたと同時に会話は終り、村へと行く道は馬車の音だけが響いていた。






「ティットありがとう。5日間だけだったけどとても楽しかった」

「僕も楽しかったよ」

「何から何までお世話になりっぱなしだったな、私は」


 村まで着いた私達は、いま入り口の前に居る。

 冒険者でなくなった私は村の中に入る為の税金を払わなくてはならず、手持ちがない私の代わりに結局ティットが全てを済ませてくれた。

 そんな迷惑でしかなかったはずの私にティットはそんなことをおくびにも出さず、只々優しく笑っているだけだった。

 優しくしてくれた事には感謝してもし足りないほどだ、でも何故こんなに優しくしてくれるのか不思議で仕方なかった私は結局彼に尋ねる事にした。


「ティット、優しくしてもらっておいてなんだが・・・どうして優しくしてくれる?」

「うーん・・・」


 ティットは軽く唸り、何か観念したかのようにそっと語った。


「君が、僕の初恋の人に似てたから、ってのはどうかな?」

「・・・・・・・そんなに似てるのか?」

「んー、どうだろね?ただ少し重ねてしまってたのは本当。ま、美少女との旅ってのは得だったてのも本当だけどね」


 そんな冗談を言いながら、どこか物悲しそうなティットは最後と言わんばかりに私の頭を撫でてくれる。


「だから君が何か気負いする事なんてないよ、僕の我儘に近い・・・・・楽しかったよ」


 そう呟き彼は撫でるのをやめて、私に袋を手渡してくれる。

 袋の中は金属が擦れるような音が聞こえてきて、それがお金の入った袋である事を告げている。全てが銅貨であったとしても一か月は生きて行けるような量で、本当に受け取ってもいいものかと逡巡した。

 そんな悩む私の手を軽く握って、ティットはそっと私の額に口づけをして抱きしめた。


「元気でね」

「・・・・・うん」


 それだけを言うとティットは馬車に乗り込んで、村とは違う方向へと走り出した。

 彼が手を振り行く様を、見えなくなるまで私は寂しく手を振り続けるだけだった。


「置いてかれたなー」

「・・・・」


 そんな私に水を差す様に門番の兵士はニヤニヤとした酷い笑い顔でこちらをみている。


「手切れ金も貰えたんだからいいじゃないか、くー色男だねぇ~あんな別れ方されたんじゃ言いくるめられても仕方ないよな~、こんな村に捨てられて同情はしてやるよ」


 なんて苛立たしい男だろうか、余韻も悲しみも何処かに消えてしまうほどに男の言葉に黒い物を感じる。

 私はそんな門番の兵士を無視して外套のフードを更に深く被ると、早足に村の中へと入っていった。


 村の中は閑散としており、のどかという言葉が似あうものだった。

 これからをどうするか決めていなかった私は少し村に入ったところで頭を悩ませる。

 もしかしたらここにボウマン達が来るのでは、と思っていた私だったが、残念な事に彼らは来ていないようで見える範囲には誰もいなかった。行き当たりばったりな行動をし続けていた結果とも言える、これからどうするかという物がまるで見えてこなかった。

 する事がない私はとりあえず噂の遺跡を見る事にして、その場所を探す為に足を動かすのだった。


 遺跡は直ぐに発見できた、誰に聞くでもなくまっすぐと村を突き抜けるとやけに強固な防衛を敷かれた真っ白な建物が見えてきた。

 門番など目じゃない程に武装を整えた兵士8人で守られたそこは如何にもと言った物で、木造で出来た村とは違い金属のような石のような不思議な素材で出来ており、異様さが見て取れるほどにこの村では異常とも言えるような違和感を漂わせていた。


「すまん、教えてくれ。ここが遺跡ってやつか?」


 遺跡の前に立つ兵士に尋ねてみると、フードで顔を隠した私を訝しむように見た後、興味なさそうに溜息をついた。


「そうだ、ここが発見された遺跡だ、何の用だ?」

「いや・・・少し気になってな」

「冒険者なら入れるぞ」

「・・・!入れるのか?」

「ああ、ただしD級以上だけだが」

「D級・・・だと」


 かなりの入場制限が掛かっているようで私も、過去の私もどちらであっても入場できないものだった。

 その後色々と親切に教えてくれた。遺跡の中には魔物が住み着いてしまっており、村人にも死傷者がでてしまって結構やばい場所になっているようだ。

 冒険者組合が管理をしているが、王国から待ったが掛かっているらしい。国の一部が冒険者組合に占有されるのはおかしい、と。

 なので王国と冒険者、どちらも入場人数が限られた上でのものらしくD級以上となってるのもそこが原因1つとなっているらしかった。


「冒険者なら詳しくは冒険者組合で聞くと良いぞ」

「ああ、ありがとう」


 兵士の男が指をさした方向を見る。少し遠くに聳えるそれは遺跡と同様に不釣り合いな程大きな冒険者組合の建物が立っており、結構な人数が賑わっていた。村には何もないものだからここに色々な物が集積してしまっているのだろう、露店も数多く見られた。

 村と冒険者組合の建物前では賑やかさに天地程の差がある、村が排他的に除けてるのか、冒険者が村などお構いなしにやってしまってるのか、あまり村と冒険者の間の空気は良くなさそうだ。


 私は建物へと向かう事にした。

 寝床の確保も必要だし、遺跡の話をもっと聞きたい。

 過去の事もあるし、冒険者組合に近づくのは良くないかもしれないが、今の私に出来る事が殆どない。

 私は外套を深く被り直すと、建物の方へと歩き出した。

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