轟音
「あっははは!グラテアから歩きで遺跡の村に?そんな姿で?すごい根性っていうか怖さ知らずというか、ぷ・・・くくく」
「くっ・・・仕方ないんだ、これには已むに已まれぬ事情がだな!」
ティットの馬車に乗せてもらって道を行く。
2日もすればティットとはそこそこに打ち解け、敬語も止めて会話をするほどの仲になった。
彼は面白い男で、世界を渡り歩いているらしい。やはりこの国の人間ではなく、ウラナタリアという結構大きな国からこの国まで来ているらしい。
残念ながら私はその国を知らないが彼が言うにはこの国よりも発展しているらしい。
それでも私が知らないというと冒険者ギルドがその国にはないらしく、全てが信教騎士団と言うモノの力で国内を守っているのだそうだ。
成程、それなら人生のほとんどを冒険者に身を置いていた私では知らないはずだと思った。
そして現在、そんな彼に街から歩いてきたという話をすると盛大に笑われてしまったのだった。
「はは・・・まぁ、そんな髪だったら色々と問題だよね」
事も無げに、ティットは私の髪の色に触れる。
ここ2日彼は私の事を全然気にしていなかった、しかし彼は大体の事を知ってるようだった。そんな話題を振られてぎこちなく私は会話を止めてしまう。
私は探るためにじっと彼を見る、ティットは微笑んでいた。
「銀髪は特別、みんな知っている事だよ?」
「・・・む・・・」
「隠しようがないものだ、それは諦めるしかないよ。でもそうだな、有象無象を避けるならリンティアって名前を使うのは避けた方がいいね、セーラリア、セニア、リンティア。イリュディシオンが誇る2代目3代目4代目の女王陛下の名前だ。この国と関係ありますよって言うようなもんだからね」
「リンティアが女王の名前だったのは知ってたけど・・・そうか、わかった、今度からはエリスとちゃんと名乗る事にする」
首をコテリと倒しティットは不思議そうな顔で私から目を逸らさない。何か不思議な事でも言ったのだろうか、彼は何故か探るように私の瞳を見つめてくるのだった。
「それが本名?」
「あ、ああ・・・どうかしたか?」
「いんや。なんで偽名を、それもそんな扱いづらいのを使ったんだろうかと思ってね」
「・・・・むぅ、それは・・・言えない」
ティットは信用できると私は思っている、理由は特にない、ただ漠然と私の味方になってくれるのではと期待してしまう。
だが、ここで無駄に話してしまって、噂が広がり私が王族の1人じゃないと広がってしまったらどうなってしまうのだろうかと思ってしまう。私は逆賊というやつとして扱われるだろう、そうなれば死刑は免れない。それはまだいい・・・いや良くないけど、個人で完結してるからそれはまだ問題じゃない、ではボウマン達はどうなるだろうか・・・・怖い話だ、確かに彼らの策略だから彼らを心配するのはお門違いかもしれない、でも死刑になった貴族のように処刑されてしまうのではと思うと、理屈ではないと思うのは仕方ないことだ。
「まぁ、言えない事もあるよね、オーケーわかった、聞かないでおくよ」
「・・・すまない」
「いいってことよ」
カラカラと笑うティット。懐の深い彼に救われて私も胸を撫でおろした。
「お?」
「ん?」
ティットは前方を見て、呟く、そんな彼につられてそちらを見ると、何かがモソモソとこっちに向かってきていた。何が来るのかと目を凝らすとそれはゴブリンの群れのようだった。
「・・・4匹もいるのか」
「ゴブリンだねぇ」
馬車をその場で止めて、降り立つ。
私は一歩前へ出て、ゴブリンから彼らを守るように立ち塞がる。
正直勝てる気はあまりしない、元より1対1でも怪しいのだ。勝てると思う方がおかしいだろう。
それも慣れ親しんだショートソードではなく、借り物の短剣だ、罠もない。分が悪い。
だがしかしティットに世話になっているのに戦えもしませんと言うのも苦しいし、守る事で恩返しもしたいのだ。彼が居なかったら私は野垂れ死んでいるはずなのだから。
「大丈夫?僕も戦えるよ?」
「・・・大丈夫」
「無理しちゃ駄目だよ、エリスが傷付くとこは見たくないよ?こう見えても僕はそこそこ強いから任せてくれてもいいよ」
「・・・・・・・・・・じゃあ半分頼む」
「半分ね、了解」
心配そうにこちらを見るティットに結局私は折れる。私程度の実力では恩返しは難しいようで、歯痒さがこみ上げてくるのだった。
そうこうしてる内にゴブリン達は目と鼻の先ほどに近くまで近づいてきた。
私は短剣を引き抜いて、間合いを見ながらジリジリと近づいていく。武器の長さが足りなくてもどかしく、間合いは中々に縮まらない。
攻めあぐねていると、ゴブリン達が先に動き出した。1匹が突出してくる。
その1匹をけん制するように飛び出そうとした時、大きな音が響き渡った。
怒号のような轟く音。あまりの音に耳鳴りが起きてしまうほどのけたたましいものだった。
何が起きたのかはわからなかった、私が音に驚いて硬直していると、ゴブリンはその場で倒れていく。
赤い血だまりを作って動かないゴブリン。その様はまるで死んだかのようだった、いや死んだのだ。
残りのゴブリンも何が起こったのか理解できなかったのか、私と同じように硬直してしまっている。そんな置いてきぼりの私達を嘲笑うようにまたも轟音は鳴り響く。
するとまた1匹が死ぬ。
私は音の鳴る方に振り返る、本当ならば対峙している現状で振り向くなど愚の骨頂だろう、しかし私はそんな事も考えられぬまま、振り向いた。
ティットが居た。腕を突き出して異様な物を構えている。
剣というには刃は存在せず柄だけのようで、ボウガンと言うには小さすぎるそれは見た事のない物だった。
「僕の分は終ったけど」
「・・・・・あ、それは一体・・・」
「そうか僕の国を知らないんだったか、これが僕の国の魔術兵装だよ」
魔術兵装、それは勇者の加護を受けた武具。
強力無比なその武具は、弱くても魔法の武具よりも強いというのを聞いた事がある。
現在行われているティットの魔術兵装の強さは確かに驚く程の威力を秘めた一撃だった。
「どうする?残りも僕がやろうか?」
私は小さく頷いた。
するとすぐにティットの持つ魔術兵装は先端を光らせ、爆音をまき散らしながらゴブリンをいともあっさり殺してのけたのだった。
強い。
ただそれだけしか頭に思い浮かばなかった。
只々私が弱すぎるだけなのかもしれないが、動くこともなく敵を殺すというのは中々出来る事でもない。
腕の良い弓士や、熟練した魔術師であれば可能だろう、逆に言えばそれと同じくらいの事をティットはやってのけたのだ、その魔術兵装を用いて。
「ふぅ、さて、ゴブリン共の死体を端にズラして先へ行こうか、まだまだ道のりは長いよ」
事も無げにティットは言ってのけた。事実物の数ではないのは理解できた。
ただ私はそこに落胆を感じずにはいられなかった、勿論私の弱さにだ。ゴブリン1匹にすら苦戦する私の力は果てしなく弱い。同い年くらいの筋肉だってついてない細腕のティットだってゴブリンなんかには苦戦しないのだ。ボウマンのような溢れ出す強さから違う者であれば諦めもしよう、しかし今目の前に居る、見た目只の青年でしかない者の強さを見ると、心が揺れてしまう。
「・・・強いな、私なんかよりずっと強い」
「うん、まぁ銃は便利だよね」
「私もその魔術兵装を手に入れる事が出来たら強くなれるかな?」
そんな私に困った顔をするティット。子供をあやすように苦笑いして見てる姿が胸を刺す。
「多分エリスは持てないよ、ウチの国の魔術兵装だし。信教騎士にしか手に入れる事が出来ないからね・・・それに便利だけどそんなに強いわけじゃないから一般的に普通の武器のほうが強くなると思うよ?ライゼリオンとかヴァイタリオンの魔術兵装なんかで身を固める事をお勧めするよ」
「そっか・・・」
そう肩を落とす私の頭をポンポンと叩いて慰めてくれるティット。
そんなティットに促されながら私は馬車に乗った。
「そう落ち込まないで、エリスならきっともっと強くなれるよ」
「そうだろうか」
「うん、僕が保証してもいい、胸を張ってがんばってれば何時かは、ね」
「・・・ありがとう」
「それにそんなに良い魔術兵装持ってるんだから、あの程度そのうちすぐパパッと倒せるようになるさ」
ティットの言葉に疑問が浮かぶ、一体どこに魔術兵装があると言うのだろうか。そう思ってふと下着が高い物だとボウマンが言ってたのを思い出した。なら意匠の似たこの服も実は高いのでは、ならこれが魔術兵装なのだろうかと思い服を指差し聞いてみた
「魔術兵装ってこれのことか?」
「ああ、そうだよ?気づいてなかったの?アスタリオンの魔術兵装アスターヴァージンのレプリカ、1部位だけでも金貨4・500枚、上下で1500枚、上下と下着のフルセットで金貨5000枚の掘り出し物だよ?あと、その短剣もシャターリオンの魔術兵装で伸縮短剣だね、自分の考え次第でロングソードくらいにまで伸びる、銘が誰かで切れ味が変わるけど安くても金貨50枚はするよ」
なんか値段が聞いたこともないものになってる。
なんだ5000枚って本当にケタ違いの値段だ。それにこの短剣だって金貨50枚って・・・私のショートソードなんて銅貨十数枚だぞ。
途方もなさ過ぎて少し放心してしまう。
「下手な防具よりも強靭だし、身を清潔にする加護もある。まぁ他にも色々と能力あるけど割愛で。その装備だけでもゴブリンなんかには遅れは取らないと思うよ」
「・・・・借り物だからな」
「なら借りてる間にがんばって強くならないとね」
そう言って私の頭をまたもポンポンと叩いて慰めてくれる。
そんなティットの心配りに少しだけ救われた気がした。




