07話 初陣、無双開始
予想以上の威力だった。
街中でこれを使っていたら、えらいことになってたとしみじみ思う。
まぁでも、これで盗賊共の数も減ったろうし、結果オーライ!
ロイはというと、未だに何が起きたのかわからずに唖然としていた。
少しの沈黙の後、自分達が静かに身を潜めていた事も忘れたように、大声を出す。
「カナタ! 何だよ今の?!」
「今のは……雷帝の導きだ」
「それが何なのかって聞いてんだぞ!」
「まぁ……スキルとしかいえないな。少し位置はずらしたし、奴隷達もきっと生きてるだろ」
とはいえ、さすがに確信が持てないので様子を確認すると、先程までは誰もいなかった洞窟の外に人影があり、何やら忙しなく動いている。
お、まだ残っててよかったー。
あれで全滅されてたら、あっけなさすぎるからな。
とりあえず、今回の目的は地図と戦闘に慣れておくってこと、ついでに奴隷達も解放出来たらしておくか。
「ロイ、俺は先に行くからお前は後からゆっくりついてこい。」
「え! ちょっとカナタ!」
「雷体」
「ちょっと! そっちは急斜面だぞ!」
止めようとするロイの言葉を置き去りに、俺は駆け出す。
雷体を使用すると、一歩で何メートルも先へ進める。
木々をすり抜け走る。走る。
走るというよりは、飛んでいるという表現のほうがあっているだろうか。
常人が見れば、光がただ伸びているように感じるだけだろう。
体全体を光が覆っているからか、風を感じることはないが……
「っはは。これは気持ちいい」
走り始めてから数十秒後には洞窟前に到着。
入り口前は少しひらけた場所になっているため、一旦木々の影から様子を伺おうと顔を出した。
そこには20人程の人間が、顔に大きなキズの入った大男、キールに頭を垂れている姿が見える。
幹部の姿は見えないな……
残ったのはあれだけか?
俺はキールのステータスを確認する。
レベル:21
天命:格闘家
「格闘家ってことは、近接戦闘で殴り合うようなスキルとかか?」
確かにキールは武器らしいものは持っていない。
一応周りの奴らも確認してみるが、どれもレベル15以下の雑魚だった。
ただし、レベルが低いからと言って油断は出来ない。
この世界はレベルで得られる恩恵がスキルくらいしかなく、戦闘で主軸となるのは自身の鍛えた体と戦い方。
いくらレベル差があろうと、油断して心臓を刺されれば死んでしまう。
とはいえ、結局はレベルが高ければ、死なないような対策などはいくらでも出来てしまうのだが……
「まぁ、油断せずに行こうか」
俺は雷体を発動させたまま木々の間から体を出し、ゆっくりと集団の方へ歩き出した。
月明かりがあると言っても、今は夜。
光を放つ俺の姿はとても目立ち、盗賊達はすぐに俺に気付く。
「おい! 何だあれ!」
「人じゃないか?」
「何だあの光?」
得体のしれない物からボスを守ろうと、そこにいた盗賊達は俺とキールの間に入りだす。
残り数メートルの位置まで近づいた俺は、そこで一度静止して辺りを見渡した。
先程までは遠くてわからなかったが、右奥の暗がりに奴隷達の集団がいることに気付いた。
お、無事で良かった!
とりあえずこれで気持ちよく寝れそうだ。
生存を確認し、満足した顔をする俺を見て、先頭に立っていた盗賊の一人が口を開ける。
「あ? 何だ名無しじゃねぇか。てめぇ何だその光は?」
「これか? お前に説明する意味がない」
「なめてんのか? この騒動で逃げようとしてんじゃねぇよ。てめぇもあいつらのところにこい」
俺を連れて行こうとズカズカと近づいてくる。
近くまで来ると、腕を掴もうと左手を伸ばしてきた。
「俺に触るんじゃねぇよ」
掴もうとしていた腕を払い除け、もう片方の手で、そいつの腹を殴りつけた。
--グジュゥゥ!
不意に殴られた男は10メートル程後ろに吹き飛び、ピクリとも動かなくなった。
雷を帯びた拳が当たった腹部は、高電圧により真っ黒に焼け焦げている。
その場にいる全員が、何が起きたのかわからず、動かなくなった男を凝視した。
少しの静寂のあと、キールが血走った目でこちらを向く。
「名無し! てめぇ何をしやがった!」
「いちいち説明しなきゃダメ?」
「てめぇ! 奴隷の分際で舐めた口聞くんじゃねぇよ!」
「いや、今は奴隷じゃないんだけど。そんな事より、お前スキルで作られた地図持ってるか? 大人しく渡すなら悪いようにはしないけど」
「ぶっ殺す! てめぇら! こいつを殺せ!!」
キールが叫ぶと、盗賊達は一斉に武器を取り出した。
「はぁ。皆殺し希望ってことでいいんだな」
戦闘体制に入る。
数十人が剣を手に持ち、怒涛の勢いで走りだすが、あまりにも遅い。
その後ろには数人が拳銃を構えており、前衛が走り出すと同時に引き金を引いた。
「電磁防壁」
--バチバチバチ
放たれた銃弾が届くことはなく、俺の目の前で消失していく。
「死ねぇ!」
「電磁地雷」
最初の一人がようやく俺の元へと辿り着き、怒号を上げながら剣を振り上げる。
しかし、突如足元に出現した魔法陣から、電流が流れ出す。
「な、なんだ? 体が痺れてうごけ--」
隙だらけの体に、蹴りを放つ。
--グジュウ
衝撃を受けた瞬間に意識が飛んだのか、簡単に両足が地面から離れ後ろに飛んでいく。
そいつが落とした剣を拾い上げ雷帝剣を発動。
予想したとおり、剣の形に沿い刃先には鋭く尖った光が覆った。
「これは切れ味が良さそうだ」
剣から敵に目線を移すと、走り出した集団がやっと近くまで辿り着いていた。
「名無しが調子に乗るなよ!」
「ぶっ殺す!」
最初に切り込んできた2人に向けて横一線に剣を振るうと、2人の胴体が引き裂かれ、走っていた勢いのまま上半身が俺の頭上を超えていく。
敵の攻撃は止まらない。
上空から振り下ろされた剣をかわし、そいつの顔面を鷲掴みする。
雷体状態の俺に掴まれたため、顔が焼かれて生きてはいないだろう。
しかし、ここで色々とスキルを試しておかなければならない。
「高出力放電」
激しい雷鳴が響き渡り、焼け焦げた匂いが立ち上がる。
先程まで人間の形をしていた真っ黒な塊を投げ捨て、後続に続く人数を数えた。
「残り15。一気に終わらせるか」
俺は地面を蹴り出すと、一瞬で最後尾を走っていた男の後ろに移動した。
雷体状態での移動。
たかが盗賊には、目の前から俺が消えたようにしか見なかっただろう。
「恐怖もなく死ねるなんて、お前ら幸運だな」
その言葉が届くことはない。
目の前から消えたとを認識出来たときには、すでに首から上を切断した後だった。
後衛として残っている数人に手をかざす。
「雷撃」
放出された稲妻が、それらを全て貫き焼き殺した。
「おい。残ってるのあとお前だけだぞ」
「何が起きて、何で名無しの野郎がこんな力を……」
「死にたくなかったら、さっさと地図持ってこい」
まぁ持ってきても殺すけどな。
というか、こいつレベルがどの程度戦えるのかは知っておきたい。
そう思っていると、キールが空を見上げて怒号を上げた。
「舐めた口を聞くなと、言ってんだろうがぁ! 肉体強化」
「死ぬことを選んだのか。やっぱり俺は運がいい」
「ぬかせ! 一撃で終わらせてやる!」
キールが踏み込むと、地面にヒビが入った。
そこから一歩で俺との距離を縮めてくると、体を捻りながら大きく右腕を振り上げ、それを俺の左頬めがけて振り下ろしてくる。
一度、試しておかなければならない事がある。
俺は左腕を上げ、迫りくる拳をその腕でガードした。
「--っく。」
俺は後ろへ飛び、キールと距離をあける。
キールの手を確認すると、雷体に触れたせいで右手は黒く焦げ、原型は留めているが使い物にはならないだろう。
ただし、俺のか細い左腕は途中から別の角度に折れ曲がっていた。
「やっぱり肉体自体を鍛えないとこうなるのか」
「次は顔面を粉々にしてやる!」
「ばーか。次なんかねぇよ。大回復」
俺の折れた腕は、綺麗に元戻りになる。
折れたとはいえ、我慢できない程の痛みではなかったな。
レベルが上がると生命力が上がるって聞いたけど、精神力とかその辺りも変化するのか?
腕が元通りになったのを見たキールは、驚愕した声を上げる。
「馬鹿な! そんな馬鹿な!」
「いちいち驚くな。そして、死ね」
俺は両手で剣の柄を握り、切っ先を地面に落とす。
左足に力を溜め、踏み込んだ。
「っな! 消え--」
キールの顔が空へ飛ぶ。
数秒して地面に落ちたキールの顔を見ると、すでにその瞳に光は灯っていなかった。
「さーて。終わったかな」
後ろを振り返り確認すると、キールを含めた20数人の死体が転がっている。
残りは最初の一撃で死んだのかな?
まぁとりあえず、地図を探しに行くか。
「う、うごくなぁ!」
声のしたほうを見ると、幹部の一人、バッカスが奴隷の頭に銃を向けていた。
「動くんじゃねぇ! お前こいつらを助けに来たんだろ?」
「いや、まぁ助けようとはしてたけど、そいつらが死んでもそれはそれだ」
俺が殺す分にはちょっと目覚めが悪くなる程度で、別にそいつらが死ぬこと自体に何も思わない。
そう思い、銃を向けられていた奴隷を見た途端、俺の考えは変わる。
まだ幼くあどけないが、育てば確実に美人になりそうな少女がそこにいたからだ。
「やっぱり助けよう」
俺は一歩前に足を踏み出す。
「動くなっていってんだろうがぁ。俺は聴覚覚醒のスキルを持ってるんだ。お前が少しでもう動こうとして、地面や服のこすれる音でもしてみろ。すぐに殺す」
「おーけー」
俺はさらにもう一歩前に出る。
バッカスは引き金にかけた指に力を入れた。
「瞬間移動」
バッカスの腕が飛ぶ。
「うぎゃあぁ--」
「いちいち騒ぐな」
バッカスは余りの激痛にその場にうずくまる。
「ありえない! 何も音がしなかったぞぉ!」
「瞬間移動で空間を飛んだんだ。音がする訳ないだろ。とはいっても、移動できるのは精々5メートルくらいだし、1回使うと3分間使えないってのが難点なんだけどな。」
「瞬間移動だとぉ! そんなスキル、聞いたこともないぃ!」
「そうか。実際に見れて、お前は幸運だったな。死ね」
高出力放電。
バッカスは、灰となって消えた。
まだ幼い少女は黒煙のそばに立つ、大きな背中を見て思う。
あぁ、きっと、この人は私の救世主なのだと。
ついに無双がスタートしました!
ここから始まる無双劇!ご期待下さい!




