03話 今日は、月が綺麗だ
「おい。起きろ!」
荒々しく扉が開かれたので少し驚いた。
どうやらロイが言っていた、襲撃に行く時間になったようだ。
俺は起き上がると、すでに扉を出ていったロイを追いかける。
すぐに追いつくとロイが驚いた顔をしている。
「ん? どうした?」
「いや、その体でよくそんな速度で歩けるなって。まぁ……それなりの生命力がなけきゃ18年も奴隷で生きていけるはずないし、カナタって案外すごいんだな」
確かに体は傷だらけ、足の指は数本変な方向へ曲がっている。
俺が転生する前のやつは、案外本当に凄い奴だったのかもしれない。
レベル80だからか、今はこの体でも特に支障なく動かせる。
ただ一つ問題があるとすれば……腹減った……
扉の外はやはり洞窟のようで、長い通路が伸びている。
ロイの後に続いて歩いていると、時折左右に扉があり、そこから俺と似たような風貌をした人間達が出てくる。
どうやらここは、奴隷達を収容している場所みたいだな。
2分ほど歩くと奥の方が明るくなってきた。
俺は外に出ると、瞼を閉じて、鼻からゆっくりと息を吸う。
転生されて初めての外の空気……清々しい。
「名無し! 早くこい!」
先頭を歩いていた盗賊が振り返り、俺に恫喝する。
今はおとなしくしていようと思い、黙ってそいつの後についていく。
ここは山なのか?
辺り一面木々だらけで、他には何もないな。
しばらく盗賊の後ろをついていると、段々と木々が少なくなくなり、見晴らしのいい丘に出てきた。
そこには奴隷たちが30人程集められている。
「お前らもあいつらのところへ行け!」
ロイは迷いなく集団の最後尾に向かったので、俺はロイの隣に立つことにした。
武器を持った人間が20人くらい見えるが、どいつも傷だらけの鎧を着ているな。
ただ、その中でも一人だけ比較的綺麗な装備を装着しているやつがいる。
様子を見ていると、そいつが口を開いた。
「いいか! これから南東にある村を襲撃する! 奴隷共は俺らが狩り終わった後に食料、衣服や鉄を回収しろ! 行くぞ、ついてこい!!」
そいつが歩き始めると、それに続いて残りの盗賊、奴隷達が歩き始めた。
「ロイ、今のやつがこの盗賊の頭か?」
「カナタは本当に記憶力がないんだな。あれは幹部のグラゴ。まぁ俺らの主人ではあるから、頭って認識もあながち間違いではないか」
なるほど。つまりあいつを殺せば俺は奴隷じゃなくなるわけだ。
さて……どうやって間接的に殺すかだな。
村までは歩いて一時間ほどかかるらしいので、俺は道中、ロイにこの盗賊達の事を詳しく聞いてみた。
規模としてはそこそこ大きい盗賊団らしく、全員で100人程。
4人の幹部が20数名をまとめており、俺はその幹部の一人であるグラゴに奴隷印を押されている。
ロイでは盗賊達の強さまではわからないらしいが、頭のキールという奴はこの辺りでは極悪人で有名らしく、強靭な肉体を持ち、自身を強化するスキルを持っているとのこと。
100人をまとめるってくらいだし、すげー強いのかな?
「おい! 後ろで話してるやつ黙れ! 許可なく会話してると首を跳ねるぞ!」
盗賊の一人からまたもや恫喝された俺達は、その後、無言で山の中を歩いていく。
ほんとに小さい村だな。
木でできた家のような物が十軒くらい見える。
ここからだと余りよく見えないが、二十人程くらいしか暮らしていないのではないか。
「奴隷共はここで待機! お前ら行くぞ!!」
グラゴが走り出す。
それに続く残りの盗賊達。
盗賊の姿を発見したのか、ここからでも村人の慌てている様子が見える。
最初の村人の叫び声が聞こえてから10分も立たず、俺達に村へ来いと命令が下った。
「ハズレかよ! ジジィとババァしかいねぇ!」
「グラゴ様。このような小さな村ではしょうがねぇかと。ただ食料や衣服類はそこそこありましたぜ。それと、この辺でしか採れない薬草が結構溜め込まれていやした」
「ふん! おい、奴隷共! さっさと回収しろ!」
命令が下ると、奴隷達はそそくさと動き始めた。
とりあえず俺はロイについていく。
村人全員死んじゃったよ。
まぁ今の俺には何もできないし……
ご愁傷さまです。
それにしてもアチコチに死体が転がってるし、どれも無残な姿なのに、それを見ても何も思わないな。
転生すると精神状態とかも変わるのか?
「おいカナタ、何老人の死体なんか見てんだよ。さっさと回収して戻らないと殺されるぞ!」
「あー悪い。てか回収したものをみんな分けてるけど、なんか意味あるのか?」
「アジトに戻ったら食料は全体に共有、金品とか武器は8割ボス、衣類関係は襲撃した幹部が貰えるってのがこいつらのルール」
なるほどな。
ロイの説明を聞いた俺は、急いで衣類を中心に回収し始める。
これは、早速運が向いてきたかもしれない。
にやっとした俺を、まるでゴキブリでも見るかのような目でロイが見てきた……
回収作業は1時間もかからずに終わり、俺たちは来た道を戻る。
こいつらのアジトは最初に俺がいた洞窟のすぐ近くにもう一つ、山を掘り進んで作られた隠れ家を寝ぐらにしている。
洞窟に入り奥へ進むと、洞窟内にしては広い空間へ出た。
「帰りました、ボス!」
アジトへ帰ったグラゴ一団は、回収した品々をボスの前に広げた。
「ご苦労」
こいつがキールか。確かに見た目くそ強そうだな。
いかにも盗賊の頭といった強靭な肉体を持ち、顔には大きな傷跡がある。
キールの周りには3人の男達が座っているが、こいつらが残りの幹部だろうな。
「ずいぶん小さな村だったそうじゃねぇか」
「はい! ですが多少高値で売れそうな薬草が結構ありました!」
「そりゃ朗報だ。薬草以外に金目の物はあったか?」
「いえ。食料と衣類が多少ある程度で、こちらが全てです」
「そうか。いつも通り食料は倉庫に、薬草については2割、衣類は持ってけ」
「了解しました」
グラゴ達が薬草を2割手に取り、衣類の入った木箱に移し終える。
後ろの方にいた俺たち奴隷へとグラゴが振り返り、その場を立ち去ろうとした。
その時、幹部の一人がグラゴを呼び止めた。
「おいおい、グラゴちゃんそれはいけねぇな。」
声をかけられたグラゴは再度振り返り、声の出した幹部へ顔を向ける。
「どういう意味だ?」
「ここのルールは、金になりそううなものは2割襲撃したやつが持ち帰っていい。だからねぇ、それ以上ネコババしようなんて考えちゃいけねぇのよ!」
「なんの話をしている?」
「とぼけたって無駄だよぉ。俺の耳はごまかせねぇ。お前、木箱の中に隠してるねぇ。衣服の擦れる音に混じって、かすかに金属の音が聞こえるよぉ。」
「何を馬鹿なことを! ふざけたことを抜かすと切ってや……」
言葉を言い終えるよりも早く、キールが右手を上から下に振りおろした。
同時に木箱が真っ二つに割れ、その衝撃で薬草は空中をひらひらと舞う。
そして、引き裂かれた衣類から、金貨2枚が音を立てて地面に落ちていった。
「これは驚いたねぇ。金属の音が聞こえたが、まさか金貨!! ……それも2枚も」
「何だ……この大金? おい、グラゴ! これはどういうことだ!」
「ボス! ほんとに知らない! 小さな村にこんな大金あるわけがない! ほんとに知らない!」
「お前は幹部に入って1年だったな。勿論ここのルールは知ってよな?」
「勿論です! 俺がそんな事するはずない! いや、ないです!」
必死に弁解するグラゴ。
顔中汗だらけになっている。
そんなグラゴに対して、キールは優しく声をかけた。
「まぁ、お前がネコババなんてするわけねぇか。」
その言葉を聞いて安堵したのか、グラゴの顔が少し緩む。
そして緩んだ顔のまま、グラゴの顔は首から下を残して空中に飛んだ。
「だがな、お前は俺に、薬草以外金目の物はないといった。俺に虚偽を吐いた奴は死ね。それがここのルールだ」
グラゴが死んだ。
こんなにうまくいくとは思わなかった。
それよりも!
金貨をみたあいつらの反応が怖い!金貨ってそんなに大金なのか?!
この世界の金の価値がわからないから、とりあえず金貨2枚くらいでいっか!って軽い気持ちだったんだけど……銀貨でも良かったな。
グラゴがピクリとも動かなくなったのを見た俺は、すぐに右手を確認する。
奴隷印が消えた。
「グラゴちゃんは幹部の中でも弱かったから仕方ないねぇ。キールさん、グラゴの奴隷印が全部消えちゃいましたけど、こいつらどうしますぅ? 殺しますかぁ?」
「部屋に返しとけ。明日お前ら3人に分配してやるから、奴隷印のアイテム持ってこい」
「命拾いしたねぇ。ほら、グラゴの部下共、さっさと奴隷を部屋に戻してこいよぉ。明日にはお前らも奴隷かもねぇ」
その言葉を聞いたグラゴの部下達は絶句していた。
部屋に戻った俺とロイは、特に会話をするでもなく土の床に横になった。
ロイは疲れてすぐに寝てしまったようだ。
さて、これで俺の今後が決まる。
「ステータスオープン」
迷わずに、ステータスバーにある天命を開く。
天命:雷帝
俺はその文字を見て、頬骨の出た顔でニヤリと口元を緩めながら小窓に顔を向ける。
「今日は、月が綺麗だ」




