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最終話

「これで月は満ちるでしょう……」


 肩で荒い息をするのは腰よりも長い白髪をなびかせた女だ。女の目は見えない。そばに従う同じく髪の長い女達は、その黒髪をやや乱れさせている。激しい術式を丸一日、飲まず食わずで使っていたせいで、その衰えようはひどいものだった。


 白髪の女――金昭儀――の目の前の水盆には、清い水が満たされている。


 そこには一人の男が映っている。


 筋骨たくましいその青年は独り黙々と歩いている。その背後には針のような細く高い山々が連なっている。鋭い目つきの彼が向かう先は南の方だ。そして彼が元いた地の方角には、儚げな星が一つ煌いている。だが盲目の金昭儀にはそれは見えていない。ただ、風もないのに水面が細かく揺れているのを、かざす両手で感じているだけだ。だがそれこそが儚い星の放つ波動、星の運命そのものなのである。


 金昭儀が純白の袖をそっと振るった。

 するとそれを合図に黒髪の二人の女は静かに下がっていった。


 独りきりとなった部屋で、蝋燭の炎も灯さぬ真の暗闇の支配する部屋で、金昭儀が何も見えぬ両の目を開いた。虹彩は墨を薄めたかのように変色している。だがその丸い虹彩の中央に、きらりと、何かが光り輝いた。


 それは水面に映るあの星にそっくりの、小さな点のような光だった。白くてやや黄色がかった光――それはよくよく見れば、まるで満ちた月のようだった。


「これで月は満ちるでしょう。新春を照らす月の御子よ、この世界に生まれいづる龍の子孫、趙家の末裔よ……」


 金昭儀の盲目の瞳には、今、確かな未来が見えている。


 この世でもっとも大きな期待を背負った赤子の誕生する瞬間が。

 まばゆいほどに輝く未来が。



 もう一度袖を振るうと、水盆の水はすべて空に消えた。

放浪篇第二巻、ここまで読んでいただいた方には厚くお礼申し上げます。

少女篇計五巻とSideStory、それに放浪篇計二巻で、総文字数は八十万字を超えていますが、じりじりと内容は進んでいます。


今回は特に前半は心の変化に焦点を置いたので、前述したとおりで、かなりじりじりとした展開に思われたかもしれません。その分、後半に一気に物語が動きましたが……このあたりは少女篇にも似ていますね。次巻以降からは少女篇三巻から五巻のような疾走感のある話にしていきたいと思っていますので……!


さて、今回は相当に深刻で残酷な描写が入りましたがどうでしたか?


注:ここからネタバレ多数含みますので未読の方は気をつけてください。


---


話の流れのとおりに触れていくと、まずは十番隊のことですね。

ちょっと出てきただけですが、彼らの残虐性は今後のキーワードとなります。


次はやっぱり楊珪己が死にかけたシーンでしょう。

ここは彼女が心を見直すきっかけを与えるために入れました。その結果、梁晃飛もまた己を見つめなおします。重要なことほど、こういった切羽詰まった状況に追い込まれないとなかなか深く考えられず、かつ決断できないものですよね…。


あとは楊珪己の妊娠について。

はい、実はこの伏線は少女篇のころからしっかりと考えていたものです。月の御子とはなにか、その意味がここでようやく暴露されました。少女篇五巻の最後の方に趙英龍が金昭儀に言ったとおり、二人の一夜の関係は皇帝が子を成す機能を回復するための試金石であったという解釈、イコール、月の御子、としてもよかったのですが、ここは思いきって最初の構想どおりにしました。


少女を扱っていたのに、初恋もようやくだったのに…と思われる方もいると思いますが、本作はあくまで「列伝」であり、女性の生涯には妊娠というのは避けては通れないキーワードで、設定上この時代はこの年齢であれば結婚しててもよくて(これについては何度も作中で触れています)、つまり子を成していてもおかしくない年頃なのでこうなった次第です。


あ、皇帝である英龍は女を抱く方法イコール、子を成す手段という教育しか受けていませんし、あと、金昭儀のパワーのお陰でこうなった…というのも理由です。これは敢えて説明しなくても分かりますね。


そして最後に、やはり最終章の桔梗のこと、それに応双然のことでしょう。


桔梗については、前巻から登場していて愛着もあり、そういう人物の命を消すことが今回初めてだったので……難しいところでした。けれどあくまで本作は楊珪己と二人の青年(袁仁威、李侑生)の三人がメインなので、この三人の内面が変化していく過程として挿入しました。女に嫌悪を抱き続け、武官となってからは多くの人を傷つけ殺めてきた袁仁威が初めて親しみを覚えた女性、そんな桔梗との交流で知り得たことは非常に重要な意味を持ちます。


最後に、タイトルの『選ばせて、運命』について。


誰もが何かを選びたいと思い、または選べない、選ぶ必要もないと決めて今を生きています。多種多様な人生のどれが正解でも不正解でもないのですが、その結果は確実に彼ら彼女らの人生に反映されていきました。楊珪己は「選ばせて」と叫びますが、果たして…?


登場人物としては今回、氾兄弟や応双然も登場し賑やかになってきました。このような感じで次巻に進んでいき、放浪篇を面白くしていきたいと思っています。


次巻ですが、早くて夏、遅くて秋頃かと思います(2018春時点での予定では)


またいろいろ感想をいただければ幸いです!


PS

web拍手、今回も完結記念に差し替えております(2018/4/4現在)。

ただし、今回は時間がなくて小話は作れず…簡単なifについてつらつらと書いております。

興味ある方はぜひお読みください^^


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― 新着の感想 ―
[良い点] 晃兄が真白ちゃんと透威くんに祈りと感謝をするシーンが好きです。 珪己ちゃんと仁威さまのそばに、晃兄がいてくれて良かった! あと、氾兄弟が出てくるの、ちょっと嬉しかったです。 (心の中で、…
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