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第三章 流依(るい)さま





 晶は、ギクリとして目を見開いた。


 何じゃ。

 今、強大な力が現れ、瞬間、気配が消えた。


 眠っていた晶は体を起こし、ドキドキする胸を押さえた。


 胸騒ぎがする。

 何か大変なことが起こる。


 誰か気づかぬのか。

 この月から強大なエネルギーが突如消えた。


 まるで、母が月から消えたかのような。


 誰か、おらぬのか。


 晶が部屋を出て行こうとすると、


 ――母の兄じゃ。兄が月から消えた。


 頭に響く声。


「母上!」


 母のエネルギー体がそばにいる。


 晶の母は物質ではない、次元の違う世界に存在する。

 姿は見えないが、確かに母のエネルギーがそこにいる。


 ――婀姫羅(あきら)よ。我が兄が目覚め、そして、月を離れた。


 母のきょうだいは二人だと思っていた。

 黄泉の国を統治する、夜琥夜(やくや)と、地球で暮らしている佐之尊(さのみこと)だ。

 


 もう一人、おじ上がいるのか?


「教えてくだされ、何があったのですか」


 ――そなたが、月から地球へ行った話をしたことはなかったな。

 ようやくその話をする時がきた。


 晶は、ごくりと唾をのんだ。

 驚きで声が出ない。

 

「い、いまですか。母上……」

 

 ――猶予がない。そなたには悪いが、陽一にも関わることゆえ。いま、話す。


 母の口から陽一の名が出るなんて、余程のことである。


 晶は表情を引き締めた。




 ――遥か昔、月で戦があった。


 聞いたことがある。

 そのために晶が地球へ逃がされ、うぐいす姫となったのだ。


 ――宇宙には様々な種族がいて、その中には、破壊を好むものがおる。

 その者たちは、レアンという。


 レアン。

 晶には、聞いたこともない種族だ。


――奴らは、負のエネルギーを好み、吸収する習性がある。支配された星は最後、破壊されて星そのものがなくなる。


 そのレアンが、昔、月を侵略しようとした。が、我らはそれを拒んだ。


 その頃、月で一番強い力を持っていたものがいた。

 我々の兄である。

 帝となる運命だったが、レアンに奪われぬよう兄は赤子にされ、誰にも奪われぬよう封印された。

 しかし、どさくさにまぎれ、赤子の姿に変えられた兄は行方知れずとなった。


 我はその時、そなたを身ごもっており、守るため地球へと送った。


 

 初めて明かされる真実。

 そんなことが起きていたとは知らなかった。


 ――その後、月の抵抗に敗れたレアンは、惑星、地球に向かった。

 地球にはまだ、人類は少なく抵抗するものがいなかった。

 戦の後始末で時がたち、兄も行方知れず。

 われは、そなたを取り戻そうと地球へ向かったが、地球と月では時の流れが違った。

 すでに千年の時が過ぎ、そなたを見つけるのに時間を有した。

 地球と違って、月には時間の概念がない。


 

 母は自分を見捨てたのではなかった。


「そ、それで、レアンという種族はいまどうしているのですか」


 ――レアンは遺伝子操作が得意だ。地球に太古から存在する生物と自分たちの遺伝子を融合させて、新たな人間を作った。

 自分たちの奴隷にするためだ。

 そなたを探しあてた時には、すでに元いた人間と混じって多くの奴隷たちがたくさん作られていた。


「我は? 母上、我は何度も生まれ変わっています。我もそのレアンの作った人間なのですか」


 ――そなたは違う。我ら月の住人であり、エネルギーが違うのだ。


「エネルギー?」


 ――レアンが地球を支配する目的はエネルギーの搾取だ。彼らは、負のエネルギーを好む。人間は負のエネルギーが出やすいように作られている。

 人間は肉体は強いが、心は弱い。思考も操作されておるため、すぐに悪い方へ考える癖がある。


「それが負のエネルギー」


 ――しかし、遺伝子操作されているにも関わらず、人間たちの中から奴隷でいることを拒否するものが現れた。

 そのものたちは、穏やかで静けさを好み、死、という恐怖をすてた。


 死。


 ――そうだ。レアンは死で恐怖心をあおり、人々が疑心暗鬼になるよう、そして、自己中心的な考えをもつよう教育してきた。

 しかし、遺伝子は変化する。


 ――月のものたちは、死を恐れぬ。

 月のものたちは、結着(けっちゃく)をとくと死ぬことを理解している。

 月は、地球と同じ物質世界だ。しかし、月に住むものは思考操作されていないため、全てが思う通りに生きられる。

 制限のない、無限のエネルギーを使い、思うままに生きる。


 死は、個人が決めるのだ。

 死とは、肉体という物質を離れ、ソースへと還ることである。


「母上もそうなのですね」


 話を聞いて、理解できた。

 母上のいう結着とは、物質の体を脱いでエネルギー体となることなのだ。

 母上は、次元の違う場所にいるが、ここにいる。

 ソースはすべての源であることは、晶も知っていた。


 人類、すべては皆、ソースから誕生して、いまを体験しているのだ。

 いってしまえば、物質という体を得なければ、体験することはできない。



「レアンは今も地球にいるのですか?」


 ――レアンはすでに地球にはいない。異次元へと離れた。


 それを聞いた晶の顔がこわばった。

 先ほど、母が言った言葉を思い出す。


――レアンは地球を捨てた。

 地球を離れたのは、目覚めたものが増えたためだ。目覚めたものたちは、奴隷になることをやめ、平和を好み、戦をしない。そうなれば、負のエネルギーを奪うことができない。そして、レアンの存在に気づくものが増えたためでもある。



 地球にいる陽一の事が頭をよぎる。

 今すぐにでも、助けに行きたい。


 ――地球もまた、我々と同じソースから誕生した。

 よって、レアンによってめちゃくちゃにされた地球も助けを求めてきた。

 地球は元に戻ろうとしている。


「元に戻る?」


 ――地球にも意思はある。

 循環によって育まれた地球は、かつての美しさを取り戻そうとしている。

 豊かな自然と動物たちによって、循環は続いている。

 レアンの作った人間がどんなにあがいても循環を止めることはできぬ。


 レアンは人間の数を減らす計画を始めた。だが、いっこうに人間は減らない。ならば。もう破壊しようと決めたのだ。


「そんな……」


 なんと身勝手な話なのだ。


 残虐な思考にぞっとする。


 ――婀姫羅よ。


「はい。母上」


 ――そなたはこの日のため目覚めた。

 我ら、月も地球が滅ぶと大変なことが起きるのだ。

 月と地球は引力で繋がっている。地球がなくなれば、 他の惑星も均衡を保てなくなる。


 そなたと我が兄が目覚めたのには、意味がある。

 兄を探すのだ。婀姫羅。


「叔父上のお名前はなんとおっしゃるのですか?」


 母のエネルギーが、穏やかに揺らいだ。


 ――るい。


「るい様」



 晶は、月にある母に近い強いエネルギーを探った。

 微かに、ある場所から感じたことのないエネルギーがあった。


 しかし、そのエネルギーは月にはない。


「るい様は、いずこに」


 ――地球へ向かった。


 母のエネルギーが静かにこたえた。


 ――兄は地球を救おうとしている。

 元に戻る手助けに行ったのだ。

 だが、人間のことは二の次じゃ。


「え……」


 それだけ伝えると、母のエネルギーが消えた。


 晶は、すくっと立ち上がった。


 地球へ参る!


 晶の目に輝きが戻った。

 陽一に会える。

 

 そう思うと、胸がドキドキと早打ちしだした。


 一秒でも早く会いたい。


 しかし、先にやらねばならぬことがある。


 晶は顔を引き締めた。





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