花びら散る
月へと戻った正勝は、まっすぐ晶のいる後宮へと向かった。
そこには途方に暮れた俊介、その他大勢の人がいた。
正勝が現れると、俊介がすぐに気付いた。
「正勝殿」
険しい顔で駆け寄ってくる。
「陽一は大丈夫だ。大蛇は倒した」
正勝の言葉を聞いて、晶が唇を噛みしめてうなだれた。
「ありがとうございます。正勝さま」
「晶、陽一は男らしく戦っていたぞ」
「はい…」
涙ぐむ晶の肩を舞が優しく抱きしめた。
「よかったですわね、晶さま」
「うん。ありがとう舞」
「よし! それでは、俺たちも地球へ帰ろうか」
出し抜けに佐之尊が言って、唯と手を取り合って喜んでいる。
晶が二人に近寄った。
「叔父上」
「ん?」
「陽一の事、頼みます」
晶が頭を下げると、佐之尊はにたにたと笑った。
「おう、任せとけ! 浮気せぬか見張ってやるわ」
「殿下!」
俊介がじろりと睨みつけた。
「冗談だよ、冗談」
わははと陽気に笑う。それを晶が少し寂しそうに見つめていた。
佐之尊と唯は、地球へと帰っていった。
晶は切ない思いで見ていた。
「あの、晶さま…」
「ん?」
葵がおずおずと側に寄って頭を下げた。
「わたくし、陽一さまとお話を致しました」
晶が驚いて息を呑む。
「何故そなたが」
「晶さまを喜ばせたくて」
「我を?」
本来は和記のために行ったのだが、ここはひとつ嘘をつかねばと葵は思った。
「はい。勝手な事をして申し訳ございませぬ」
「で、陽一はどうであった?」
晶の手に力がこもった。葵はちょっと唇を舐めて息をついた。そして、陽一が雪を桜吹雪に変えたことを思い出し、目を閉じた。
すると、突然、その場に雪が降り始めた。
晶はぼんやりとして眺め、それから葵を見つめると、彼女は泣いていた。
葵は泣きながらそっと手を振ると、雪の形が桜の花びらに変わり、静かに風が吹いてきて晶の手に花びらが舞い下りた。それを見た晶の唇が優しくほころんだ。
「晶さまにお花をと陽一さまからでございまする」
「かたじけない。葵殿」
「いいえ、晶さま…!」
葵が顔を上げた時、穏やかな顔で笑っていた。
「わたくし、地球へ行ってよかったと思いました」
それだけしか言わなかったが、晶は小さく頷いた。
「我はあきらめぬ。必ず、陽一と会えるのだから。な、舞」
「ええ、その通りでございますわ、晶さま」
舞も一緒に泣きそうな顔で側にくっついていた。
その瞳は、葵を恨めしそうに睨んでいるようにも見えるが、葵は気づかない。
陽一、お主に会いたい。
晶は吐息をついた。




