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うぐいす姫 ~鬼と呼ばれた姫~  作者: 春野セイ


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あの方の名前


 その夜、目覚めた鬼はそばにいる陽一郎の姿を見て、小躍りした。うれしさのあまり、時間をかけて陽一郎をいたぶり、目玉をしゃぶり、ようやく喰いつくした頃、明け方だった。


 残された右手は朝には再生されており、最初、目覚めた時、陽一郎は自分がどこにいるのか分からなくなっていた。

 鬼は朝にはうぐいす姫に戻っており、再生された陽一郎を手厚く介抱してくれたが、再生されたばかりの陽一郎はおびえるばかりだった。



 幾日が過ぎただろう。もう、姫は人の姿には戻れず、鬼だけが残った。

 鬼は、陽一郎を離そうとしなかった。常にそばに置いて夜には喰った。朝方目覚めた陽一郎は、鬼が苦しんでいるのを見た。


 喉をかきむしり、うめき声を上げて、おびえては夜具の中に隠れ、次第に元気もなくなっていった。

 そんな鬼を見ているうちにふと思った。


 この鬼の名は、なんと言うのだろう。




…………………………………………………………

………………………………………………

………………………

…………

……

…



 ――おい……。あんた。俺にっ、何が言いてえんだよっ。


 陽一は泣きながら、陽一郎に向かって叫んだ。実体であれば、陽一郎の胸倉をつかんでボカスカ叩いてやりたかった。


――お前じゃねえかっ。みんな、お前が悪いんじゃねえかっ。


 陽一は地面に突っ伏して泣きたかった。


 晶があの時、俺に殺せと言った。あの時の胸の痛みを思い出す。あの日、晶は何を思って俺に殺してくれと言ったのか。

 俺は傷ついた。どうして、こんな残酷なことを言うのか。そして、晶を大噓つきだと思った。

 もう、これ以上、嘘をついて欲しくない。


――あんたらは嘘ばかりついている。この世界は嘘の塊じゃねえかよっ。


「嘘か……」


 陽一郎が呟いた。


――新太郎って言う男も、あんたらはサイコキラーを野放しにしてたんだ。もっと早くみんなで止めるべきだったのにっ。


 陽一郎はその時だけ表情を変えて言い返そうとしたが、諦めたように首を振った。


「あの方の名前を……」

――あぁっ?

「うぐいす姫様のお名前を知りたい」

――なんだよっ。


 陽一は腹が立って仕方がなかった。今はそういう話をしているんじゃない。


「教えてくれ……。あの方の名前を……。一度でいいから、名前を呼びたいと思っていた」

――晶だよっ。


 陽一郎がはじかれたように顔を上げた。


「あ、あきら様?」

――ああ、そうだよっ。

「あきらさま……」


 陽一郎はそう呟くと、目からはらはらと涙をこぼして、そのまましゃべらなくなってしまった。



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