大太刀
――よいのです。
うぐいす姫が云って地面に座ると、陽一郎に向かって首を差し出した。
「今なら鬼は眠っています。わたくしの首を撥ねて下さい」
白いうなじを差し出すうぐいす姫。陽一郎は首を振った。
「できません」
「陽一郎さま」
うぐいす姫は笑っていた。
「正直に申し上げます。あなたにしか、鬼を殺すことはできませぬ」
「え?」
「鬼を殺すには、あなたがやるしかないのです」
「なぜ……」
うぐいす姫は答えなかった。陽一郎は、懐剣を取り出した。鬼を見たらすぐに殺すつもりでいた。
もう一度、うぐいす姫が首を差し出す。
カタンと音がして、陽一郎の手から懐剣が落ちた。
「許します」
「え?」
「花はいなくなってしまったが、あなたがいる」
うぐいす姫は首を小さく横に振った。
「なりませぬ。陽一郎さま、わたくしを選ぶことはできないのです。わたくしは鬼です。鬼はきっとあなたを殺すでしょう。わたくしでいるうちに、殺してください」
「できないと云ったでしょう」
陽一郎は、うぐいす姫の手を取った。うぐいす姫はその手を振りほどこうとしたが、陽一郎は自分の方へ引き寄せた。
「もう離さない」
「ダメ……」
「では、条件を出そう」
陽一郎が低い声で囁いた。
「え?」
「俺が身代りになればいいのでしょう。先ほどあなたはこう云った。鬼は俺を殺すと、ならば殺せばいい。花を失ってあなたまで失えば、俺にはもう残されたものは何もない。残っていると云えばこの体ぐらいだ」
うぐいす姫が顔を覆った。陽一郎は、もう一つ残酷な事を思いついた。
「術が使えるのなら、俺のこの手を差し出そう」
右手を突き出す。
「先ほどの力を見ていたらこれくらいはたやすいだろう。この右手を残しておけば俺を生き返せることができるのではないか? そして、残りの部分は鬼が喰らえばいい。その代わり、村人を喰うのはやめてくれ」
「あなた様は……」
うぐいす姫が泣いた顔を上げた。
「わたくしを憎んでいるのですね」
「ええ、あなたが憎い。殺したいほど憎いのに、まだ、あなたをこんなにも欲している俺がいる」
「還りたい」
「どこへ? あなたはもう還る場所など、どこにもない」
うぐいす姫はシクシクと泣きだした。陽一郎はその細い肩を優しく抱きしめた。




