月人男(月を擬人化していう称)
公園を出て家に帰った陽一は、家に着いた頃には汗だくになっていた。
変な男にサングラスを渡されそうになり、公園では可愛い女の子に声をかけられ、変な日だと思いながらも喉はカラカラだ。
一刻も早く水分をとらねばと玄関に入って靴を脱ぐなり裸足でキッチンに飛び込んだ。
冷蔵庫を開けてなんでもいいから冷たいものを探した。
麦茶を取り出しコップに注いで一気に飲み干す。それを三回繰り返すと、ほうっと大きく息をついた。
「生き返った……」
麦茶は空になり、シンクにそのまま置いてしまう。どうせ、母が片付けるのだから構わない。
財布があるか確かめるため部屋に戻ろうとした時、ふと、何かを思い出した。
「あれ? 俺、キャップ、かぶってなかったっけ?」
今年の夏に買ったロゴのついたキャップがないことに気づく。
陽一は青ざめた。
どこに落としたんだろう。道で出会った変質者の所か、もしくは公園か。
あの帽子はすごく気に入っている。今年の夏はものすごく暑いし、必需品となるだろう。なくすと母にまた言われそうだし、新しいのを買うお金もない。
陽一はがっくりと首を落とすと、のろのろと玄関に向かいシューズを履いた。
探しに行くしかない。
おそらく公園だと思われた。
こんなに運の悪い日はかつて今まであっただろうか。ない、あってたまるか。
自転車にまたがり、やみくもに漕いで公園を目指す。
あの、綺麗な女の子にまた会えるかな、などと、ぼやーっと考えながら水飲み場にたどり着いた。
公園の入り口から自転車を押して中に入ると、水飲み場に女の子が二人いた。一人の少女を見た途端、陽一は胸が高鳴り、自転車のグリップを握る手が震えた。
「マジか……」
とんでもないくらいかわいい女の子が自分の帽子を手に持って眺めている。
陽一は呆けたように口を開けて、少女をじっと見つめた。
「うぐいす姫だ……」
間違いない、と頭の中で声がする。
それが自分の声だと、すぐには気付かないほどだった。
「本当にいたんだ……」
陽一はいったん自分を落ち着かせようと深呼吸した。
年を重ねるごとに、うぐいす姫なんかいないんだ。自分のおかしな思い込みだったという気持ちでいた。
だが、目の前にいるのは間違いなく自分の運命の相手、うぐいす姫だ。
よく分からないけど、自分たちは大昔から会うべくして生まれてきた。
自分の中にある記憶が、彼女に声をかけるべきだと叫んでいる。
陽一は震える足を必死で動かして、少女に近づいた。
「あ、あのっ」
声をかけると、二人の少女がぎょっとした顔で陽一を見た。
小柄でショートカットの子が大きな目を見開いて陽一を見たかと思うと、おびえたように後ずさりした。しかし、キャップを持っている髪の長い美少女は、まあ、と口を押さえてにこりと笑った。
「こんにちは」
美少女、陽一が探していたうぐいす姫はほほ笑みを浮かべていた。
「お、俺っ、君を探していたんだっ」
かっこ悪いくらい、声が上ずった。
「え?」
美少女が首を傾げた。その顔もすごくかわいい。陽一はぽうっとなった。
「う、うぐいす姫だろ、君」
陽一の言葉を聞いて、美少女は言葉を失ったように見えた。
白い肌がさらに白くなったように思えた。




