行方
◇◇◇
その頃、義兄と流稚杏たちは、俊介の必死な呟き声など聞きもせず、瞬間移動をした先は、なんと月だった。
二人は唖然として辺りを見渡す。美しい庭園に小さな橋があり、手入れが行き届いた見覚えのある庭園。
地上とは違い、月は静かで時の流れが違う。しん、とした池も穏やかな時間が流れていた。
三人は小さな社の前に立っており、陽一は月へ飛ばされたのに、きょとんとしていた。
「殿……」
さすがの流稚杏も茫然としている。
「どういうことだ? なぜ、こやつは月への道を知っている」
「わらわにも分かりませぬ」
陽一は辺りを窺ってからハッとすると、あたふたと手を振り上げた。
「わあっ、な、何だここっ」
どてんと尻餅をついて空を見上げた。雲ひとつなく地球よりは白い空が広がっている。その時、流稚杏がハッとした。何やら屋敷の方が騒がしい。
「殿、何かあったようじゃ」
「うむ」
慶之介が、陽一を引き連れて屋敷へ向かうと、部下たちがあたふたと走りまわっていた。
「何を騒いでいるっ」
慶之介が叱ると、部下の一人が血相を変えて走って来た。慶之介の側近の者で、ひざまずくと震える声を張り上げた。
「も、申し上げます。大太刀三輪守が、き、消えました」
「何?」
大太刀が盗まれるはずはない。慶之介はすぐには声が出なかった。
「そんなはずはない。あれは俺が命じなければ動くはずがない」
「いいえ……。一人だけ動かすことができますぞ」
「まさか……」
「ええ、姫が命じたのです」
二人は陽一を見た。
「え?」
陽一が目をぱちぱちさせた。
「これは三輪守のしわざじゃな」
流稚杏が鋭い目で陽一を睨んだ。陽一はぞっとしたように体をすくめた。
「な、何ですか流稚杏さん、怖い声を出したりして」
流稚杏はずかずかと陽一に近寄り彼の手首をつかんだ。
「や、やめてくださいっ」
陽一が悲鳴を上げる。流稚杏は、陽一を逃がさぬよう強く手首を握ったまま目を閉じて集中する。形代の名前が書かれた場所をさぐる。
陽一の首の裏に文字が見える。背後にまわり、首まわりのシャツをはぐと淡麗な文字があった。指先でそれを消すと、陽一は、一瞬で人形の白い紙切れに変わった。
ひらひら舞い落ちる紙は瞬時に燃えて消えた。
「本物の陽一はどこに……?」
慶之介が呟く。
「三輪守を探さねば……」
流稚杏の声もか弱かった。




