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行方



 うぐいす姫は、赤猪子を探していた。


 彼女は外にいた。陽一の姿は見当たらない。

 赤猪子は結界ギリギリの場所で、外側を睨みつけている。


「おばば、いかがした? 陽一郎はどこへ行ったのじゃ」

「姫…」


 赤猪子は振り向いた時、うぐいす姫の顔を見てハッとした。そして、しわくちゃの顔を引き締めると、


「時間がないようじゃ」


 と空を指差した。


「月の使者が姫を探しておる。当然、ハンターはもう間もなく、ここへ集結する」


 うぐいす姫はこくりと頷いた。


「兄上たちはこの場所を知らぬのであろう?」

「慶之介殿は我らのことは何も知らぬ。わしがここにおることも知らぬゆえ、見つけるのは容易ではなかろう」


 それを聞いて、うぐいす姫が頷く。


「陽一の里には手を打ったであろうな?」

「無論、わしがこさえた人形ひとがたを仕込んでおいた。今頃は夕餉の時間じゃろう。問題はありますまい」


 うぐいす姫はほっと息を吐いた。


「それを聞いて安心した。我はこれから、陽一郎の記憶を呼び覚ますつもりじゃ」

「承知いたした。あの若者はよほどのことがない限り目覚めることはあるまい。わしが先ほど眠らせたからの」

「眠らせた?」


 うぐいす姫が眉をひそめると、赤猪子はにやりと笑った。


「しぶとい若者じゃ。全く眠る気配がないので、わしがちょっと術をかけただけじゃ」


 うぐいす姫は苦笑すると、


「恩に着る」


 と云った。


 うぐいす姫は身を翻し、部屋の中へ戻ろうとすると、赤猪子が呼び止めた。


「姫」

「うむ?」

「わしに頼むことはないか?」


 うぐいす姫は一瞬、押し黙った。


「ない。おばばは何もしなくてよい」

「…御意に」


 うぐいす姫は、社の奥にある部屋へ足を運んだ。

 一歩足を踏み込むたびに、心臓が早鐘を打ち、立ち止りそうになる。

 しかし、うぐいす姫は、陽一の眠る部屋へと急いだ。 

 陽一は薄い布団の上に仰向けで眠っていた。

 寝顔はあどけない少年だった。

 昔の記憶はおぼろになってきていたが、彼を目の前にすると、まざまざと過去が思い浮かんでくるようだった。

 うぐいす姫は目を閉じて深呼吸をすると手を伸ばし、そっと眠る陽一の額に指を当てた。


「陽一郎」


 うぐいす姫の呼びかけに、陽一の目が開いた。

 黒い瞳がぼんやりと自分を見つめていたが、やがて、大きく見開かれた。


「姫…」


 見開いた瞳の表情は、最期の日の陽一郎だった。


 うぐいす姫はとっさに声が出なかった。

 自分は、してはならないことをしたのだろうか、と一瞬、頭をよぎり、陽一郎を呼び起こしたことを後悔した。しかし、もう後には戻れない。


「久しぶりだの、陽一郎」

「うぐいす姫?」


 懐かしい陽一郎の声だった。






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