まるい月
丸い月を見ると胸がざわざわする。
息苦しくてため息が出るし、力が抜ける気がするのだ。
早々と部屋に戻ろうと思うと、ゆらゆらと月に黒い影がまとっているのが見えた。
「え?」
陽一は目を細めてじっと見つめた。
月が変じゃねえ?
月がある一部分に光を射していた。
急いで部屋に入った陽一は何を思ったのか、すぐさま部屋を飛び出した。足が自然と動き出す。
夜は危ないから出るなと母に言われていたが、そうは言っていられなかった。
今日はうぐいす姫に会えた日だ。なんかあるんじゃねえか。
陽一は勝手に思いこんで走った。
月の光が見えているのは、自分だけなのだろうか。
満月から、一筋の光りが地上へ向かって落ちている。
ドキドキと胸が高鳴りだした。
何か起きている。
でも、誰も気づいていない。
自分しか知らない。
興味心がむくむくと沸き起こり、陽一は走った。
月明かりが射す方向は、綺麗なマンションだった。
意外と自分の家から近い。
マンションを見上げると、屋上に光りが集まっていた。
気持ちが逸る。
中に入ろうとしたがオートロックだった。逡巡しているとマンションの住人がちょうど下りてきた。ドアが開いたと同時にすり抜ける。
呼び止められるかと思ったが、誰も止めなかった。
屋上までエレベーターで上がった。
屋上につながるドアが見えた。
陽一はドキドキとしながらドアノブに手をかけた。
しかし、ドアはびくともしない。
「開かないっ」
当然、屋上は立ち入り禁止になっていた。
陽一はがっくりと肩を落とした。