月影(月の光)
皆、手には斧や矢を持っている。
「な、なにを……」
いきなり村人が飛びかかって来て、口を塞がれた。足で背中を押さえつけられる。
「声を出すなっ」
村人が斧を突きつけて、陽一郎に言った。
「待てっ」
その時、やしろの奥からうぐいす姫が村人たちに引きずられてきた。赤い袴がずたずたに引き裂かれている。
村人に髪の毛をつかまれたうぐいす姫は、顔を床に押し付けられた。
「早く鬼を殺せっ」
「この男はどうする。鬼の仲間だぞ」
「男も殺すんだっ」
陽一郎の首筋に刃が差しこむ。首筋を熱い血が滴った。それを見たうぐいす姫が叫んだ。
「その者を殺すなっ。殺してはならぬっ」
「知っているんだぞ。男を殺せば、こいつは二度と蘇ることはできない。そうだろう」
うぐいす姫はそれを聞くなり、力いっぱい両手を広げて村人をはじき飛ばすと、陽一郎の方へ飛びかかって来た。
その時、二人に向かっていっせいに矢が放たれた。
「やめよっ」
うぐいす姫は背中や腕に矢が刺さるのも構わず陽一郎をかばった。ひとつの矢が陽一郎の胸に刺さった。陽一郎がぐらりと傾いた。
「陽一郎っ」
うぐいす姫はすぐさま陽一郎の胸から矢じりを抜いてすぐに傷口に手を当てた。
みるみるうちに傷がふさがる。
陽一郎が目を覚まし体を起こすと、うぐいす姫の頬にそっと手を添えた。
うぐいす姫が悲しげにほほ笑んだ。それから、村人たちを見た。
「うぬらの望む通り我が消えよう。だが、もし、陽一郎に手をかけてみろ。貴様ら、後悔させてやるからな」
そう言って、うぐいす姫は、陽一郎の手を握り締めた。
陽一郎がハッとすると、彼はいつの間にか短刀を握っていた。
「これで、我を殺せ」
え? と陽一郎が思った時にはもう、うぐいす姫の手に重ねられた手の刀が彼女の胸を貫いていた。
うぐいす姫は絶命していた。
呆然とする陽一郎を前に村人たちが、わあーっと歓声の声を張り上げた。
これで鬼におびえる生活はなくなった。
その時、月の光がまばゆく輝き、陽一郎が抱いているうぐいす姫の亡骸へと落ちた。
村人は声を殺してそれを見つめた。
陽一郎の腕の中のうぐいす姫がさらわれそうになる。陽一郎は奪われまいと必死で抱きしめた。
村人が叫んだ。
「鬼を奪われるなっ。月の力で蘇るかもしれん」
村人は月に向かって矢を放った。しかし、月は遠すぎて届かない。
「鬼を燃やせ」
村人の叫びに、陽一郎がかばった。
「やめろっ。これ以上、うぐいす姫を悲しませないでくれっ」
「鬼が悲しむものか。肉親をどれだけ殺されたか、お前も知っているだろうっ」
陽一郎はうぐいす姫の体を強く抱きしめた。体はひんやりと冷たい。
「そいつをよこせっ」
足で蹴られても陽一郎は、うぐいす姫から離れようとしなかった。
「もういいっ。こいつも一緒に焼き殺せっ」
火が放たれ陽一郎は炎の中でも、うぐいす姫を離さなかった。
「俺は彼女と共に死ぬ。うぐいす姫のいない生活など考えられないからだ。だが、俺は生まれ変わってもう一度、うぐいす姫に会う。会って伝える。伝えたいことがあるんだ」
陽一郎はそう言うと、静かに目を閉じた。
その後、村へと戻った人々は流行り病が原因で多くが死んでしまった。
これより先は、その後の話である。




