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サングラスの秘密



 ベッドに寝そべっていた陽一は天井を仰ぎながら、晶のことを考えていた。

 水着姿が目から離れない。

 生白い腕と細い足首。

 朋樹と並んでいる姿を見ると、胸がきりきりした。


「くそ…っ」


 頭がおかしくなったとしか思えない。


 晶のことが気になるなんて。

 陽一は寝返りを打って頭を抱えた。

 その時、携帯の着信音が響いた。見ると、朋樹からだった。

 ラインを開いた瞬間、陽一は飛び起きた。

 食い入るように添付された写真を見る。


「マジか…」


 それは晶の写真で、ふわふわの髪の毛は長く、ぱっちりした瞳とかわいらしい唇にとても似合っていた。


「なんだよこれ…」


 茫然として内容を読むと、髪を短くする前の写真をもらったんだ、と自慢げに書いてあった。

 陽一はむっとして不機嫌なまま、もう一度写真を眺めた。

 顔のこわばりは依然と解けない。


「くそ…」


 汚い言葉が次々と出てくる。

 自分の見る目がなかったことに今さらながら腹が立った。

 陽一は顔をしかめたまま、自分の膝を見つめた。


「晶がうぐいす姫だ…」


 直感が働いた。

 間違いなく晶がうぐいす姫だ。


 あいつ、嘘をつきやがったな。


 陽一は、奥歯を噛みしめた。

 舞が、晶に対して下手に出る理由がよく分かった。

 間違えている陽一に対して、晶は腹の中でバカにしていたのだ。


「くそっ、くそっ」


 腸が煮えくりかえるほどの怒りに駆られ、陽一は立ち上がった。

 部屋を行ったり来たりしていたが、我慢できずに家を出た。

 晶の家に行くつもりだった。自分の家からは歩いて行ける距離にある。

 陽一が家を出てからすぐのところでいきなり腕を引っ張られた。

 心臓が止まりそうなほど驚く。


「わあっ」


 振り向くと、なんと沙耶だった。


「さ、沙耶ちゃんっ。驚いたっ」


 沙耶はグレーのスカートの短いワンピースを着ていた。

 彼女はにっこりと笑った。


「こんばんは」

「こんばんは…」


 陽一は怪訝な顔をした。


「…どうしてここに?」

「ねえ、覚えてる?」

「何を?」


 沙耶は探る様に自分を見つめている。


「まだダメなのね」


 沙耶は意味不明な言葉を呟いて息を吐いた。


「ねえ、ポケットに入れているサングラスを出してみて」

「サングラス?」


 そんなもの入ってないのにと思ったが、右のポケットから真っ黒のサングラスが出てきた。

 陽一は首を傾げてそれを眺めていると、沙耶が「かけて」と言った。

 陽一は言われたままにサングラスをかけた。

 沙耶の姿がはっきりと見える。


「すげえ…」


 夜なのによく見える。

 外そうとすると、次は「月を見て」と言われた。

 陽一は月を探した。

 月の姿はほとんどが欠けて見えた。だが、その色は赤くくっきりと見える。


「赤い月だ」


 満月からまだ二日しか経っていないのに、陽一に見える月はほとんど欠けている。

 サングラスを外してもう一度月を見てからすぐに理解した。


「欠けている月が見えているんだ」

「その通り。このサングラスは新月に力を発揮するわ。つまり、うぐいす姫の力がなくなった時こそ、鬼退治が可能になるのよ」

「鬼退治?」


 どこの昔話だ、と陽一は笑った。


「バカにしているのね」


 沙耶が悔しそうに言った。


「どうしちゃったの? 本当のあなたはそんな人間じゃないはずよ」


 沙耶の方こそ何を言いたいのだ、と思った。


「君は何者? どうして俺に変なもの押し付けるんだよ。これ、いらないよ」


 陽一はサングラスを沙耶に押し返した。


「ダメよ、あなたはもう受け取ったもの」

「はあ?」


 陽一は薄気味悪そうに沙耶を見た。


「俺は何も受け取っていないけど…」

「それはあげるわ。きっと、あなたの役に立つと思うから」

「いらない」

「そんなこと言わないで」


 沙耶が悲しそうに言う。


「ね、お願いよ。持っているだけでいいの」


 手に押し付けてくる。

 陽一は、それ以上押し返すことができずにしぶしぶ受け取った。


「ありがとう。ねえ、陽一くん、うぐいす姫を探していたのはあなただけじゃないのよ」


 沙耶が急に涙ぐんだ。


「わたし、うぐいす姫に言いたいことがあるの。もし、彼女がどこにいるか知っていたら教えて欲しいの。約束したでしょ」

「約束?」


 頭に沙耶の声が響く。

 陽一は警戒した。

 彼女の甘い声にしびれる。


「なんだっけ…?」

「そうだわ、満月の夜はありがとう。だから、ご褒美だよ。いいもの、あげる」


 沙耶が耳元で囁き、陽一は肩をすくめた。


 手をぎゅっと握られた。強い力で思わず顔をしかめると、フフフと笑った沙耶の息が耳にかかった。

 こそばゆくて目を閉じた。そのまま目を閉じたまま、待ったが何も起きない。

 そっと目を開けると沙耶はおらず、一人でその場に立っていた。


「まただ…」


 もうやだ…。


 陽一は顔を押さえた。



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