ウキウキ
◇◇◇
翌日、駅に現れた舞と晶を見て、陽一の心ははち切れそうなほどうきうきとしていた。
今日の舞の洋服はシンプルな花がらのワンピース姿だ。晶の方はTシャツにショートパンツとラフな格好だが白い素足をさらしている分、ちょっとだけどぎまぎした。
隣にいる朋樹は舞ではなく晶を見てにこにこと笑っている。
舞に朋樹を紹介した。
「朋樹、彼女がうぐいす姫の生まれ変わり、舞ちゃんだよ」
「へえ……」
朋樹はもっと大喜びするかと思ったのに反応がいまいち薄くて、陽一は拍子抜けした。朋樹のタイプではないのかもしれない。
「こんにちは舞ちゃん。僕は陽一の幼なじみで朋樹です」
朋樹が自己紹介をした。舞は小さく頷いた。
「初めまして朋樹さま。わたくしは晶さまのいとこの舞でございます。本日はどうぞ、よろしくお願いいたします」
「言葉遣いが丁寧ですね」
朋樹が変なところに感動している。
「じゃあ、行こうか」
三人を促して電車に乗った。二人分の席が空いていたので、舞と晶が少し離れた場所に座った。陽一たちはつり革につかまると、朋樹が小さい声で言った。
「舞ちゃんがうぐいす姫? かわいいね」
「だろ」
陽一は当然と言った顔をした。
「だったらさ、晶ちゃんは僕がもらってもいいんだよね」
「は? 何だそれ、もらうって何だよ」
「言葉のあやだよ。だって、舞ちゃんはお前の彼女なんだろ」
突然、朋樹に言われて何となく不愉快な気持ちになる。
晶はそういう対象じゃないだろ。あんなのガキくさいし。晶はその……つまり、子どもなんだよ。
「晶に手を出すなよ、あいつはガキなんだから」
「ガキ? 本気で言ってんのか?」
「とにかく、晶に手を出すなよ」
陽一の言葉に納得できないらしく、朋樹は首を振った。
「お前の相手は舞ちゃん、俺は晶ちゃんと話したいから好きにさせてもらう」
「お前の目的はうぐいす姫だろ」
「そうだよ」
だから何? と言った風に朋樹はふんぞり返った。
晶はうぐいす姫とは無関係だと言いたかったが、電車が止まったので四人は降りた。
「プールまではどれくらいあるのですか?」
舞がおどおどと聞いてきた。
「駅のすぐ近くだから」
陽一が笑いかけると、舞が力なく笑った。
「わたくしは泳げませんの」
「大丈夫、小さい子もたくさんいるから」
「そうでございますか」
舞ちゃんは水着になるのが恥ずかしいのだ、と陽一は思った。
屋外プールのチケット売り場は行列ができている。
数分並んでチケットを買って中に入り、着替えるために二手に分かれた。
プールの入り口で待ち合わせるため、陽一は素早く着替えた。朋樹もすぐに着替えて二人は入り口へ向かった。少し待つと晶と舞が現れた。
舞は桃色の花柄のワンピース水着で清楚ですごくかわいかった。晶の方も薄紫色のワンピースの水着だったが、胸のあたりにフリルがついていて女の子らしい。
陽一は、晶を見ると思わずさっと目を逸らした。
ガキだと思っていた少女は意外と胸も大きくてどきりとした。
朋樹は、晶に駆け寄り、かわいいねと褒めている。陽一は何か上に着ろよとイラついた。しかし、晶は気にしていないようだった。
プールに誘った朋樹を思わず恨んだ。
コインロッカーに全員の貴重品を預けて、朋樹が鍵を預かる。
「行こうか」
朋樹が促すと、舞は、晶の腕を取ると二人でぴったりと寄り添い歩き始めた。
晶を守るように歩き始め、陽一は目の前を歩く晶の形のよい引き締まったお尻につい目がいってしまった。
……早く水に入りたい、と陽一は泳ぐ前から何だか疲れた気がした。
舞が泳げないというので、腰までのプールに入った。二人がはしゃぐ姿を見て、やっぱり来てよかったかもと思う。
「水が冷たくて気持ちよいの」
「晶さま、決して離れないでくださいませ」
「はは、舞は臆病者だの」
陽一は気づけばずっと晶ばかり見ていた。
水に濡れた晶は綺麗だった。
「プールとは楽しいな」
「そうでしょ」
晶の笑い声と朋樹の声に我に返った。
「ねえ、晶ちゃん、泳げるんだよね、あっちに流れるプールがあるんだ。歩きながらでも楽しいから行かない?」
「うむ、面白そうだの」
晶が承諾する。舞が、ハッと晶の手をつかんだ。
「晶さま……」
「大丈夫じゃ、舞。お主は陽一と一緒に少し水に慣れるとよい」
晶が水から上がり朋樹の後を追っていく。陽一にはなすすべがなくてただ見ていた。
「陽一さま、よいのですか? 晶さまが行ってしまわれますっ」
「い、いいも何もあいつが勝手に行くんだから放っておこうよ」
「そんな……」
舞が今にも泣きそうなので、陽一は困った。
「なら、俺たちも行く?」
「は、はいっ」
舞は、晶のそばにいたいのだろう。彼女の気持ちがひしひしと感じられた。
流れるプールは多くの人で賑わっていて、晶たちがどこにいるか見つけるのが大変だった。
「やみくもに探しても見つからないから、上から追いかけよう」
陽一が言うと、舞が必死で人々の顔を見ながら歩き始めた。
おそらく一周しないと見つけることは出来ないだろう。だが、どこかで止まって移動されると厄介だ。
スマホもないし、朋樹が何を考えているか分からなかったので、陽一は不安に駆られた。
「陽一さま、晶さまは大丈夫でしょうか」
「大丈夫だよ」
陽一は、舞を励ますように言った。
「わたくし一緒にいないと不安でたまらないのです」
舞がどうしてここまで過敏になるのか、陽一にはさっぱり理解できなかった。
しかし、朋樹はうぐいす姫マニアなのにどうして舞ちゃんに興味を見せないんだろう。
不可解だったが、まずは二人を探すのが先だと思った。




