Lesson12
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一方アウステロンとファキアが戦っている最中、スマラグダから圧倒的屈辱をもらって心の折れてしまったプロクスは、誰もいない第四教室にある自分の机に突っ伏して落ち込んでいた。
「はああ……俺はもうダメだあ……」
重たすぎる槍を満足に扱えなかったプロクスは、軽い少年ウィリデが易々と扱えている事を思い返して勝手に落ち込み続けていた。
「なんなんだよ……あいつ実はけっこう強かったのかよ……」
ウィリデと一切戦ったことの無いプロクスは、いつもお茶らけて調子のいい彼の強さなんてたかが知れているものだと思い込んでいた。
「はああ……なんかもう、宮廷兵士目指すのやめて実家で畑でも耕して生きようかな……」
とうとう、実家に帰りたい病が発生したプロクスは思ってもいない事を口にしてしまう。
「コラソコノキミー」
「あ痛っ!」
そんな時、机に突っ伏しているプロクスの頭を棒読みの何者かがゴツンと白手袋を着用した拳で殴った。
「痛つつ……だ、誰だよいったい!」
「ワタシダヨー」
プロクスが振り返ったその先には、全身を黒いタキシード、顔にはオペラグラスを付け、頭部を丸ごと覆い隠す程の大きいシルクハットを頭に被っていた何者かが立っていた。
「は……?」
その不審者極まりない女性か男性かすら正体不明な人物を前にして、プロクスは困惑を隠せないでいた。
「アー、ワタシ『マスク・ド・ペルソナ』とモシマスー。キガルニ『ペルソナ』とヨンデー」
そのあまりにも適当過ぎる名前を聞いて、プロクスは蔑んだ目でペルソナをじろりと見る。
「ナ、ナニヲミテルデスカー?」
「……お前まさか、巷で噂になっている変質者じゃないのか?」
プロクスがアブソルトジャスティアに来て一週間から今現在。
全身を漆黒のタキシードで覆いオペラグラスを顔に付けた不審者があちこちで出没しており、王国内では若干有名になっていたのだ。
「ハッ!? ハアー……ナンノコトデスカネー?」
「一瞬ビクついたな……怪しいやつめ」
プロクスの蔑んだ目が不審者を通報しそうな目にだんだんと変わってきている事に気付いたペルソナが話を逸らし始める。
「ア、アー! ソナコトヨリモー、アナタツヨクナリタクナイデスカー!」
「はあ? ……別に、なんかもうどうでもいいかなって最近思えてきた」
「あーあ、こりゃ重傷だわ」
「はっ?」
突然流暢に話し始めたペルソナを横目で見て、プロクスは不審に思う。
「ア、アー! ナデモナイヨ、ナデモー」
「……つーわけだからさ、さっさと俺を一人にしてくれよ」
「ネネプロクスー、キミハナンデソンナオチコンデルノー」
「……なんで俺の名前知ってるんだよ?」
またまた痛い所を突かれたペルソナは、何がなんでもとにかくとぼけ続けた。
「ア、アー! マモノタオシタコトデユウメーナプロクストイウナマエ、
カゼノウワサデキイテー!」
「そっか……俺ってそんな有名になってたのか」
「それは信じるんかい!」
「ん……?」
「キ、キノセダヨー!」
――こいつどうも怪しいな……いやでもまあ不審者だから怪しくて当然かもな。
一人そう考えて納得したプロクスは、とにかく暇潰しにでもとペルソナに話をする。
「俺さ……ここに入る前は自分でも結構強いと思ってたんだ」
「ぶふっ!」
突然吹きだしたペルソナを目の当たりにしてプロクスは憤る。
「……今お前、俺の話聞いて笑わなかったか?」
「ソ、ソナコトナイヨー!」
そんなペルソナのすっとぼけた態度を前にして話をする気をプロクスは少し削がれた。 だが、ここは全部吐き出した方がスッキリすると思い直して話を続ける。
「……だって、兵士でもない俺が魔物を倒すことができたんだぜ」
「アー、アレハザコダカラネー」
「……なんか知ってるんじゃないのかお前?」
「イ、イヤー! タダノシッタカヨー!」
「適当に話を合わせないでくれよ……」
「あんたいつも適当でしょうが!」
「……また流暢な女の声が聞こえた……まさか幻聴か?」
「はっ……ソ、ソーダヨゲンチョウダヨー! アナタツカレテルノヨー!」
これはシメシメと思ったペルソナは、とにかくプロクスのバカさ加減に内心喜んでいた。
「ト、トコロデー、アナタシュッシンハドコー?」
「……アウクトル村、豊かで住み心地のいい村だよ」
「ソデスカー、デハアナタ、ドシテヘーシメザスデスー?」
――あれ、そう言えば俺はどうして兵士を目指していたんだっけか。
プロクスは必死に村を出ていった時の事を思い返す。
――強くなって村の皆を守りたいから……いや違う!
それも確かにプロクスにはあるが、それが全ての原動力ではない。
――それじゃあ、御先祖さまの様な勇敢な者になりたいのか……近いけど何かが違う!
自分は自分であり、御先祖さまは御先祖さま。
確かにその強さに憧れていないわけではないが、そんなものプロクスにとっては知ったことではない。
――じゃあ、俺は俺として強き者や魔物と戦いたいってこと……これだ、これだよ俺が求めるのは!
プロクスは自分が何を求めているのか、一体何がしたいのかを再度考え直した結果――この結論に辿り着いていた。
プロクスはそれらの事を、ペルソナに事細かに全て伝えきる。
「――――そうだった、そういえば俺はそんな事考えて村を出たんだっけか……」
「ダヨネー。シカモアナタ、ダレカトヤクソクシタノデハー?」
「誰かと約束……?」
「ホラー、トテモツヨクテチョーゼツビショウジョノアノオカタヲー」
「……そんなのとは会ったことないけど、ぶっきらぼうで口の悪いフィーネとかいう、
凶暴な女と……そういえば約束してたな」
「……後で殺す!」
なんでかペルソナは体を震わせていた。
「ま……また幻聴が……しかも殺意で背筋がゾクゾクするし」
「ア……キ、キノセイデショー、オニイサンノキノセー!」
――しかしこの殺意……とても懐かしい殺意だなあ。
あまりにもやられ過ぎてちょっぴり感覚が狂ったプロクスは、そう思いながらも本当に懐かしがる。
そうしてアグナスディ遊撃団魔物討伐隊第三小隊副隊長――フィーネ・オーティスとの別れ際の言葉を思い出す。
「……そうだった。俺は立派な宮廷兵士になってあいつの前に立ち、
あいつの過去を聞いてやらないといけないんだったな」
「オー、オニイサンヨクオボエテタネー。ワタシウレシヨー」
「いや、あんたのおかげで思い出すことができたよ……ありがとな!」
プロクスは思わず満面の笑顔をペルソナに向けた。
それを目の当たりにしてペルソナはそわそわする。
「イ、イヤー……ベ、ベツニイイケドー……サ、サラバダー!」
慌ててペルソナは第四教室の窓から、とんでもない速さで飛び出してしまった。
「えっ、ちょっとま――! 疾風のように去ってしまった……
ペルソナ……いったい何者なんだ……」
結局最後の最後までプロクスは、ペルソナの正体誰なのか分からず仕舞いであった。
――いいや! とにかくアウステロン先生達の試合を……見届けないとな!
プロクスはそう意気込んで、簡易訓練場へと急いで戻っていった。
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第四教室からそそくさと抜け出した不審人物――ペルソナは、宮廷兵士専用の宿舎がある区画まで素早く移動すると周囲を警戒し、扉に〈フィーネ・オーティス〉と書いてある部屋の中へと持っていたカギで開けて入っていった。
「はあ……この姿くそ熱いわ……
それに最近この格好も記事の一面を有名になってるみたいだし……」
ペルソナがいつもの棒読みをやめてそう言い、シルクハットとオペラグラスを外しながら寝室の方へと移動する。
シルクハットを脱ぐと、金髪のツンツンした長い髪がばさりと背中に項垂れる。
「全く……今度はもうちょい楽な格好で変装しようかしらね」
なんとペルソナの正体はフィーネ・オーティスであったのだ。
バレバレだろうとも気にしてはいけない。何故ならプロクスは一切気付いていなかったのだから。
「しっかしあいつ、自分よりも強いやつにちょこっとやられただけで
あそこまで落ち込むかしらねえ……ふつう」
実はこっそりと、プロクスとスマラグダが槍同士で模擬決闘している場面を木陰で見守っていたのだ。
「まあ確かにあの怪力娘はヤバい素質あるけどね……」
喋りながらも、パチパチとタキシードのボタンを外して脱いでゆく。
「ああそうだ、一応今回の件を隊長にでも知らせるべきかしらね……
あいつの事気に入ってるみたいだし」
完全に脱いだタキシードを乱暴に床に放り投げて下着だけの姿になったフィーネは、ベッドに体を仰向けになったままドサっと放り投げる。
そのままジッと、何もない白い天井を見上げていた。
「ふう……久しぶりにあいつの顔見ちゃったけど、
相変わらずバカみたいに熱い眼をしてたわね……」
プロクスの燃え盛るような炎の瞳を思い出したフィーネは、体をゾクゾクと震わせる。
「ふふっ……あんたが無事に遊撃団にやってくるのを
あたしはいつまでも待ってるわよ……単純バカ」
そう言って静かに目を瞑った。
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プロクスは第四教室を出ていく途中の廊下で汗だくで気絶したファキアと、彼女に肩を貸したウィリデとアドリビアと鉢合ってしまう。
「おわっ! お、お前ら……?」
「びっくりしたー」
「廊下は走っちゃダメっしょプロクスう」
「あ、悪い……って、それよりもファキアはいったい!」
気絶してぐったりとしたファキアを前にして、プロクスはかなり焦っていた。
「ああー、ちょっと熱くなりすぎちゃってさー」
「ファキアは全然大丈夫だってえ」
「そうか……」
ファキアがどこもケガをしていない事が分かってプロクスは安堵する。
「それよりもプロクスさー」
「さっさと簡易訓練場に戻った方がいいよお」
「ま、まさか先生はスマラグダと――」
「そうねえ、本気で模擬決闘したがってたよお」
「つうこった、ファキアは俺達に任せてお前は早く戻ってスマラグダを
応援してやりなー」
「ありがとな、二人とも!」
プロクスは二人にお礼を言うと、急いで簡易訓練場目掛けて駆け出した。
「いいよお別に」
「気にすんなってー」
駆けるプロクスの背中を、ウィリデとアドリビアは笑顔で空いている手を振りながら見送っていた。




